第55話 調査行7、3日目、3度目の襲撃。
カルヒがオーガの襲撃の中、犠牲となった。わたしはカルヒのために墓穴を掘り、ハーネス隊長とキアリーちゃんがカルヒの亡骸を墓穴の底に横たえた。
わたしはスコップで墓穴に土を埋め戻してやり、盛り上がった土をスコップで叩いて形を整えてやった。
埋葬が終わってみんな横になって休んでいたら、あっというまに朝になった。
昨日の残りのイノシシ肉で朝食を簡単に済ませたわたしたちは、カルヒのリュックの中から堅パンだけを取り出しておいた。堅パンは当然わたしのアイテムボックスに入れている。あとの荷物はリュックごとその場に置いて出発した。
もちろんオーガの死骸もそのままだ。腐ってしまえば病気のもとになりそうだけど、モンスターが徘徊しているわけだからどこかのモンスターのエサにでもなるだろう。そういう意味ではカルヒの亡骸も掘り起こされてモンスターに食べられてしまうかもしれないけど、どうしようもない。
島に上陸して3日目の今日も1時間進んでは10分休むという2日目と同じペースでわたしたちは東進していった。
魔族の本拠地かもしれない魔族の城跡にこれからどんどん近づいていくと、オーガ以上の強敵が現れる可能性もあるし、単純にオーガの数が増えるだけでも相当な脅威になる。
2日目と同じく、午前中の移動を終えて30分の休憩の後、午後から合わせて4時間移動してその日の移動を終えた。
移動中レーダーマップの端に赤い点が何回か現れ緊張したものの、モンスターの襲撃はなかった。
昨日カルヒが亡くなったこともあり、今日の夕食は簡単にスープで済ますことにした。今日はナキアちゃんとキアリーちゃんが近くで根菜やキノコを探してくるといって、この日の野営地と決めた空き地から林の中に入っていった。
かまどはわたしが作ることになり、ハーネス隊長が薪を集めることになった。4人しかいないのでこれからは4人まとまって食事しよう。と、わたしの方から提案してハーネス隊長は了承した。というか喜んでくれた。
かまどができ上ったころ、ハーネス隊長が薪を山のように抱えて戻ってきた。
その薪をかまどの中で組んでいき、いつでも火を点けられるように準備した。
かまど作業で手が汚れてしまったので、クリンできれいにした後、まな板を取り出し、その上にイノシシの後ろ足を1本取り出した。
後ろ足の骨から肉を削ぎ落していき一塊を残してあとの肉はアイテムボックスにしまっておいた。骨はダシ用に適当な長さに素手で折ってやった。素手で折るのはちょっと無理かなって思ったんだけど意外と簡単にイノシシの後ろ足の骨を折ることができた。自分の怪力を自覚してしまった。横で見ていたハーネス隊長も驚いていた。
まな板の上に残した肉を一口大に切っていった。そのあとデーツを数粒取り出して輪切りにしておいて今できる下ごしらえは終わってしまった。
こっちの準備が一段落して10分ぐらいしてナキアちゃんとキアリーちゃんが帰ってきた。
「イモだけ見つかったのじゃ」
ナキアちゃんが膨らんだ布袋を渡してくれた。
中には例の里イモが入っていた。移動中にもイモの葉っぱだけは目に入ったからイモだけはこの島で豊富に採れるようだ。
軽く水洗いした里イモの皮をむいて水洗いした後ざっくり切って下ごしらえを終えたわたしはかまどに火を点けた。
前回と同じように鍋で肉を炒めてから折った骨を2、3個鍋に入れて水を入れた。鍋が煮立ったらアクを取り、骨を取り出してから里イモを入れて蓋をしておいた。
里イモに火が通るまであと20分はかかるけどみんなおとなしくかまどの上の鍋を見ている。昨日の今日だが平和なひと時だ。
たまに鍋をかき回し、イモに火が通ったか確かめた。
「いいみたい」
アイテムボックスから用意した深皿に肉だくさんスープをよそってハーネス隊長から順に渡していった。
「すまんな」
「ありがとうなのじゃ」
「ありがとう。おいしそー」
みんな黙々と食べ始めた。最後によそったわたしもスプーンので一口すくって味をみてみた。骨を入れたことが良かったようで昨日よりさらに味が良かった。
ナキアちゃんが全員のパンを柔らかくしてやり、みんなが礼を言った。
「どういたしましてなのじゃ」
柔らかくなったパンを手でちぎって、スープに浸して食べると、ナイフで削った堅パンをスープで浸して食べるより断然おいしい。そういえばスープにたまに入っているクルトンってこういったことが元になってるのかも?
空には雲が出ていて星明りがほとんどなく、わたしたちの野営地は真っ暗と言っていいほど暗い。みんな食べ終わって片付けも終わった時には、かまどの下の熾火はとうに灰になっていた。
「今夜は雨になりそうですね」
「そうだな。雨が降る前にマントをリュックから出しておいた方がいいだろう」
「かなり周りは暗いけど、火はどうします?」
「雨が降りだせばどうしようもなくなるし、モンスターの目印になる火をわざわざ焚いておくこともないだろう」
「分かりました」
レーダーマップもあるしナビちゃんも警戒してるので不意打ちはないと思うけれど、真っ暗な中襲われてうまく迎撃できるものなのだろうか?
わたしはモンスターが襲ってこないことを祈りながら、毛布を敷いて横になった。
夜半過ぎ。ナビちゃんの急を告げる声でわたしは飛び起きた。空は雲に覆われて真っ暗だったけど雨はまだ降っていなかった。
レーダーマップの端に赤い点が1つ。その点が比較的ゆっくりとこちらに向かっている。前回同様東からだ。まだ100メートルは距離があるはずだなのに、樹木をなぎ倒すような音が聞こえる。昨夜のオーガでもこの距離ではこんな感じの音はしなかった。オーガよりよほど大きなモンスターなのか?
「モンスターが接近中。数は1。距離は150歩」
わたしの声でみんな飛び起きて迎撃準備を始めた。
わたしもヘルメットをかぶり手袋をはめて、烏殺を取り出しボーナス矢を用意した。
樹木をなぎ倒す音が迫ってきている。距離が50メートルというところでみんなの用意が整った。
ハーネス隊長、キアリーちゃんが前衛。その後ろにキアナちゃん。やや離れてわたし。カルヒがいなくなっただけの昨日の隊形だ。
どういったモンスターがやってくるのか暗がりの中を目を凝らしていたら真っ黒いシルエットの巨大なモンスターが目に映った。モンスターの頭部らしき位置に赤く2つの大きな目と大きな目の横に小さな赤い目が3個ずつ。全部で8個の目だ。蜘蛛なのか?
『おそらくコリンと呼ばれる人魔大戦時に魔族が操ったとされる大蜘蛛です』とナビちゃんが教えてくれた。
『弱点はあるの?』
『分かりません』
『人族が魔族に勝ったわけだからそのコリンを人がたおしたんじゃないの?』
『そのはずですがわたしにはその情報はありません』
ナビちゃんはあくまでナビゲーター。ここでナビちゃんを責めても仕方がない。
巨大蜘蛛が木の幹ほどもある前足で横殴りに木立をなぎ払うと、木立の幹がへし折れた。しかも巨大蜘蛛の前足の先端は鎌のような形をしているうえ鋭くとがっている。無防備状態であの前足の先端で薙ぎ払われたら体が真っ二つになってしまう。
とにかく巨大蜘蛛の赤い目を目印に頭を狙ってボーナス矢を撃ち込んでいこう。
第一射目。巨大蜘蛛の頭にボーナス矢は命中したはずだけど、ダメージを与えたようには見えない。
第2射、第3射。
どちらの矢も命中したはずだけど、巨大蜘蛛の迫ってくる速さは変わらなかった。