第49話 調査行1、初日1、最初の襲撃
砂浜でブーツを乾かしたわたしたちは立ち上がって島の中央らしき方角に向けて歩き出した。
「ハーネス隊長、島の中央にあるという城跡への道は分かっているんですか?」
「ああ、この岸に上陸して真東に進んでいけば到達できる。
真東はこの時期だと日の出方向からかなりズレているから太陽だけでは東に向かって進むことはできないが、方向を示してくれる魔道具を持っている。
これだ」
ハーネス隊長がベルトについた物入れの中から取り出したのはかなりしっかりした作りだったけれど、見た目はまんま方位計だった。
笑いをこらえて真面目顔を作ったわたしは、どや顔でコンパスを見せてくれた隊長にもっともらしいことを言って機嫌を取っておいた。
「ほう。そういった便利な道具があるのですね。さすがは隊長です」
「道に迷うようでは調査も何もできんからな。
海軍ではどの船にも積んでいるらしい。陸軍でも正式に採用してほしいものだ」
コンパスの話をしていたらカルヒが不機嫌そうに出発を促した。
「タイチョー、そろそろ出発しようぜ」
「ああ。わたしが先頭を歩く。一列になって続いてくれ」
わたしたちはハーネス隊長を先頭に、カルヒ、キアリーちゃん、ナキアちゃん、わたしの順で一列になって林の中に進んでいった。
南洋のジャングルだと道を切り開きながら進んでいかなくちゃいけないんだろうけれど、キャンプの時と同じくらいの木や草の密度だったので、苦もなく林の中を進むことができた。魔族の城跡まで片道10日。1日でどれくらい進むことを想定しているのだろうか? 今の移動速度は結構速い。だいじょうぶだとは思うけどナキアちゃんの足はかなり速く動いている。
最後尾のわたしから10メートルくらい先をいくハーネス隊長に、移動中に獲物を見つけた時の対応についてたずねてみた。
「ハーネス隊長ー。食べられそうな獲物を見つけたらたおしてしまっていいですかー?」
振り返ったハーネス隊長から「積極的に狩ってくれ。食料が余る分には問題ない」との返事が返ってきた。
「りょうかーい」
それを聞いたわたしは烏殺だけをアイテムボックスから取り出して左手に持ちみんなの後に続いた。アイテムボックスの中から矢を取り出すのは獲物を見つけてからでも十分間に合う。
レーダーマップの中には黄色い点がそれなりの数見えているので、獲物を狩るのはそれほど難しくなさそうな気がする。
ピクニックではないので歩きながら前を歩くナキアちゃんやキアリーちゃんと雑談するわけにもいかない。仕方ないのでナビちゃんに食べられる根菜やキノコとかを探してもらうことにした。烏殺は邪魔なので結局アイテムボックスにしまっておいた。
意外とイモのような根菜が見つかるので、一番後ろを歩いていることを幸いにどんどん採集していった。掘った根菜はいじらないのが鉄則なので、そのままアイテムボックスいきだ。
根菜を掘っていると遅れるので、小走りになって前をいく隊員たちを追いかける。を繰り返していった。
林の中に分け入って1時間くらい経ったのかな? 時間感覚無くなってくるよね。
『ナビちゃん、いま何時?』
『午前10時20分です』
今日の昼食はないはずなので、あと6時間近く歩き続けることになる。体力には自信があるのでどうってことないけど、これがあと10日近く続くとなると気が滅入るよね。
調査隊は黙々と林の中を進んでいった。わたしだけはちょろちょろと根菜を掘ったりキノコを引っこ抜いたりしてたんだけどね。
いつも意識しているレーダーマップの端に赤い点が3つ。方向はわたしたちが進んでいる方向。そして、わたしたちに向かっている。3つの赤い点の動きは速い。
「ハーネス隊長、前方から何者かが3体向かってきています。おそらく敵です」
「分かった。
全員、リュックを置いて武器を構えろ!」
ハーネス隊長はわたしの言葉を信じてくれた。ちょっとだけ実績もあるからか。
木が邪魔になって前方から迫ってくる敵の姿は見えなかったけど、バキバキとかギーとか木をなぎ倒すような音が聞こえてきた。オーガ?
リュックを置いたわたしはムラサメ丸を鞘から抜いた。
ハーネス隊長は大型ハンマー、カルヒは大剣、キアリーは剣と盾を構えて接近音のする方を睨んでいる。
ナキアちゃんはキアリーちゃんの後ろに立って口をもごもごしていた。キアリーちゃんになにがしか祈っているのだろう。
わたしは3人が前に出ている関係で、少し横によって真空切りの射線を確保した。モンスターが現れたらわたしが初撃を与える。
来た!
立ち木をなぎ倒しながらこちらに向かってくる1匹のオーガが見えた。距離は30メートル。後ろに続いているはずの2匹のモンスター?はまだ見えない。
おそらくわたしの真空切りの射程は10メートル。弓矢で初撃を加えてからでもよかったけどもう間に合わない。
「先に下草を払います!」
下草とか邪魔になりそうだったので、わたしは腰を落として膝をつき水平に真空切りを放った。わたしの声に一瞬だけみんな振り向いた。照れるな。
シャーー!
真空切りの何かが地面の上30センチくらいの高さで開度30度ほどの扇型に下草をなぎ払いながら通り過ぎていった。途中にあった太い木は倒せなかったけど細い木は切り倒してしまった。威力が上がってる?
なぎ払った地面から察するに真空切りの射程は15メートル。頑張ればオーガが射程内に入ってから2撃は放てる。
15メートルラインにオーガが踏み込んだところで袈裟切りに初撃を放った。そのオーガの後ろに2匹のオーガが見えた。
真空切りは先頭のオーガの裸の肩口から胸にかけて赤い筋を作った。少なくとも皮膚は断ち切ったようだけどダメージが入った様子はなかった。少しは痛かったようでオーガはそこで立ち止まり大声で吼えながら地団駄を踏んだ。
オーガが無意味に立ち止まってくれたことでオーガに向けて後2回は真空切りを放てそうだ。オーガは立ち止まってはいても体は動いているわけだし同じ傷口に命中することはまずないと思ったけれど、2撃目は同じ方向で袈裟切りに真空切り放ってやった。
運が良かったようで、2撃目の真空切りは半分程度最初の切り傷の上に重なって命中した。オーガの皮膚は硬いけれど肉はそれほどでもないので、真空切りの重なった部分の肉は深く切り込まれ、肉の下に隠れていた動脈を断ち切ったらしく血がすごい勢いで裂けた傷口から吹き出してきた。
オーガは立ち止まっていてはじり貧だと気付いたようで、血を吹き出しながらこちらに向かってきた。そしてわたしは第3撃の真空切りを放った。狙いはオーガの大きく割れた傷口だ。
第3撃目は狙いたがわずオーガの傷口に命中した。心臓辺りまで断ち切ったようでそのままオーガは前のめりになって倒れてしまった。
後ろの2匹のオーガは15メートルほど離れたところでなぜか立ち止まっている。オーガって頭が悪いのだろか?
わたしは並んで立っていた2匹のオーガに向かって真空切りを放った。今度は水平にして2匹の首を狙ったものだ。
これもうまく命中して、2匹のオーガの首に傷を付けた。それで怖気づいたのか2匹は後ずさりしてそして踵を返して逃げ出していった。
その後システム音がレベルアップを告げた。
『経験値が規定値に達しました。レベル16になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。知力が+1されました。体力が+1されました』
みんながわたしのことを褒めてくれているあいだステータス確かめたところ、こんな具合になっていた。
レベル16
SS=13
力:21
知力:16
精神力:14
スピード:24
巧みさ:28
体力:30
HP=300
MP=140
スタミナ=300
<パッシブスキル>
ナビゲーター
取得経験値2倍
レベルアップ必要経験値2分の1
マッピング2(59パーセント)
識別2(46パーセント)
言語理解2(76パーセント)
気配察知1(72パーセント)
スニーク1(39パーセント)
弓術3(12パーセント)
剣術5(98パーセント)
<アクティブスキル>
生活魔法1(17パーセント)
剣技『真空切り』