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第48話 ウニス・ウニグ島上陸


 王都を出港して9日目の夕方。陸地が見えてきたと船員たちの声が夕食を終えたわたしたちの船室まで聞こえてきた。


 3人で船室を出て船べりに立って陸地が見えないか眺めたけれど何も見えなかった。マストの上の見張り台からじゃないとやっぱり見えないみたいだった。船員に頼めばマストに上ることもできそうだったけれど、そこまでして見たいほどのものでもなかったので、また船室に戻ってハンモックに揺られた。そして知らないうちに眠っていた。


 まさに食っちゃ寝の生活だけど自分的にはしなやかな体を維持していると思う。ナキアちゃんとキアリーちゃんもわたしと同じ生活なんだけど、二人もぽっちゃり体型に移行していない。


 真夜中目覚めたら、何だか静かだ。船が波を切る音が聞こえてこない。停船しているみたい。


 ハンモックから降りたら船はわずかに揺れてはいるけれど傾いているわけでもなかった。久しぶり。


 船窓を開けたら、500メートルくらい先に月明かりの中で白く波打ち際が見えた。波打ち際の向こうは陸地が黒く広がっていた。


 わたしが起き出して窓を開けたりしたからか、ナキアちゃんもキアリーちゃんも起き出してきて3人で窓の外の暗い陸影をしばらく眺めていた。


「夜が明けたら上陸じゃな」


「船旅も飽きてきたところだったし、ちょうどよかったね」


「飛竜が襲って来た時はびっくりしたけれど、大したことなかったし、結局順調な船旅だったね」


「飛竜が大したことはなかったのはシズカちゃんがいたからなのじゃ。

 シズカちゃんがいなければ、苦戦したじゃろうし、討ち取ることに手間取っておれば、船の上はメチャクチャになっておったと思うのじゃ」


「そうだったね。翌朝にはすっかり元通りになってたものね」


「朝も早いから、もう少し寝ていよ」


「そうじゃな」


「うん」




 翌早朝。


 朝食を食べながら、ハーネス隊長から次の八点鐘(8じのかね)でボートに乗って上陸すると告げられた。ボートは船員が漕いでくれるそうでわたしたちは30日分のパンをリュックに詰めてボートに乗り組むだけでいいようだった。


「パンはどこに取りにいけばいいんですか?」


「もう船室に届けられているはずだ」



 食事を終えたところで、カンカン、カンカン、カンカン、カンと鐘が7回なった。七点鐘(7じはん)だ。



 八点鐘しゅっぱつまで30分しかない。


 船室に戻ったら部屋の中に布袋が3つ置いてあった。袋の中を見ると堅パンが入っていて一番上に乗っかっていた油紙の中には岩塩の塊が入っていた。堅パンはちょっと大きい。


「これって一つ一つがキャンプの時の堅パンより大きいよね」


「一日2食で1個ずつじゃないかな。全部で60個入ってると思う」


「これ一つ食べたらお腹いっぱいだね」


「任務を終えて帰って来た時にこのパンだけはだいぶ残っていそうなのじゃ」


「堅パンといっても食べる時にはナキアちゃんに祈ってもらえば柔らかくなるんじゃない?」


「試してみるのを忘れておったのじゃ。1つだけ試してみるのじゃ」


 ナキアちゃんが堅パンを一つ袋から出して手に持って何やら口を動かした。そして、堅パン握った手に力を入れた。


「うおー、柔らかくなっておるのじゃ。

 これなら手でも簡単にちぎれるのじゃ」


 ナキアちゃんはホントに堅パンをというか今となっては柔らかくなったパンをちぎってしまった。


「これはすごいことなのじゃ。食生活がいっきに改善するのじゃ」


「ほかにもいろいろ食料は用意しているし、食事については楽勝じゃない? ヘビの肉もカエルの肉もまだあるよ」


「ヘビとカエルは本当の意味で非常食じゃな。

 マトモな獲物をシズカが仕留めてくれることを期待しておくのじゃ」


 獲物が見つかりさえすれば何とかなると思う。でも目の前の島にはそういった獲物がいるんだろうか? 大きな木が立ち並ぶ林の中を進むわけだから、飛竜はそうそう襲ってこないだろうし。



 わざわざ数を数えないまま堅パンの入った布袋をリュックに押し込んだ。力を込めてリュックに押し込んでもパンが潰れないところが悪い意味で堅パンが堅パンたるゆえんだな。


[リュックに入っているもの]

 小型の鍋

 鞘に入った大き目のナイフ、金属製のフォークとスプーン

 金属製のコップ

 毛布×2

 手ぬぐい代わりの布×4

 ロープ、紐、布袋

 油紙に包まれた岩塩の塊

 やや大きめ堅パン×60個(1日2食×30日分)


 わたしのアイテムボックス内にはこの前買った金網などの台所、食堂用品、消耗品として塩、コショウ、干し肉や干し魚、干し果物、煎った木の実、イノシシ肉や鹿の肉、そしてヘビとカエルの肉が入っている。



 集合時間までまだ10分くらいあったけど準備を整えたわたしたちはパンでパンパンに膨らんだリュックを背負って上甲板じょうかんぱんに出ていった。


 上甲板にはリュックを背負ったハーネス隊長とカルヒが立っていた。


 船上では船員たちがロープと滑車を使って船べりに吊るしてあったボートを海上に下している最中だった。


 陸地を見ると森が岸辺からかなり先に見える山並みまで続いていた。





 カンカン、カンカン、カンカン、カンカン


 鐘が8回鳴らされた。わたしたち5人は甲板の上に整列した。


 艦長以下ペイルレディ号の艦の幹部が船の後ろの方から現れ、整列したわたしたちの前に並んだ。


 ハーネス隊長が代表して簡単に礼を言った。


「ありがとうございました。これより調査隊はウニス・ウニグ島に向かい、魔族の調査を行ないます」


「任務が無事達成できるよう祈っている」


「はい!」


 リュックを背負ったわたしたちは舷側の網を伝わって水面に浮かぶボートまで下りていき適当なところでボートに飛び乗った。



 ボートには先に乗り組んでいた船員4人のうち船側のオールを操る船員がオールを『ペイルレディ』の舷側に押し当ててボートはゆっくり『ペイルレディ』から離れた。十分離れたところで4人がオールを漕いでボートは陸地に向かった。海面には波はなくボートはほとんど揺れなかった。



 砂浜に乗り上げたボートから降りたわたしたちは、くるぶしまで海水に浸かった。ブーツの中に海水が入ってきて非常に気色悪い。


 わたしたちを運んでくれた船員たちもボートから降りそこでボートを180度ターンさせて、沖に向かって押していき、ボートが浮いたところで飛び乗った。岸から離れていくボートに軽く手を振りわたしたちは水際から岸に向かって歩いていった。



 先頭に立ったハーネス隊長が砂浜の上で立ち止まった。


「塩水で濡れて靴擦れが怖い。

 靴を脱いでクリンで乾かしてから林の中に分け入ろう」


 レーダーマップの中に赤い点が見えたら警告しなければと思っていたけれど、黄色い点が見えるだけで赤い点は見えていない。


 みんな砂浜の上に腰を下ろして脱いだブーツをひっくり返して中に入っていた海水を捨てクリンをかけて乾かした。


 精鋭調査隊の出足が砂浜の上で裸足になって寛いでいるわけだから、何となくほほえましい。




ここまでは楽勝ムードで比較的穏やかな展開でした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] きっと1日に一回くらいリュックの中にクリンかけてるんやろなぁ、そしたらかびることにはなり難口なるのかなぁ
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