魔術師の家系
「アリアちゃんも、スコルピウス家は魔術師の家系だってことは知ってるわよね? 私は魔力量が多くないから、そよ風を出すくらいしかできないけれど、アリアちゃんとノアは違うわ」
「魔力量が多いってことですか?」
「えぇ。あまり知られていないことだけれど、魔力量が多い人の瞳の色って、黄金から橙色なのよ」
「でも、私の瞳の色って……」
「特別な色よ。赤にも色々とあるけれど、濃ければ濃いほどに魔力量が多くなるの。そして、制御も難しくなるわ。予測でしかないけれど、落ちた時に潜在していた魔力の蓋が開いたのでしょうね」
潜在していた魔力の蓋って、何のことだろう。何だか、訳がわからなくなってきた。魔力って、血液と一緒で体内をぐるぐる回っているもののはずなのに、どうして蓋がされてるの?
「魔力って、体の中をぐるぐると回っているものですよね?」
「そうよ。それとは別に魔力が多すぎる人の中には、心臓のところに魔力が貯蔵されていると言われているわ。
体の中を流れる魔力が多すぎると、制御が効かずに魔力の暴走を起こしてしまうことがあるわ。それは、時として本人の命をも奪ってしまうの。
それを防ぐために体の防御機能として、魔力が多過ぎて生まれた子供は、蓋がされていて自分の命を守っているのよ」
「じゃあ、今までの私は魔力が暴走を起こさないように、魔力の一部に蓋がされていたってことですか?」
「そういうことになるわ。予測でしかないけれど、命の危険にさらされたことで、蓋が開いたのではないかしら」
ということは、落ちた時に体が浮いたのってノアの魔術じゃなくて、私がしたってこと? ノアが自分じゃないって言ってたから、もしやとは思っていたけど。まさか過ぎる。
「……私は魔術師になるんですか?」
「魔術師と名乗りたければ修行をつめばなれるわよ。昔は魔力が高ければ、強制的に魔術師への道しかなかったけれど、今は選べるわ。そのために、スコルピウス家のご当主達は力をつけてきてくださったの」
魔術師になる道しかなくて泣く泣く魔術師にされた人が過去にはたくさんいて、スコルピウス家はずっと戦ってきたそうだ。そして、今もなお無理矢理魔術師の道を選ばされる力の弱い人のために戦っているのだとお母様は教えてくれた。
スコルピウス家ってすごかったんだ……。
戦ってきたからこそ、最近はスコルピウス家からの魔術師の輩出がないのか。
選べるようになったから、魔術師を選ばなくなった。魔術師は王家の次にえらい。けれど、権力よりも大切なものってたくさんある。
「私も、魔術師にはなりたくありません。魔術師になってしまったら、なかなか家族にも会えなくなっちゃいそうですから」
私が宣言すれば、お母様はどこか安心したように笑った。
「それでも、魔力制御だけは早めに習得しなくちゃね。万が一、暴走したら大変だもの。
それと、問題はこれからどうするか……ね。婚約者候補は、アリアちゃんの言うとおり、アリアちゃんさえ良ければ辞退させてもらいましょう。色々とデニスにも相談しないといけないわね。
アリアちゃん、デニスには相談したかしら?」
「ううん、まだなんです。今夜お会いできるから、その時に話そうと思ってて……」
もっと早くに話していれば良かった……とここ数日を反省する。けれど、お母様が「話してくれて、ありがとう」って笑ってくれるから、気持ちがすごく軽くなる。
「ねぇ、お母様。大好きよ」
お母様の娘に生まれて、スコピウス家に生まれて良かった。もし、別のお家に生まれていたら、もっともっと悩んでいた気がする。誰にも話せなくて、怖くて、一人で泣いていただろう。
また泣きたくなった私を、再びお母様は抱き締めてくれる。
「ふふっ、私ももちろん大好きよ。可愛い可愛い甘えん坊さん」
どの位そうしていただろう。5分かもしれないし10分かもしれない。本当はもっと短いのかもしれない。
恥ずかしくなってきた。 もぞもぞとゆっくり体を離すと、さらりと髪を撫でられた。
「さぁ、お父様に手紙を書いて呼び戻しましょうか。 午後からは家族会議よ!」
お母様は明るく言うと机の方に向かっていく。どうやら、お城に行っているお父様を呼び戻すようだ。
でも、そんなことをしていいのかな?
不安が顔に出ていたらしく、またお母様が頭を撫でてくれる。
「大丈夫よ。何せスコルピウス家の緊急事態よ? それに、今朝も子ども達と一緒にいたいって泣きながらお仕事に行ったんだもの。喜んで帰ってくるわよ」
お母様の言うとおり、手紙が届いたかな? という頃にお父様は走って帰ってきた。魔術で身体強化をすると馬で駆けるよりも速いんだそう。
でもね、お父様。人間が馬よりも速く走り続けるって怖いと思うよ? 私のためだって分かってはいるけど、次があれば是非とも馬車で帰って来て欲しい。
御者が空の馬車を走らせて帰ってきたって聞いた時には、やるせない気持ちになったんだよ。
馬よりも早くダッシュするお父様。実は少しでも早く家につきたい時もよくやってたりします。
家族大好きお父様です。