第148話 会食
食事会では、明日香側は明日香とジゼロンおじさんの二人がわたしたちの向かいに座った。
わたしは食事が始まる前に、ヒールポーションの入った樽を侍女に渡している。樽は台車に乗せられて食堂から運ばれて行ったので、アレで飲み物を作ってくれるのだろう。期待大だ。
まずは冷えたビールで乾杯だ。女王さま主催の会食なのでジョッキはないと思っていたけど、ガラス製の大ジョッキにビールがなみなみと注がれてやってきた。泡の立ち方も見事だ。侍女一人で大ジョッキを3つと2つを左右の手で抱えている。侍女の数は足りているんだろうに。
「今日は居酒屋スタイルでいこうと思っているの」
それでラシク一人でジョッキを5つも運んだのか。いきなりのボスの思い付きで従業員も大変だ。
大ジョッキの侍女に続いて入ってきた侍女が各人のテーブルの上に小皿に入った枝豆と殻をいれる小皿、そして印刷されたお品書きを置いていった。
日本風の焼き鳥はこの世界に無いものなので、ローマ字的に名まえを記した後に説明書きが添えられたメニューだ。もちろん値段は載っていない。
もも
ねぎ間
皮
つくね
レバー
砂肝
ぼんじり
せせり
レバー(砂肝と一緒に)
砂肝(レバーと一緒に)
ハツ
ハラミ
ナンコツ
手羽元
手羽先
ししとう
ピーマン
なす
えのきたけのベーコン巻き
しいたけ
玉ねぎ
かぼちゃ
結構な種類が豊富だ。
「これどうやって注文するの?」
「おねえさーん! って呼んだら侍女がやってくるから口頭で食べたいメニューと本数を言えばいいのよ。塩かタレかもね」
明日香は日本の生活が恋しいのか、こだわりの本格志向だった。
おねえさんを呼んだナキアちゃんとキアリーちゃんはビールのお替わりと一緒に、わたしの予想通り上から下まで塩とタレで1本ずつ注文した。なお野菜は塩だけだったので1本ずつ。
わたしはねぎまとつくねとレバーとナンコツをタレで2本ずつとししとうを1本。それにビールのお替わりを注文した。
本格志向は分かったんだけど侍女さん扮するおねえさんは注文しても「はい、喜んで!」とは返してくれなかった。いきなりだとちょっと恥ずかしいものね。
それはそうと明日香とジゼロンおじさんは最初の乾杯から全然ビールが減っていなかった。明日香が下戸なのは知ってたけど、ジゼロンおじさんも下戸だったっけ?
食事の間ジゼロンおじさんがドライグ王国への使節団長として交渉した結果を話してくれた。ちなみにまだ交渉中で使節団はドライグ王国のディナスの宿にいるそうで、ジゼロンおじさんは会食が終わればディナスの宿に戻るそうだ。
ドライグ王国からの使節団についてはジゼロンおじさんが転移で使節団の送り迎えすることで行き来の時間を節約することになったそうだ。その事もあり、使節団の護衛などの数は極力少なくなるだろうとのこと。
ディナスの一等地に商館を兼ねたプリフディナス大使館を置くこと。大使館内には小型の転移陣を設けること。小型の転移陣で一度に移動できるものは人一人プラス若干の荷物になるそうだ。軍隊を送りこめるような大型の転移陣を国内に作って欲しくないのは当然だろう。逆に言えば小型でも転移陣の設置を了承させたということはプリフディナス側の外交成果なのだろう。
プリフディナスにはドライグ王国の大使館が置かれることが決まったそうだ。
もう一つの話題は、魔石回収とゴルレウィンのこと。
モンスターからの魔石回収は続いているそうで、巨大亀はちゃんと解体して食料になるそうだ。そこで思い出して以前たおした巨大蜘蛛はどうしたのか聞いてみた。
「あれの体液は猛毒なので、回収前に中和剤をまいたあと専用の服を着た作業班が作業にあたり無事回収しました。あの数の巨大蜘蛛が皆殺しに遭うとは思っても見ませんでした。ハッハッハッハ」
ここで朗らかに笑われてもねー。巨大蜘蛛も今となってはいいお客さんだけど、一回戦目のときはわたしたち調査隊はアレのせいで全滅したんだよね。あのことを覚えているのはわたしだけだからノーカウントでも仕方ないけど、2回目も殺しに来てたわけだし。
ゴルレウィンについては生存者の捜索も兼ねて、モンスターの生き残りが徘徊している可能性があるため魔石の回収とは別に2000人規模の部隊を派遣したそうだ。何の了承もなく勝手に軍隊を他国に派遣することは問題があるかもしれないけど、わたしたちが街道を一日半移動しても人っ子一人いなかったわけだから少なくともゴルレウィンは国としての機能をなくしていると思う。
大ジョッキの5杯目を頼もうとしたら、穀物酒を蒸留し炭でろ過した濃いお酒を、冷たくしたヒールポーションで割ったお酒を勧められた。濃いお酒は60度ということなので、1対1で割ってもらうことにした。ナキアちゃんとキアリーちゃんは2対1で頼んだ。明日香とジゼロンおじさんは1対3だった。
「「うまい!」」
濃いお酒のヒールポーション割りを飲んだわたしたち3人の第一声。
明日香たちは何も言わず、舐めるように飲んでいた。そんなんじゃ味なんてわからないと思うけど無理強いはアルハラなので何も言わなかった。その代りに斜めの目で見てやった。勝った!
その後わたしは明日香に夏みかんはないかたずねてみた。
「あるよ」
「おねーさーん」
おねえさんを呼んで、濃い酒、ヒールポーション、夏みかん果汁で1対1対1のカクテル?を作ってもらった。
「うまい!」
それを見てナキアちゃんとキアリーちゃんだけでなく明日香とジゼロンおじさんも同じものを頼んだ。
「「うまい!」」
「これは、流行りそうですな」と、ジゼロンおじさん。
「ヒールポーションを大量に作るプラントが無いと無理じゃない?」
「必要なら作りませんか? 薬草栽培から製造工場まで一貫してのプラントとなると大掛かりですが、土地も十分ありますし、運河と港湾建設が終われば労働力の余裕が出ます」
「じゃあ、任せるわ。ガイウスと相談してやってちょうだい」
「かしこまりました。
嗜好品くらいならドライグ王国の産業にダメージを与えにくいでしょうから輸出しても摩擦も起きにくいでしょう」
輸出の話が出たので貿易のことを聞いてみた。
「ドライグ王国との貿易はどんな感じになるんですか?」
「いまのところ、わが国からドライグ王国への輸出物資は先方の要望で小麦を中心とした穀物と刃物用鋼を含む金属の地金を考えています」
「ドライグ王国からこの国が輸入する物ってあるんですか?」
「正直なところドライグ王国をはじめ人族から輸入する物はほとんどありません。とはいえ、そういうわけにもいきませんので、わが国からは観光という名目でドライグ王国に人を派遣し、適当にお金を落とそうということにしています。良い出物があれば美術品なども購入する予定です。
あとは、劇団や楽団をわが国に呼び興行してもらうことなどを考えています。この国にはあまり娯楽がないものですから。
ということで、陛下のお許しが出て国立美術館と国立劇場の設計に取り掛かったところです」
文化的な面も充実していくわけか。国のトップがそういう方面でのチート持ちの上、絶対的な支持を得ている。国としては圧倒的有利なんだろうな。
結局4時間近く飲み食いして会食はお開きになった。




