第128話 ダンジョン5、第2層1
4カ所のスイッチを押すことで現れた階段をわたしが先頭になって下りていった。
階段を降りながらナキアちゃんたちも知らないようなダンジョンが急に現れた意味を考えてみた。
もしかして、魔族=明日香がもうモンスターを人族に送らなくなったから、神さまが魔力がらみで何かしたのかもしれない。いや、そうに違いない。
そんなことを考えていたら数えていた階段の段数が正確には分からなくなってしまった。
下まで降りたところで階段の数はだいたい60段あった。幅は4メートル、高さも4メートル。踏み面は30センチ、段差は25センチくらい。25センチ×60段として、上の層、第1層から15メートルの高低差があることになる。わたしのweb小説知識から言って階段部分以外物理的に繋がっていないはずなので、第2層から上に15メートル掘り上がったところで第1層には出られないと思う。
それはそれとして、階段を降りた先はダンジョンダンジョンした正方形の石室だった。わたしたちが下りてきた階段はその石室の壁の真ん中に抜け出ていた。石室の広さはだいたい10メートル四方。天井までの高さは5メートルくらいだった。上の第1層の岩盤と同じでここでも石材自体が発光しているようで、暗いことは暗いけど行動に支障が出る暗さではない。その代わりレーダーマップ上には今見えている部屋しか映っていなかった。
この石室にはダンジョン内の部屋らしく、今の階段のある壁以外の3面の壁の真ん中にそれぞれ奥行き50センチほどの四角いくぼみがあってその先に金属製の重そうな扉がついていた。扉を開ければその先がレーダーマップに映ると思う。
わたしの後から石室の中に下りてきたナキアちゃんとキアリーちゃんが石室の中を見渡した。
「ほう。ここは立派な部屋なのじゃな」
「どの扉もしっかり閉まってるし、簡単に開きそうにないけど、どうなんだろ?」
本当に開かないようだったら扉を壊せばいいんだよ。
ゲームじゃ開かない扉は何か特別なことをしないと絶対開かないし、絶対壊せないんだけどちょっと理不尽だと思ってたんだよね。いきなり壊すのも何か違うのでどこかに扉を開ける仕掛けがないか探してみることにした。
「どこかに扉を開ける何かの仕掛けがないか探してみよう」
「さっきみたいな石の出っ張りがあるんじゃろか?」
「どんな形のものがあるかはここを作ったそれこそダンジョンコアくらいしか分からないんじゃないかな」
わたしは正面の扉をくまなく調べてみた。扉自体はのっぺらぼうで真ん中に縦に筋が入っているので両開きの扉に見える。カギ穴はどこにも見当たらない。
ナキアちゃんとキアリーちゃんもそれぞれ別の扉を調べていたけど変わったところは見つからなかったようで、壁に手を当てて調べ始めた。
わたしも壁を手の平でさするようにして何か変わったところがないか探したんだけど、それらしいものは見つからなかった。
「変わったところは見つからなかったのじゃ」
「こっちも」
いよいよ壊すときが来たのか?
「シズカちゃん、扉を壊そうと思っておらんか?」
「開かないなら壊すのみ!」
「重そうじゃが取っ手がないところを見ると押してみてはどうじゃろう。
わらわの力では厳しそうじゃが、シズカちゃんの力なら開くかもしれんのじゃ」
最初から閉まっているから閉ざされている。と思っていたからいろいろ探したけど、閉じてなければ仕掛も何も必要ないし、鍵も不要だ。力持ちのわたしなら簡単に開いてしまうかもしれない。もし、なんとか開きそうだけど重くててこずるようならナキアちゃんに祈ってもらって扉を軽くしてもらえばいいわけだし。
わたしはわたしが調べていた階段の正面の扉の真ん前に立って心持ち腰を落とし、扉の継ぎ目を挟むよう両手を扉に当ててグッと力いっぱい扉を押したら、ほとんど抵抗なくエライ勢いで扉が開き、90度開いたとことで一度壁に当たった扉がまた戻ってきてしまった。ある意味ショックだった。
「簡単に開いてしまった」
今度はゆっくり90度開いて扉をそこで止めておいた。
扉のはまっていたのは壁に空いたくぼみに見えていたけど、厚さが3メートルほどの壁を四角く繰り抜いてその真ん中に取り付けられていただけだったようだ。
扉から7、8メートルくらい先には石壁が左右に伸びていた。床も左右に伸びている。石室を出た先には通路が走っているみたい。通路に出て左右を見たら、ところどころに扉の付いていそうなくぼみのある壁に挟まれた通路が伸びていた。これこそダンジョンだ。
扉を開け放したまま、一度石室に戻ったわたしはまだ開けていない2つの扉を順に開けてみた。どちらも10メートル四方の石室だった。残念ながらどちらの石室も空っぽだったけど、ダンジョンダンジョンしてきたぞ!
「これってわたしが物語で読んだことあるダンジョンそのままだよ」
「ということはダンジョンコアにダンジョンマスターがどこぞにおるわけじゃな」
「可能性は高くなったと思うよ。モンスターくらいならたおせると思うけど、心配なのは、ダンジョンの中には罠が仕掛けられているんだよ」
「なんと! それは意地悪じゃろ!?」
「何のためにそんな意地悪するんだろ? そもそも何のためにコアはダンジョンを作ったんだろ?」
キアリーちゃんの鋭い疑問にわたしは答えられない。言えるのは、
「そういったことはコアに聞くしかないと思う」
「じゃあ、わたしたちの目標はコアを探すことだね」
「そうだね」
「ちゃんとコア探し出して、コアをわらわたちのものにしたいのじゃ」
「そうだね」
コアの前には最強のモンスターが控えているはず。そのことを今言っても仕方ないので言わないでおいた。
「この階層にも下に続く階段があると思うけど、どこにあるか分からないからどうやって探す?」
「適当にそこらを歩いておれば、そのうち見つかるじゃろ」
わたしの幸運度からいって決してないとは言い切れない。問題は罠があった場合の対処だ。
罠も問題だけど、レーダーマップも扉を開けない限り向こうのことが分からないようなので、ゲーム並みに扉を開いたらいきなりエンカウントもあり得る。一番固いわたしが扉を開けるのが無難だ。
わたしはアイテムボックスからムラサメ丸を取り出し、鞘をベルトに下げて準備した。わたしたちはそのあとナキアちゃんの言葉に従って最初に開けた扉の先の通路に出た。
左右どちらも100メートルほど直進して、その先は十字にクロスしているように見える。
「どっち行こうか?」
「右と左を迷ったときには左に行けばよいのじゃ」
「ナキアちゃん、何か理由があるの?」
「なーんもない。じゃが決めておけばその場その場で迷わんですむじゃろ?」
確かにナキアちゃんの言う通りだ。




