柘榴は深紅へ
「じゃぁ、いくよ」
レッドプテラのおでこを触ると、人の体温よりもじんわりと温かい。気持ち良いお湯の温度……40℃くらいだろうか。火を操る魔物だから体温も高めなのかもしれない。
キギャ! という元気な鳴き声を聞いたあと、私はゆっくりと魔力を流す。
すると、レッドプテラの色が柘榴のような赤から、深紅へと深みを増していく。それに何だか──。
「ちょっと大きくなった?」
「姉さん、ちょっとじゃないよ……」
呆れたようなノアの声に、レッドプテラが口を開いた。
『お姉さま。どこまでも着いて参りますですよ!』
「……えっ?」
『だって、お姉さまの眷属ですから。必ずお役に立ってみせるのです』
なんか声がロリっ子だ。体は大きくなったのに声が可愛い。違和感がすごい。
どれくらい大きくなったかというと、普通のレッドプテラが2メートルくらいなのに対し、この子は3メートルほどある。それに、羽の部分が炎に覆われていて見るからに熱そ……じゃなくて、強そうだ。
「ありがとう。私はアリア・スコルピウス。あなたの名前は?」
『名前? ないですよ』
「えっ? そうなの? 呼ぶときに不便だから名前をつけてもいいかな?」
『お姉さまがつけてくれるんですか? 感激です!!』
浮かれた様子のレッドプテラを横目に考える。難しい名前をつけたら絶対に忘れる。だから、覚えやすいのがいい。そうだなぁ……。
「紅色だから、紅ちゃんはどうかな?」
『べにちゃん……』
噛み締めるように、べにちゃんと名付けたレッドプテラは呟くと、嬉しそうに鳴いた。レッドプテラの表情は変わらないから、顔から感情は一切読み取れない。けど、喜んでもらえたようで良かった。
『お姉さま! ありがとうございます。べには喜びでいっぱいです!』
お花でも飛んでるかのように、べにちゃんの声は浮かれている。
『べには今すぐにでもお姉さまのお役に立ちたいです。何かないですか?』
色々ある。聞きたいことは。でも、その前にずーっと騒いでるあのレッドプテラについて知りたい。今も私に殺気を飛ばしてくるんだもん。絶対に負けることはないけど鬱陶しい。
「あそこで殺気を飛ばしてくるレッドプテラは何て言ってるの? キギャキギャってずっとうるさいんだけど」
『あぁ、ただの嫉妬ですよ。放っておいて平気です』
嬉しそうな声色は一転し、面倒くさそうなものになる。もしかしたら、あのレッドプテラが苦手なのかもしれない。
それにしても、レッドプテラから嫉妬だと? あれか? 求愛されたからか?
『求愛を受けても、断っても気に入らないんです』
「え、あー、うん。そうなんだぁ」
これは、どうしたらいいの? 前世で恋はしてない。私は恋愛初心者なのだ。つまり、対応の仕方が分からない。
「ノアぁー」
「え、僕だってどうしたら良いか分からないよ。謝っちゃいけないことだけは分かるけど」
そ、そうだよね! ノアがいくら頭がいいからって、色恋はまだ早いよね!
「鬱陶しければ、1匹くらい消しちゃえば?」
「いやいやいや! それは、ダメでしょう! 話し合い、話し合いをしよう。ここで拗れると、あとが大変な予感がするから。べにちゃん、通訳お願いできる?」
『お姉様の頼みなら喜んで、です』
こうして、殺気をこちらに投げつけてキギャキギャ言い続けるレッドプテラとの話し合い? が始まった。