相談して
ジンに私が転生者であることを話した。乙女ゲームのことは言う必要がないから他の部分だけ。
私が日本、フォクス家の祖先である竜二さんと同じ世界で生きていたことを。竜二さんとは違って、日本では死んでしまって、ここの世界に生まれ変わったことを。
「だからね、フォクス領は私にとって懐かしい場所なんだ。生きていた時代が違うから建物とかは違うけど、食事とか、温泉、畳、浴衣……色々なものが前世を思い出させてくれるの。……信じられないよね」
本当は、信じてくれる? と聞きたかった。だけど、そんな勇気はなかった。そう聞いて、嘘だ、信じられないって言われたら悲しい。ジンがそういうことを言う人じゃないって分かってても怖い。
「うーん。なんて言えばいいんだろうな」
そう言って考え込むジンに怯えたのが伝わったのか、ノアが隣に来て手を繋いでくれた。その手が緊張で冷たくなった私の手を温めてくれる。
私はその手を少しだけ強く握り返した。ノアの手が私に力をくれる。ジンならきっと大丈夫って信じる力を。
ジンは言葉を探すように、ゆっくりと口を開いた。いきなりだったから、ジンも頭のなかがぐちゃぐちゃなのかもしれない。
「まず、これだけは絶対に伝えたいんだけど……。俺はアリアの言うことだったら何でも信じる。今回の転生? 転移? どっちか分かんないけど、本当だと思う」
「……うん。ありがとう、信じてくれて」
私の言葉にジンは小さく笑う。ジンの視線が私を気遣ってくれていることに、やっと気が付いた。怖くて、下を向いていたから分からなかった。
私は、しっかりと顔をあげてジンを見る。視界はちょっと涙の膜で見ずらいけれど。
すると、ジンは数回瞬いたあと、笑みを深めた。
「アリアが何でこんなに和食や浴衣……フォクス領に詳しいのかやっと分かった。ここに来たのも、前世のものを求めてか?」
「うん。お米がね、うちの馬のエサだった時の衝撃ときたら……。まぁ、食べたけどね!」
フォクス領のお米ほどはおいしくなかったけど、懐かしくて仕方なかったもん。前世の記憶より今世が優位でも、泣いてしまうくらいには。少し前のことなのに随分昔のことみたい。
懐かしんでいれば、ジンは戸惑った声をあげた。
「あれを食ったのか?」
「え? うん、食べたよ?」
「生でか?」
生で? まさか、私が生米をぼりぼりとむさぼったと思ってる?
「そ、そんなわけないでしょ! ちゃんとお鍋で炊いたに決まってんじゃん!!」
「だっ、だよな。あー、ビビった」
いやいや、ビックリしたのはこっちだよ。変な汗かいちゃったじゃ……。
「ノア……? どうしたの?」
「姉さん、まさか馬小屋から馬のエサを持ち出して食べたの?」
「えっ? うん。そうだけど……」
あ、あれ? なんか雲行きが怪しい?
「だって、あれはお米だったし。食べられるものだって分かってたし……」
必死で言い訳をするけれど、ノアの顔は厳しいままだ。分かってる、分かってるよ! 動物のエサを食べるなんて信じられないって言いたいんでしょ?
「もし、姉さんが食中毒にでもなってたらどうするの?」
「大丈夫だって分かってたよ? それに、まだあげる前のもらったし」
「うん?」
こ、こわい……。これはかなり怒ってるやつ。確かに、もしノアがドックフード食べたって言ったら私も心配で怒るけど……。いや、ノアはそんなことしないんだけどさ。
「うぅ……、ごめんなさい」
「もうしないでね」
「………………」
同じ状況になったら、絶対にする。自信しかない。困ったなぁ、頷けないよ。
「じゃあ、せめてやる前に相談して」
「うん。ごめんね」
困ったように眉を下げてノアは笑う。うぅ……、こんな姉ですまぬ。




