第25話 王都行き3、追い剥ぎ(ハイウェイマン)
少し残酷かもしれません。
馬車に揺られ揺られて移動3日目。今日も天気がいい。
街道脇の広場で昼食を取り、午後からの移動が始まった。30分ほど馬車に揺られていたら、レーダーマップに赤い点が3つ、黄色い点が9つ前方に現れた。
「おじさん、前の方に何かいる。おそらく敵だから、止まってくれる?」
馬車の中から大きな声で御者のおじさんに声をかけた。
すぐに御者のおじさんは馬車をその場で止めてくれた。
『馬車が街道を外れて停まっています。
剣で切り合いをしています!』
自動車での行き来が基本の現代日本ではお目にかかることはまずないと思うけれど追い剥ぎ(ハイウェイマン)が馬車を襲って馬車の人と戦っているようだ。あっ! 黄色い点が2つ立て続けに灰色に変わって見分けがつかなくなった。
「ゲランさん。馬車の中にいてください」
わたしはゲランさんに馬車の中にいるよう一言言って馬車を下りた。
アイテムボックスから烏殺と武器屋で買った矢を1本取り出した。追い剥ぎまでの距離は約80メートル。こちらの馬車が急に止まったせいか、向うの方からこっちに2人近づいてきた。レーダーマップの黄色い点のうち5つは馬のようだ。その馬を含めて7つの黄色の点に動きはない。
まだだいぶ遠いけど前を歩く男に烏殺で狙いを付けてみた。今まで使っていたボーナス矢の時と違い、かなり照準の丸が大きい上安定していない。そう考えるとボーナス矢が優れた矢だったということだろう。名まえはアレだけど神さまからもらった矢だし。
相手が追い剥ぎだとして、簡単に射殺してしまっていいのだろうか? さらに言えば、こっちに向かってくる男はレーダーマップを持っていない人から見れば危険な敵だということなど分からない。最悪わたしが殺人者ということになってしまう。
そうする? シズカ。前の男までの距離は50メートルを切っている。そこでもう一度照準して見たら、照準も安定し男の体が照準の丸印からはみ出した。ここで左手を離せば男をたおせる。
男はわたしが弓を持っていることに気づき回れ右して走り出した。後からついてきた男も回れ右して逃げ出していった。
このまま逃げていくならたおさなくてもいいか?
そう思って男たちが退散していくのを見ていたら、その先の馬車の位置で待機していた3人目の男と合流して3人揃って馬に乗りこっちに向かってきた。
馬に乗っていれば矢に当たりにくいかもしれないけど、やっぱり当たるよね。
わたしは覚悟を決めて、烏殺で狙いを付けて第一射を放った。距離は70メートル。やや遠いし的は揺れていたので外れるだろうなと思ったけど、運よく矢は男の右胸に命中し男はそのまま落馬した。命中個所は致命傷を与えるような場所ではなかったはずだったけど、後ろを駆けていた馬に落馬した男は踏まれてしまった。レーダーマップ上では赤い点から黄色の点に変わった。生きてはいるようだ。
アイテムボックスから2本目の矢を取り出して2人目の男に狙いを付けて矢を放った。
距離は50メートル。今度は命中確実だ。
わたしは矢が的に到達する前に3本目の矢をアイテムボックスから取り出した。3本目の矢はボーナス矢だ。
2射目は二人目の男の胸の真ん中に命中し、男は同じように落馬した。二人目の男を表していた赤い点は灰色に変わった。わたしはとうとう人を殺したわけだけど、アドレナリンが出ているせいか何もそのことに関して感じることはなかった。
3人目に突っ込んでこられたら射撃のタイミング的に厳しかったが、最後の男は馬を反転して逃げていった。わたしは逃げていく男の背中に向けて矢を放った。
男は背中の真ん中にわたしの矢を受けてそのまま落馬して赤い点から灰色の点になった。わたしは烏殺をアイテムボックスにおさめた。
男たちの乗っていた馬は乗り手を失って3頭ともその場で留まっている。
馬車の中から一部始終を見ていたゲランさんが馬車から降りてきた。
「3人たおしたんですね」
「一人はまだ生きています。行ってみましょう」
二人で落馬した男たちのところに向かっていった。御者のおじさんは気を利かせてわたしたちの後をゆっくり馬車を進めた。
一番近い男の胸に刺さった矢は落馬して何度か転がっているうちに折れてしまっていた。
「男の死体はどうします?」
死体は2人分。前方の馬車の近くにも死体はありそうだ。アイテムボックスの中に一人分の死体は収納できそうだけど二人分の死体は無理だ。
「追い剥ぎの類でしょうから懸賞金が出るかも知れません。首を切ってしまえば馬車に積めます」
首チョッパか。ゴブリンの首チョッパなんかどうってことなかったけど相手は人間。ちょっと嫌だけど、懸賞首が討伐されたことを知らせることは必要なことのような気もする。
「頭だけならわたしのアイテムボックスに収納できます」
ということでわたしはムラサメ丸をアイテムボックスから取り出して鞘から引き抜き、男の髪を掴んで頭を持ち上げ、片手でムラサメ丸を振り抜いて首を斬り落とした。のこぎりのようにして切り取らずに済んでラッキーだった。切り落とした頭はもった感じ10キロもないようですぐにアイテムボックスにしまった。
首のなくなった死体を街道の真ん中に置いておくわけにもいかないので街道の外まで運んで、そこに置いておいた。追い剥ぎが襲撃した馬車から奪ったものを懐に持っていないか男の衣服を探ったところ、内ポケットからかなりのお金が入った袋を見付けたのでアイテムボックスにしまっておいた。
簡単に首を切り落としたわたしの腕前にゲランさんは驚いていた。それでもゲランさんは道端でじっとしていた馬の手綱を引いて後ろからついてきている御者のおじさんに手綱を渡した。おじさんは御者台の板を上げて中からロープを取り出して馬車の後ろに括り付け、反対側を追い剥ぎの乗っていた馬の鞍に結び付けた。
次は3人目の男。ボーナス矢は背中から胸にかけて貫通していた。運が良かったのかボーナス矢が強靭だったのか、ボーナス矢は無事だった。矢じりを外して簡単に回収できたが曲ってもいなかった。クリンできれいにした後アイテムボックスにしまっておいた。
この男の首もその場で切り落としアイテムボックスにしまった。同じように首のなくなった胴体は街道の外まで運んでそこにおいてやった。男の懐を探ったところ、この男も小袋のなかに金を持っていたけど、中身はそれほどでもなかった。馬車から奪った金は最初の男が持っていたのかもしれない。この男の馬も御者のおじさんの手で最初の馬と同じようにわたしたちの馬車の後ろにロープで繋がれた。
そして最後の男。まだ息はあるみたいだけど手足はあらぬ方向に曲がっているし瀕死だ。男の右胸に刺さった矢は折れていた。普通は折れるよね。
男に対して尋問もできそうになかった。一緒についてきているゲランさんがわたしに向かって「ひと思いに死なせてやる方が情けでしょう」と言った。
確かに。
わたしは今までの二人と同じように男の髪を左手で掴んで頭を持ち上げ、右手のムラサメ丸で男の首を刈った。
男はまだ生きていた関係で一度血が切口から噴き出したがその量は多くはなかった。わたしは身構えていたので血を浴びることはなかった。男の頭もアイテムボックスにしまい、死体は街道の外まで運んでそこにおいてやった。この男も二人目の男と同じく持っていた金はそれほどでもなかった。3頭目の馬も馬車の後ろにつながれた。
さて、次は追い剥ぎに襲われた前方の馬車だ。馬車の近くには2人地面に座らされているのが見える。ここからでは視認できないけれど、おとなしくしているところを見ると縛られているのかもしれない。