許せないこと
キギャキギャキギャギャ。キギャギャギァー!
『色目を使うなんて信じられない。人間の分際で! と言ってやがります』
おぉう。べにちゃん怒ってんなー。代わりに怒ってくれる人? がいると落ち着くもんだわ。
「色目なんか使ってない。誤解だって伝えて」
キギャギャキギャ。ギャギャキ!
『嘘つくんじゃないわよ。不細工! と言いやがってます』
「私が人間のなかでは美人だって教えてあげて。きつい顔だけど、美人なのは間違いないはずだから」
ほしきみ☆でアリアは美人設定だったから、私が美人なのは間違いない……はず。実際、私は体を鍛えているし、スタイルも良い。髪や肌はミモルが一生懸命いつも磨いてくれている。
今は戦ったからちょっと汚れちゃったけど、それでも私の美貌はたぶん健在だ! ……たぶん。
不安になって、ノアの方に視線を向ければ──。
「えっ?」
ノアの顔、笑ってるんだけどめちゃくちゃ怖い。目が笑ってないよ? それに瞳の色が朱色なんだけど……。
「ねぇ。姉さんの侮辱は許さないよ?」
そうノアが言った瞬間、瞳の朱色はもっと濃くなった。
「ちょっ、ノア待っ──」
キギャギャギャギャギャギアーーーー!!!!
レッドプテラの断末魔のような叫びが響いた。レッドプテラが燃えている。炎は大きく踊るように揺らめいて、まるでレッドプテラの叫びを楽しんでいるかのようだ。
「ノア! やめなさい!」
考えている暇はなかった。このままではレッドプテラは炎に飲まれて死んでしまう。私は即座に魔術を使った。
水蒸気が雨の素だったはずだ。それを集めてを厚くて大きな雨雲を作っていけば、すぐに雨が降りレッドプテラを飲み込もうとした炎は消えた。
成功した。レッドプテラも動いてるみたいだし、これで一先ずは安心だ。安心なんだけど……。
「いたたたたた……」
やり過ぎた。雨が痛い。スコールのように降っていて、視界も悪い。とりあえず、こんな時の身体強化だ。よし。これで痛くない。
さて、レッドプテラの様子を見ないと。
「大丈夫?」
怪我の確認をしようと近付いたが、反抗はない。もしかしたら、大怪我をしたのかもしれない。そう思って、激しい雨のなか確認をしていく。だが──。
「どういうこと?」
ノアを見れば、瞳はいつもの黄金に戻っている。
「僕が姉さんの役に立つ予定のレッドプテラを勝手に殺すわけないでしょ?」
いつの間にか雨は止んでいた。ノアは私の隣にしゃがむと、にこりと天使のような笑みを浮かべる。
可愛い……、じゃなくて!
「そうじゃなくて。この子に何をしたの?」
「何もしてないよ。ちょっと脅かしただけ。レッドプテラは火をはく魔物なだけあって、火への耐性は強いでしょ? だから、そのレッドプテラの耐性をあげながら炎で燃やしたんだよ。恐怖や熱さは感じたみたいだけど、ちゃんと無傷だよ」
ノアはまるでいつもと変わらない、何てことない話をするように言う。
「僕はね、姉さんをよく知りもしないで悪く言うこいつが許せないんだ。今すぐこの世から抹消したいくらいには……ね」
「え、でも今までだってバカって言われたこととかもあったよ?」
「うん。でも、それとこれは全く違うよ。こいつは姉さんに悪意を向けたからさぁ」
にこにことノアは笑っている。自分は全く悪いことをしたなんて思ってない。
これじゃあ、ノアはこれから先、私に敵意や悪意を向けるもの全てを排除しようとしてしまいそうだ。