実はよく来ているよ
メモルの一言で解決! と思いきや、べにちゃんとしゅいちゃんに魔物姿へ戻ることをかなり抵抗されてしまった。
『折角、人間になれたのに……。もう少しこのままじゃダメですか?』
『魔物姿だと、歩くのが大変なのよ。このままの方が楽なんだけど』
な、なるほど……。確かに3メートルもある体を、この細い足でちょこちょこ歩くのは大変だよね。
「それでも、駄目だよ。人間は服を着るんだよ」
『着てるですよ』
「それは、バスローブ。人前に出られる服じゃないから」
なんか、可哀想かも。と、私が思っている間にもノアはべにちゃんとしゅいちゃんを説得している。
「わかった。父さんに会って、うちにいる許可が正式におりたら、明日にでも服を買いに行こう」
『『本当に(ですか)!?』』
バスローブ姿のままピョコピョコと跳ねて二人は喜んでいる。可愛い、可愛いんだけど──。
「しゅい様、乳房がはみ出てしまいます。まずは、元のお姿にお戻りください」
メモルの少し厳しい声がとぶ。
そう、なんだよね。胸がね、飛び出ちゃいそうなのよ。同性の私でも目のやり場に困る。
べにちゃんは素直に、しゅいちゃんはメモルを一睨みした後、大人しく魔物の姿に戻った。ボッフーン!! と、煙に包まれながら。
そして、やっとこさお父様の待つ応接間に着いた。
「お父様が応接間で待ってるなんて珍しいね」
「母さんに言われたんじゃない?」
「あー、なるほどね」
なんてノアと話ながら部屋に入ると──。
「えっ!? なんでいるの!!」
「来すぎじゃない? ちゃんと学園に通ってるの?」
リカルド様が優雅にお菓子を食べてましたよ。因みに、お父様とお母様は二人掛けのソファーに座って仲良さげに話している。
実はリカルド様、ほぼ毎週来てるんだよね。週末に来れない時は放課後に来て、翌朝はやーくに学園に向かって行くし。
「通ってるって! なぁなぁ、そいつ等がレッドプテラか?」
「まさか、レッドプテラを見るためだけに来たわけ!?」
「当たり前だろ! うわー。マジかっけーー!!」
キラキラした目でレッドプテラを見るリカルド様。そんなリカルド様にお父様は冷めた視線を送っている。
第2王子に向かってする視線ではないけど、それがスコルピウス家らしさだったりもするのだ。
「リカルド、もういいだろ。お前はどうして、家族団らんの邪魔をするんだ」
「オレだって、レッドプテラに会いたいんですよ。それに、王家が知ってた方が都合いいでしょ?」
「都合はいいが、知らなくても問題はない」
スコルピウス家は、我が道を突き進む特殊な立ち位置。スコルピウス家が謀反を企てない限り、基本的に王家も介入できない。
スコルピウス家は、国に属する魔術師が謀反を起こした時に対処できる唯一の力であり、王家を見張る番人なのだ。
国王が相応しくない場合、玉座から引きずり落とし別の王を担ぎ上げた過去も何度かあったりする。
基本的に、我が家は国に忠実であるが、皇室からはスコルピウス家に対して不介入。それは、国の始まりの頃からの決定事項。
私が婚約者候補だったのが異例だったのだ。
お父様の言葉にリカルドは不満げだが、言葉を重ねることはない。リカルドもまた、自分の立場を理解してきているのだろう。
「お父様、紹介します。レッドプテラのリーダーのべにちゃんと、色々あって眷属になっちゃったしゅいちゃんです」
『べにです! お父様、はじめましてぇ』
『しゅいよ! 眷属になっちゃったって何!? 私は強制的に眷属にさせられたのよ!』
ニコニコのべにちゃんと、プンプンのしゅいちゃん。正反対の二人が挨拶をすれば、お父様とお母様がにこやかに微笑んだ。
「ようこそ。スコルピウス家に歓迎する」
「子どもたちと仲良くしてあげてね」
とっても歓迎ムードだ。何故なら、今回はノアがばっちり根回しをしておいてくれたからね。オロチの時みたいにはいかないよ。




