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第44話 フリゲート『ペイルレディ』2、海は広いな大きいな


 わたしたち調査隊の5人は、ベルナーさんに艦長食堂に案内された。


 ナビちゃんに時刻を聞いたら午後3時だった。昼食ならかなり遅い昼食だけど、船の中って朝昼晩3食食べているのか分からないものね。おそらく朝夕2食なのだと思う。


 艦長食堂には艦長以下3人が席に着いていた。艦長は座ったままだったけど、残りの2人が順に席から立ち上がって階級と名まえだけの簡単な自己紹介をしてくれた。ここで自分の趣味などを言えば艦長に怒られたと思う。


「副長のヤンセンです」


「航海長のガウルです」


 そのあとわたしたちはハーネス隊長から順に名まえだけの自己紹介をした。


 ただ、ナキアちゃんだけは有名だったようで、先方から反応があった。


「ナキア殿はもしやカディフの聖女ナキアさま?」


「わらわはたしかにカディフ出身じゃし、そのようにも呼ばれておるようじゃな」


「なんと。聖女ナキアさまがこの『ペイルレディ』に乗艦しておられるとなると心強い」


 艦長以下3人でしきりにナキアちゃんのことを持ち上げた。ナキアちゃんは聖女さまだったのか。祈りだけで病気やけがを治せるんだもの聖女と呼ばれるのは当然と言えば当然か。


 艦長さんたちは気付いているかどうかわからないけれど、ナキアちゃんがその気になれば風も操れるんじゃないかな? 行きは10日、帰りは20日を予定しているという船旅だけど、帰りの船旅はかなり時間を短縮できるような気がする。


 この船は単艦だけど、ナキアちゃんがその気になれば、10隻や20隻の船の動きを良くすることも可能なはず。これは海に限ったことじゃなくって陸の上だった同じだ。ナキアちゃんの祈りで無敵の軍隊ができ上がる。


 そんな聖女ナキアちゃんをこんな任務とは失礼だけど、この任務に駆り出したということは相当重大な任務ということなのか、国がナキアちゃんの価値を精確に把握してなかったことからの暴挙なのか? わたしにとってはナキアちゃんがいてくれることは実に頼もしいことなんだけど、国としてナキアちゃんの価値が分かっていなかった可能性が高そうな気がする。


 みんなが席に着いてしばらくして、中学生くらいに見える少年が大きなトレイを持って食堂に入ってきた。少年はトレイから各人のテーブルの上に水の入ったかなり大きなコップを置き、ナイフとフォークとスプーンも置いて部屋を出ていった。そのあと別の少年が左右の手にプレートを一つずつ乗っけてハーネス隊長とカルヒの前に置き部屋を出ていった。2人の少年が入れ代わり立ち代わりプレートを各人の前のテーブルに置いていきみんなの前に料理が揃った。


「それでは頂こう」とフライ艦長。




 プレートの上には肉とイモ、小さな深皿おわんにスープ、それに丸パンが乗っかっていた。量的にはたぶん多くない。海の男はもう少し大食いと思ってけど、限られた船の中で大食いが推奨されるわけじゃないものね。



「肉はどうかね? 今日は歓迎会を兼ねているので新しい肉をお出ししたが、明日の朝からは塩漬け肉だから覚悟しておきたまえ、ハッハッハ」


 今日だけ特別だったのか。塩漬け肉ってどんな味なんだろう? 少しだけ興味があるけれど、もし塩辛すぎたら食べられない。そこまで塩辛くないことを祈るしかないか。


 まてよ、ナキアちゃんが祈れば塩が抜けるかも? 重さを軽くできることに比べれば塩抜きなんて難易度は相当下がるはず。持つべきものは聖女のお友達だね。


 水を飲もうとコップを手に取ったら、水ではない匂いがした。お酒じゃん。ディナーだもんね。横を見るとナキアちゃんとキアリーちゃんはもう飲み干していた。わたしも大きなコップとはいえコップ一杯のお酒では物足りない。お酒買っておけばよかったー。


 わたしたち3人とカルヒの4人は黙々と食事をしていたけれど、われらがハーネス隊長はフライ艦長や他の二人と無難な話をしてくれていた。ありがたいことだ。


 食事が終わりわたしたちは船室に引き上げた。まだ外は明るいけれど、船室の中は暗い。船窓がないから仕方ないと思っていたら、四角い窓枠のような枠が数カ所ちょっと斜めになった壁に取り付けられていた。枠の中の下側には取っ手のようなものが付いている。どう見ても窓なんだけど、どうやって開けるのか分からない。


「これ窓だと思うんだけどどうやって開けるか分かる?」


「取っ手のようなものが下についておるから、その取っ手を持って押すか引くかするのではないか。引いた場合船が狭くなるわけじゃから、押し開きではないかな」


 確かに。ただでさえ狭い船の中で内開きにしたら狭くなるもんね。雨が降ることを考えたら、窓は上側を支点にして下側が開くはず。取っ手も下にあることだし。さすがは聖女さま。


 わたしは取っ手に少しずつ力をかけて押してやった。見た目は華奢でも怪力女なので手加減しないとね。もしも力が余って窓が海に落っこちたら怒られるくらいじゃ済まなそうだもの。


 なので、少しずつ力を込めていったら、スポッと板が抜けて、窓が開いた。船の外側に蝶番が取り付けられていたみたい。


 青い海が見えた。陸地はどこにも見えず水平線が見えた。海は広いな大きいなを体感できた。風が窓から入って気持ちいい。


「どれどれ。

 ほう。海がどこまでも続いておるのじゃ。風が気持ちいいのじゃ」


「どれどれ。

 ほんとだ、風も気持ちいいし、海もきれいだなー」


 窓を支えているわたしの前にナキアちゃんとキアリーちゃんが割り込んで大海原の景色を眺めている。


 二人ともすごく気持ちよさそうにしてるんだけど、この窓ずっと手で開けていないとダメなんだろうか?




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