第40話 精鋭調査隊12、訓練中止、撤収。
ブランチの後片付けをしたわたしたちは午後馬車が来るまで毛布を敷いて仮眠することにした。
この世界に来るまでのわたしは明るい中で眠るのは苦手だったんだけど、今はいつでも簡単に眠ることができるようで、目を閉じたかと思ったら、ナキアちゃんに起こされた。見ればキャンプに馬車が到着していた。急いで体全体にクリンをかけて毛布をリュックにしまったわたしはナキアちゃんたちと一緒に馬車に乗り込んだ。
馬車の中にはカルヒが一人乗っているだけで、やはりジゼロンおじさんは乗っていなかった。
最後にハーネス隊長が馬車に乗り込んで馬車は動き出した。
馬車の中での席順。
カルヒ キアリー
前方
わたし ナキア ハーネス隊長
目の前にカルヒが座っているのでちょっと嫌だったけれど、カルヒは目を瞑っておとなしくしていたのでそういう意味では助かった。とは言うものの、わたしたち3人も馬車の中では何もすることはなかったのでリュックを膝の上に抱いて目を閉じておとなしくしていた。
2時間ほど馬車に揺られて到着したのは近衛兵団の訓練場だった。予想通りだけどね。おそらくここで出発の日まで寝泊まりするのだろう。
リュックを持って馬車を降りたわたしたちは、ハーネス隊長の後について、兵舎の方に歩いていった。
兵舎の中に入ると、従兵?がハーネス隊長を迎えてくれ、ハーネス隊長がわたしたちを部屋に案内するよう従兵に指示した。
「わたしは荷物を置いたら、宮殿に今回の件を報告に行くので、皆は部屋でゆっくりしててくれ。わたしが戻ったら従兵を部屋にやって知らせるから、会議室に集合してくれ」
そう言って、ハーネス隊長は兵舎の中を歩いていき、わたしたちは従兵の後をついていった。
「女性のみなさんはこちらの部屋で、男性の方は、こちらの部屋で寛いでください」
そう言って従兵は帰っていった。
わたしたちが案内された部屋は、2段ベッドが2つとクローゼット、それに小さなテーブルに椅子が4つあるだけの部屋だった。部屋の壁には兵舎の中の案内図が貼ってあった。
防具を脱いで片付けたわたしたちはテーブルの席に着いて休憩モードに入った。
「暇じゃのー」
「だね」
「馬車の中で半分寝てたから、今さら横になる気もしないし」
わたしたちがブツブツ言っていたら、部屋の扉がノックされた。
『お茶をお持ちしました』
先ほどの従兵の声がしたので、扉を開けてあげた。
「ありがとうございます」
従兵はトレイの上に3人分のお茶を乗せて部屋の中に入ってきてテーブルの上に置いて出ていった。
「街に出て買い物したいよね」
「船に乗ってしまえば何もできんしのう」
「今回の野営訓練で足りなかったものを準備しておきたいよね。ナキアちゃんいくら持ってる?」
「わらわは、こたびは金貨10枚しか持ってきておらん。キアリーちゃんはいくら持っておる?」
「わたしも同じくらい。
シズカちゃんは?」
「足りなくなるようなら任せなさい。たくさん持ってるから」
「おうー。頼もしいのじゃ」
「シズカちゃん頼りになるー」
「買いたい物というと、わたしが欲しいのはまな板と木のお皿、それに追加の干し果物と木の実くらいかな」
「そう言われれば、大したものが欲しいわけでもなかったのじゃ」
「そうだった。船を下りたらひと月も歩き回るわけだから、あんまり重たいものは持っていかない方がいいもんね。お酒があればいいけどお酒は重いし、あのキノコがあるからあれで十分だもんね」
「酒は行きの船の中で全部飲んでしまえばよいのではないか?」
「そうだね。濃いお酒を2、3本買っておこう」
「となると、つまみに乾燥肉くらい欲しいのー。干し魚でもよいが少し生臭くなるからのー」
だんだん話があらぬ方向にズレてきてしまった。
「買い物の前に、大カエルとヘビ肉を処分せねばなるまいな」
「隊長に渡しそびれちゃったものね。
ここの賄に上げて、近衛兵団の中で病人が出たら大変だし」
「ちょっと、どうなっておるか見てみるのじゃ」
ナキアちゃんがクローゼットの中にしまった自分のリュックを持ちだして、紐をほどいて中から布袋を取り出した。
「臭いはまだないのじゃ。これならまだまだだいじょうぶ。のはずじゃ」
「でも、ここじゃあ、勝手に焼けないしどうしようもないよ」
「非常用の食料ということでわたしのアイテムボックスの中に入れておくよ」
「それなら安心じゃ」
「だね。そしたらわたしのリュックの中に入っているのもお願い」
二人から渡された布袋をアイテムボックスの中にしまっておいた。確かにどちらの布袋も臭いはしなかったけれど、ずっしり重たかった。非常食を食べる状況なら文句を言わずに食べるでしょ。でも火がないと生食? だいじょうぶかな? ナキアちゃんがいるから何とかなるのかな?
1時間ほど3人でおしゃべりしていたら、扉がノックされた。
『ハーネス隊長が会議室でみなさんをお待ちです』
「はい」
わたしたちは従兵に案内されて会議室に移動した。カルヒも一緒だった。
4人で案内された部屋に入ると、ハーネス隊長がテーブルの端に座っていて、わたしたちに席に着くよう言った。
わたしたちは3人並んで座り、向かいにカルヒが座った。
「王宮に赴いてオーガがフォルジの森に現れたことと、シズカたちがたおしたこと、そして何者かによってオーガの魔石が持ち去られたことを報告してきた。
ジゼロンが行方不明であることはまだ報告していない。
キャンプの天幕にこの宿舎に来るようメモを残しているので、大事に陥っていなければ現れるだろう。
ジゼロンが参加するしないに関わらず、3日後にわれわれは海軍のフリゲートに乗船しウニス・ウニグ島に向かう。
明日、明後日は自由時間とする。兵舎の食堂の利用は自由だ。街に出て重くならない範囲で必要なものを購入するもいいだろう。訓練場を出るときは門衛に一言声をかけてくれればそれでいい。
本番で持参するリュックは、堅パンを1カ月分各自が持参する関係で、今までのものと比べ一回り大きくなっている。
外出した場合、明後日の日没までにこの兵舎に戻ってきてくれ。そのときもちゃんと門衛に一言言ってくれよ。
では各自に軍資金を渡しておく」
小袋をハーネス隊長が4人に渡してくれた。
「羽目を外さぬようにな。
以上」
ということで、会議は終わった。小袋の中には金貨が10枚入っていた。予定では訓練キャンプからフリゲートへ直行だったはずだから、今回貰った軍資金はハーネス隊長が王宮で交渉して手に入れてくれたものなのだろう。できる上司はありがたい。