第31話 精鋭調査隊3、訓練1
体力測定のような調査隊の採用試験?に無事合格した。ターナー伯爵の面目が立ったということなので一安心だ。これで王都邸の中庭に飾ってあったガーゴイル像も浮かばれるだろう。
王都邸への帰りの馬車の中で、ゲランさんが先ほどの試験のことで驚いていた。
「シズカさん、わたしはあの大きなリュックを背負って走ることが調査隊員に求められると聞いて無理と思いました。それがシズカさんは難なくアレを背負って駆けだし、しかも2時間も走り通したわけですから、もう言葉もありません」
「力と体力は自慢なんです」と、返事しておいた。脳筋なんですと言っているようなものだけどね。
「シズカさん、明日以降のことで用意するものはありませんか?」
「たいていのものはアイテムボックスの中に入っているのでだいじょうぶです」
3カ月分の荷物を背負って歩き回るのだろうから、先ほどの採用試験にも納得できる。90日分の食料ってどれくらいになるのか見当もつかないけど、相当なもんだよね。
王都邸に戻ったわたしたちは着替えた後、遅い昼食をとった。わたしは与えられた部屋に戻って、ベッドの上に寝転がって明日以降のことを真面目に考えてみた。
まず調査隊のメンバーだ。わたしはハーネス隊長しか知らない。調査隊の規模も分からない。明日になれば分かるのだろうけれど、こんなのでいいんだろうか? この世界じゃ親切にオリエンテーションとかないんだろうから、これが普通なんだと思うしかない。
次はアイテムボックスだ。今のところ空いている容量は100キロを超えている。これを申告するかどうかだ。今日背負ったリュックくらいならどうってことないから黙っていた方がいいだろう。今のところメンバーに対してそこまでの義理はないし。メンバーだってあの試験を乗り越えたんだろうし。わたしってちょっと冷たいかな?
ベッドの上に寝っ転がってたら、夕食が食べられなくなりそうなので、素振りでもしようと裏庭にでたら、庭の真ん中で粉々になったガーゴイルの残骸は台座ごと片付けられていた。台座もボロボロだったしね。
これで心置きなくムラサメ丸を振り回せる。
わたしは華麗に『胡蝶の舞』を舞い、エアモンスターをバッタバッタとたおしていった。基本は首チョッパだ。
いい気になっていたら、顔がニヤついていた。危ない、危ない。調査団の訓練でニヤニヤ笑っていたら何人いるのか分からないけどほかのメンバーから、悪い意味で熱い視線を浴びてしまう。われを忘れちゃだめだ。
いい汗をかいたところで、軽く汗を拭いてクリンでさっぱりした。
夕食時、ゲランさんがわたしに、明日以降のことを話してくれた。
「明日、シズカさんを近衛兵団の訓練場に送ったら、わたしは一度ブレスカに戻ります」
それはそうだよね。
「調査が終わったあと調査隊がそのまま解散するのか、引き続き活動するのか分かりませんが、わたしは3カ月後にこの王都邸に戻っています」
「了解しました」
わたしはその夜、下着などの衣類をアイテムボックスから出して布袋に詰め替えておいた。
翌日早朝。朝の支度をしたらすぐ朝食になった。そしてわたしとゲランさんは馬車に乗って近衛兵団の訓練場に向かった。
訓練場前に停まった馬車の中でゲランさんに、最後のあいさつをした。
「行ってきます」
「ご無事を祈っています」
わたしは衣類の入った布袋とムラサメ丸を手に持って馬車から降りた。わたしを送ってくれた馬車はゲランさんを乗せて帰っていった。
門前には1台の幌馬車が停まり、ハーネスさんが革鎧を着て立っていた。大きなハンマーを手にしていた。
「おはようございます」
「おはよう。
馬車に乗ってくれ」
幌馬車の後ろから乗り込んだ。幌馬車の中には長椅子が向かい合って2列に並んでいて、そこに腰を下ろすようだ。一番奥に木箱が何個か積んであったので、わたしとハーネスさんはその手前で向かい合って座った。
「ここから調査団が訓練しているフォルジの森のキャンプまで2時間かかる」
「はい」
馬車に揺られるのは慣れてはいるけれど、おじさんを正面に見ながらの2時間か。
「今回の調査のスケジュールを教えておこう。
今日を含めてあと5日間訓練をする。
訓練が終わった翌日、馬車でディナス港まで移動し、港から海軍のフリゲートに乗船する。向かう先はウニス・ウニグ島だ。大戦時魔族の一大拠点があった島だ」
大戦というのは、人族が魔族と戦い魔族に勝った人魔大戦のことだろう。
「ウニス・ウニグ島へはこの季節だとだいたい10日で到着する。フリゲートのボートで上陸後、島の中央にある魔族の城跡を目指す。そこまで徒歩で10日を予定している。城跡の状況を確かめたらそこで引き返す。
島内での移動中モンスターは当然だが、魔族と遭遇する可能性がある。可能なら生かしたまま魔族を捕獲したいが、まず無理だろうし無理をするつもりはない。
海軍のフリゲートは最長で30日間島の沖合に停泊してわれわれの帰還を待ってくれることになっている。帰りの船旅は20日と思ってくれ」
「了解しました」
「何か質問があるか?」
「調査団のメンバーは何人なんですか?」
「きみとわたしを含めて6人だ」
意外と少ないんだ。
「少数精鋭と言えば聞こえはいいが、使える人間がこれだけしか集まらなかったということだ」
あの試験に合格するのは、普通じゃ無理だもの。そう考えれば6人でもすごいことかもしれない。
2時間後、馬車はキャンプに到着した。
「ここがキャンプだ」
林の中に開かれた空き地の真ん中に天幕が一つ張られており、馬車はその前に止まった。空き地には兵士が2名ほどゆっくり歩いて警戒していた。なぜか空き地の数カ所にわたしが林の中で作っていたような簡易かまどが何個か見えた。
「悪いが荷物を降ろすのを手伝ってくれ」
ハーネスさん、あらためハーネス隊長が一番大きな木箱の上にハンマーを置いてそのまま木箱を抱えて馬車を降りた。わたしは残った木箱の内大きな方を持ち上げて馬車を降りた。
最後に残った木箱は御者のおじさんが降ろした。
何が入っているのかは分からないけれど、野営用の食材か何かだろう。
ハーネス隊長が天幕の前に木箱を置いたのでわたしはその上に木箱を置いた。
「すまんな」
「いえいえ」
「この木箱の中身がシズカ用の装備になる。開けてみてくれ」
ハーネス隊長が指さした一番小さな木箱の蓋を開けたら、中に小型の鍋と革の鞘に入った大き目のナイフと金属製のフォークとスプーン、金属製のコップ。油紙に包まれた小さな包みを開けたら岩塩の塊が出てきた。コショウは探したけれど見つからなかった。コショウは生きていくうえで必須じゃないものね。
あと箱に入っていたのは、じょうぶな紐が数本に、ロープの束。フード付きのマントが1枚に毛布が2枚、革袋が1枚に布袋が4枚。タオルというか手ぬぐいが4枚。箱の底には試験で使ったのと同じリュックが入っていた。
サバイバルキットってところなんでしょうが、わたしが神さまからもらったスターターパックのキットの方が格段にものがいい。だからと言ってそれは人前じゃ使えないよね。
「野営なのでその鍋とナイフで自炊だ。食料はパンだけだが天幕の中にある。
リュックの中には箱の中身全部ときみが持参した衣類を入れてそれを背負って森の中をめぐって食材などを集めることが訓練内容だ」
なんだかわたしの林の中での縄文生活とあまり変わらないような。パンだけは用意されている分ハードルが低い?
「どうだ。少しおじけづいたか?」
「ま、まあ」
かなりチョロそうな訓練内容に安心しました。とは答えられないものね。
「安心しろ。今日も含めてあと5日しかないが、5日も訓練すればちゃんと慣れる」