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第132話 ダンジョン9、第2層5、大魔導聖女さま


 キアリーちゃんから本を手渡されたナキアちゃんがさっそく本を使ってみることになった。


「何が飛び出すか分からぬから、壁に向かって本を開いてみるのじゃ。

 二人とも、わらわの後ろに立っておるのじゃ」


 わたしはキアリーちゃんと二人そろってナキアちゃんの後ろに立った。


「それではこの本を開けてみるのじゃ。

 どうじゃ?」


 本を持ったナキアちゃんが表紙を開いたら、本が七色に輝いたと思ったら跡形もなく消えてしまった。


「ありゃりゃ? なんじゃった?

 うんにゃ。何か頭の中で声がしておるのじゃ。……。

 ファイヤーボールが使えるようになったのじゃ! しかも魔力も増えたのじゃ! わらわは大魔導師になったのじゃ!」


「ナキアちゃん。大魔導師はいいけど、カディフの聖女さまが大魔導師さまに成っちゃうの?」


「となるとわらわは、カディフの大魔導聖女さまじゃな。うん。カディフに帰ったらそう呼ぶようみんなにも言っておくのじゃ」


 ファイヤーボールのスキル付きの魔法の本だったのか。どの宝箱もハズレがない。第1層はタダの通路だったけど、この第2層はサービス満点の階層だ。この分でいくと、第3層に下りることができれば、もっとすごいお宝をどんどんゲットできそうだ。


 ファイヤーボールの威力を試そうということで、一度扉まで下がってそこからナキアちゃんが右の手のひらを正面の壁に向けた。


「ファイヤーボールじゃ! いけー!」


 ナキアちゃんの手のひらの先でソフトボール大の火の玉ができ上がりそれが正面の壁に当たってバーン! と、大きな音を立てて爆発した。


 大きさがソフトボール程度だったのでそこまで威力はなさそうとファイヤーボールが飛んでいくのを見ていたんだけど、壁に当たって爆発したファイヤーボールの爆風で正面に立っていたナキアちゃんは尻もちをついてしまった。わたしとキアリーちゃんは壁の正面から少しずれて立っていたおかげか何とか耐えた。


 ナキアちゃんは床から立ち上がって、


「ひょー。

 魂消たまげてしもうた」


「かなり威力があったね。

 狭いところだとちょっと使いづらいカモ?」


「敵が沢山いて固まってたら面白そうだよね」


「ナキアちゃん、威力って調整できないの?」


「できそうなのじゃ」


「そしたら、どれくらい強くなるか試してみたいけど、危なそうだから、弱くする方だけ試さない?」


「じゃあ、試してみるのじゃ。ファイヤーボール、弱め!」


 ナキアちゃんの手のひらの先から飛び出した今度のファイヤーボールはピンポン玉くらいで、壁に当たって。ボン! と音を立てて消えた。


 弱めることができたら強めることもできるはず。ファイヤーボールの特性なのだろうけど、飛んでいくスピードがすごく遅いんだよね。わたしだったら簡単に避けられるし、キアリーちゃんだって避けられる。素早いモンスターにはおそらく命中しない。なんとかスピードが速くならないか?


 そこでわたしは閃いた!


「弱めることはうまくいったから強めることもできると思うけど、ナキアちゃんの祈りを魔法に込められないかな? ただのファイヤーボールだとスピードが遅いから相手が素早いと避けられちゃうと思うんだ」


「確かに。放ったわらわも壁に当たるまでずいぶんあると思うたほどじゃものな。

 ファイヤーボールに祈りが通じるものか、試してみるのじゃ」


 ナキアちゃんが再度ファイヤーボールを壁に向かって放った。先ほどと同じピンポン玉が同じスピードで壁に向かって飛んでいき、ボン! と音を立てて消えた。


「うまくいかなかったのじゃ」


 魔法に祈りは無理だったか。祈りにもある程度時間がかかっていたから、できたとしてもそれだとあまり意味ないしね。


「それじゃあ、ナキアちゃん自身に『大魔導師』だか『大魔導聖女』はかくあるべしって祈りをしたら簡単に高速ファイヤーボールが撃てるかも?」


「その手があったのじゃ! わらわは『大魔導聖女』、『大魔導聖女』、 ……」

 よし! 高速ファイヤーボール、弱!」


 ナキアちゃんの右手のひらの先にピンポン玉大の青白くギラギラ輝く光球が見えたと思ったらそこから正面の壁に続く青白い光の筋が見え、それと同時に大爆発が起きた。わたしもキアリーちゃんも尻もちをついた。とうのナキアちゃんは通路の壁まで転がっていった。


「ひゃー、びっくりしたのじゃ」と、起き上がりながらのナキアちゃん。


 わたしたちも起き上がりながら、ナキアちゃんの今のファイヤーボールが命中した壁を見たらすり鉢状にえぐれていた。


「今のすごかったね」


「ダンジョン内でホントに使う時は、もう少し弱めた方がいいよ」


「そうじゃな。しっかし、本当にわらわは『大魔導聖女』さまになってしもうたのじゃ」


「カディフに帰るのが楽しみだね」


「そうじゃが、カディフに帰るのはいつでも良いからどんどん行くのじゃ」


 わたしたちは、ガンガンいこうぜのナキアちゃんに連れられて、元の部屋に戻って真ん中の扉の前に立った。


 大魔導聖女さまを前面に出すわけにはいかないのでキアリーちゃんが真ん中に立ち、ナキアちゃんがキアリーちゃんの左後ろ、わたしがキアリーちゃんの右後ろに立って、キアリーちゃんが扉を開けた。今回も扉を開けると同時にレーダーマップに赤い点が現れた。


 部屋の中にいたのは大型犬? いやきっとオオカミだ。


 オオカミが一声吼えたところでナキアちゃんの右手から青白い光線が放たれオオカミの頭がボンといってはじけて消えてしまった。まるで光線銃だ。


「さっきよりもっと小さくして威力も抑えたのじゃ」


 わたしとキアリーちゃんでナキアちゃんをガードして、ナキアちゃんがわたしとキアリーちゃんの隙間からファイヤーボールを放てば圧倒的だ。上からの範囲攻撃を受けてしまうとマズいけど、そういった敵はこのダンジョンの中にいたとしてもコアの近くくらいじゃないかな。


 オオカミ?の胸から魔石を取り出したら、扉の向かい側の壁の前に今までと同じ木でできた宝箱が現れた。この部屋も行き止まりの部屋なんだけど、行き止まりの部屋でモンスターをたおして魔石を回収したら宝箱が現れるみたいだ。オオカミと魔石をしまってからレーダーマップを見たところ宝箱に罠は仕掛けられていないようだったので今度はわたしが宝箱を開けた。


 宝箱の中に入っていたのはまた銅の指輪だった。魔法の指輪のハズだけどどういった魔法が込められているのかな? と、思ったところで、久しぶりにシステム音が頭の中に響いた。


『識別2の熟練度が規定値に達し、識別2は鑑定1にレベルアップしました』


 やった。ついに鑑定ゲットだぜ!


「ちょっと調べてみるね」


<鑑定>

銅の指輪

 シールドの魔法が込められている。任意の指にはめることでアクティブスキル、シールドを発動できる。


 シールドの魔法というからには、物理、魔法攻撃に対する防御力が上がるはず。これはナキアちゃんだな。


「指にはめるとシールドの魔法が使えるようになる指輪みたい」


「シズカちゃん、見ただけで分かるのか?」


「うん、鑑定ってスキルをさっき手に入れたの」


「鑑定スキルとはまた珍しい」


「シズカちゃんだし」


「それもそうじゃったな」


「シールドの魔法って具体的にどんな魔法か分からないけど、これはやっぱりナキアちゃんがはめてた方がいいよね」


「そだね」


「それじゃあ、はめてみるのじゃ」


「使い方はシールドバッシュと同じだろうから、頭の中でシールドと意識すれば発動すると思うよ」


「分かったのじゃ。それでは、シールド!」


「うわっ! ナキアちゃんが青白く光ってる!」



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