しゅいちゃんの弱いもの
「なぁなぁ! オレのことも乗せて飛んでくれるか!?」
わくわくした表情でリカルド様は聞く。だが、べにちゃんもしゅいちゃんも反応はドライだ。
『お姉様のご命令であれば』
『いやよ』
しゅいちゃんは、そっぽまで向いてしまっている。ただ、それでめげるリカルド様ではない。
普段、ノアはリカルド様に対して基本的に塩対応。なので、二人の対応には慣れっこなのだ。
「うーん。どうしたら乗せてくれんの?」
『べには、お姉様以外の人間を乗せることがイヤです』
ハッキリと言い切ったべにちゃん。それでも、リカルド様は気を悪くした様子などなく「そっかー」と納得している。
「んじゃ、そっちの……しゅいだっけ? しゅいは、何でいやなわけ?」
『あたしは、基本的にイケメン以外は乗せたくないわ。アリアとノアは特別枠よ。……逆らったら大変なんだから』
ぼそぼそと付け加えた最後の言葉は、しっかり聞こえている。
特別枠とか、逆らったら……については、どうでもいい。だけどさ、聞こえないふりをしてあげるわけないよね?
「しゅいちゃん?」
『な、何よう……』
「ノアのことどう思う?」
『どうって……』
じり、じりとしゅいちゃんは後ろに下がっていく。
「なんで、ノアが特別枠かなぁ? イケメン枠でしょうよ」
『はい? なんでこんな小さな子どもがイケメン枠なのよ!?』
「……小さな子ども? でもさっき、かっこいいって言った時に頷いてたよね? そこんとこ、詳しく!!」
面倒くさそうに、しゅいちゃんは大きな溜め息を吐く。だが、ノアと視線が合った瞬間にベラベラと話し始めた。
『確かにさっきの笑い方は、かっこよかったわよ。でもね、たかだか10年くらいしか生きてない子どもにトキメキを感じるなんて無理。あたしたちがどんくらい生きると思ってるの? 500年~700年くらいよ。10歳くらいなんて赤ちゃんみたいなもんよ』
な、なるほどぉ……。人と魔物の違いってやつか。それなら、イケメン枠じゃなくても仕方ない……かな?
「因みにしゅいちゃんは、何歳なの?」
『あたし? あたしは93歳よ。そろそろ結婚適齢期ってやつね!』
93歳が結婚適齢期……。想像できない。
「へぇ。結構、ばあさんなんだな!」
『なんですってぇ!?』
失言をしたリカルド様は、しゅいちゃんに翼でバシバシと叩かれている。おしりを狙っているあたり、子どものしつけみたいな感じなのだろうか。
「いてっ!! いてーってば!!」
叫びながら、リカルド様は一瞬でノアの背後へと移動した。魔術で身体強化をしたみたい。
「ノア! 助けてくれ!!」
「レディにそんなこと言うなんて、誰が相手でも失礼だろ。王家はそういう言葉、特に厳しいだろ?」
「いつも気にしてっから、スコルピウス家に遊びに来たときくらい自由にさせてくれよ」
半泣きのリカルド様。ノアの後ろに体を縮こませて、どうにかしゅいちゃんの視界に入らないようにと必死だ。
『ねぇ、リカルドって言ったっけ? あんた王様なの?』
「い、いや。オレは王様じゃない」
「王様の息子だよ」
ノアの後ろから恐る恐る答えるリカルド様。そして、足りない言葉を足してあげるノア。
えっ? なんか神々しいんだけど。
あれね。美少年と美少年とか最高だよね。
赤い瞳と銀髪のヤンチャ系のリカルド様と、黄金の瞳とブロンドの髪を持つ天使のノア。この組み合わせが眼福すぎる。
だけど、この気持ちを分かち合える人はいないみたい。
お父様とお母様は微笑ましげに見てるし、執事のセバス、メイドのミモルとメモルは特に何とも思ってなさそう。べにちゃんは私ばっかり見てるし、しゅいちゃんは子どもに興味なし。
あぁ、ここにカトリーナがいてくれたなら……。
手紙でリカルド様の人気っぷりを書いていたカトリーナがいてくれたら、この気持ちを分かち合ってくれたかもしれないのに。
『王様の息子ってことはえらいのよね? 人間の中でのトップってことでしょ?』
「ん? まぁ、そうなるのか? オレよりすごいヤツなんていっぱいいるし、オレ自身がスゴいわけじゃ……」
『でも、えらいのには変わりないわよね!? 仕方ないなぁ、リカルドは特別に乗せてあげるわ』
おっふ。しゅいちゃんは、権力に弱かったんかぁ……。




