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第167話 プリフディナス9、拠点2


 ジゼロンは拠点とする雑貨屋が軌道に乗るまで付きっ切りで面倒を見ていた。拠点には雑貨店の切り盛り用のほか情報収集などのため、いわゆる工作員を15名配置した。一国の首都だけに15名は多いような気もしたけど、ドライグ王国の周辺国にも工作員を派遣するのでその訓練も兼ねているとジゼロンが言っていた。ジゼロンはこういうことが大好きのようだ。


 拠点の商店名はいかがしましょう? と、ジゼロンが聞いてきたので、ホーリー雑貨店としておいた。


 拠点を設置して3カ月が過ぎたころ、ドライグ王国の王宮からわざわざホーリー雑貨店に注文が入った。注文はホーリー雑貨店で扱っている石鹸とのこと。どうもドライグ王国で通常販売されている石鹸は泡立ちも悪く臭いがきついらしく、プリフディナス製の石鹸はそれらに比べると泡立ちも良くほとんど無臭。中には香料を入れていい香りの石鹸まである。どこから仕入れているのかいろいろ店の者が聞かれているらしい。もちろん本当のことは答えられないので自家製と答えているようだ。


 とにかく石鹸が評判になったことで王宮から引き合いがあり、注文につながったようだ。


 これで王宮の調達係にコネができた。ここを足掛かりに王宮への浸透を図るとジゼロンが嬉々として張り切っていた。石鹸の次に売れた商品はランプ用の油とシャンデリア用のろうそく。どちらも石鹸と同じで無臭または香料を添加したものだ。


 そのころにはホーリー雑貨店の人員は25名になって、店名もホーリー商会と改名していた。


 それからどこをどうやったのか分からないけれど、ドライグ王国の王宮の調達係に2名の工作員が採用された。それを契機に王宮との取引量も増大していき、拠点は商店としてかなりの収益を上げるようになった。


 こうなってくるとジゼロンも欲が出たのか、自分でドライグ王国のある大陸の何個かある主要国の都に夜陰に紛れて飛んでいき、そこでホーリー雑貨店の支店の名で拠点を作っていった。各支店に配置した人員はホーリー雑貨店本店に配置していた工作員を中心に新たな工作員を付けている。


 さらにドライグ王国陸軍の近衛兵団に2名が採用された。もちろん兵卒としての採用のため士官には成れないようだが、不思議なことに2名とも高級士官付きの従兵となった。


「世の中、持ちつ持たれつですから」


 とかジゼロンが笑いながら言っていた。


 最初の拠点づくりから半年が経ったころには、ドライグ王国内の都以外の主要都市5つにも支店ができていた。ドライグ王国の都にあるホーリー商会の本店もより大きな建物に移転し、本店の人員は店の維持だけの人員として100名を数えているという。商売繁盛は結構なことだと思うけど、ジゼロンはいったいどこに向かっているのかちょっと心配になった。


「ジゼロン、情報収集の方はどうなの?」


「各国の軍隊の規模。練度についてはある程度把握出来ました。

 街の噂などから軍の特別な動きなども推測できると情報局では言っており、今のところ特別な兆候はどの国にもないそうです。ついでに商売のネタなども探っていますが、こちらの方が今のところ有益な情報が集まっているようで、物品を右から左に動かすだけでかなりの利益を上げています」


「各国に特別な動きがないようならそれに越したことはないわね」


「情報の精度は陛下の世界でいう天気予報のようなもので、観測点が多ければ多いほど情報の精度が上がるわけですから、これからもどんどん工作員を送り込みます」


「こっちの魔族を今何人ぐらい送り込んでいたっけ?」


「1300名ほどです。ホーリー商会専門の要員を除けば300人ほどですから、まだまだです」


 商会用に1000人も送り込んじゃってるの? 工作員が300人なのに。


「人族の世界に紛れ込ませた人数が多ければ多いほど影響力は高まりますから。今年度中に1万5千。来年度中に5万までは増やそうかと思っています」


「わかったわ。とにかくうまくやってよ」


「はい。お任せください」



 ジゼロンの趣味と化した情報局というかホーリー商会運営と同じく大運河の建設も進んでいる。


 ジゼロンがわたしの執務室にやってきて運河の図面をもとに工事の進捗を説明してくれた。工事はいたって(・・・・)順調ということだった。ホーリー商会だけ張り切っているのではないことをアピールしているのかと思った。


「運河はいいけど船の方はどうなるの? まさかゴーレムを何十体も並べてオールで漕ぐわけじゃないのよね?」


「その発想はわたしも含め研究所の技術者たちにもありませんでした」


「あなた、ちょっと言い方にトゲがない?」


「滅相もありません」


「ならいいけど」


「船の動力に戻りますが、研究所の技術者に聞いたところ蒸気ピストンエンジンでスクリューを回すとか。

 蒸気の力を直接回転力に変える蒸気タービンエンジンの方が効率がいいそうなんですが、タービンに必要な金属材料と工作精度が今の技術では提供できないそうで、蒸気ピストンエンジンを使うようです。蒸気タービンエンジンの実用化にはあと数年かかるとか」


「それは仕方がないわね。

 それはそうとジゼロン、あなた技術にも相当詳しいじゃない。元はわたしの知識だったんでしょ?」


「いつぞや電気がらみで講義を受けて以来、時間がある時には研究所に行って講義なんかを受けてるんですよ」


「あら、感心。ホーリー商会で手一杯だと思ってた」


「そんなことはありません。講義をそれなりに受けているおかげでこうして陛下からの質問にある程度答えられるわけですから勉強の甲斐がありました」


「さすがはジゼロン。

 蒸気ピストンエンジンというのは蒸気機関車(SL)のエンジンよね」


「そうですね」


「この運河の図面なんだけど、運河の両岸に土手が作られるじゃない」


「はい」


「土手の上にSLを走らせたらいいんじゃないかな」


「高速輸送可能な鉄道は面白そうですね。

 だいぶ先になりそうですが、運河の途中に都市を設けることもあるでしょうから、鉄道は有効な交通手段となるでしょう。

 SLでよろしいですか? もう少し技術が進めば電気機関車も視野に入るかと思いますが」


「SLでいいんじゃない。風情もあるし、石炭は上質だからばい煙もほとんど出ないんじゃないの?」


「かしこまりました」


「機関車は当面SLでいいけど、自動車も何とかしたいわね」


「ということはガソリンエンジンですか?」


「石油が見つからないと難しいでしょうけどね」



 昨年始めた外周山脈外での資源探査の成果で各種の金属鉱床、鉱体の他、ボーキサイト鉱床、炭田、そして念願の油田を見つけることができた。油田の採掘技術はこの世界に皆無なうえにわたし自身全くイメージできなかったのでこれに関する諸々については一切召喚魔法陣で召喚出来なかった。一から十まで研究所での技術開発を待たなければ石油の採掘はできない。それでも、少量だけ自噴していた原油は試料として採取しているので石油精製技術の研究は可能だそうだ。


 ボーキサイトについても精錬法を編み出す必要があるので利用はまだ先の話になる。


「石油が見つかった以上、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンに手を出したいわね。

 ガソリンエンジンができれば飛行機も造れそうじゃない」


「そうかも知れませんが、これも金属材料の発達次第かと」


「冶金関連の研究者や技術者の増員が必要かな?」


「こちらから研究所に要望を出せば必要な召喚人数を向こうから言ってきますから、それからでもいいでしょう」


「わかったわ」



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