ツンが出るのはきっと心の成長だよね?
オロチが駕籠に乗り、私とノアとジンが歩くという、大人だけ駕籠に乗っているという構図ができあがった。
周りから2度見されながらも私たちは歩を進める。田んぼに連れていってくれるんだとか。
「ねぇねぇ、スコルピウス領でもお米を作れないかな?」
「……何でだ?」
「だって、これからお米は家畜のエサじゃなくて、パンに並ぶ主食になっていくんだよ? フォクス領だけじゃ需要と供給が合わなくて、お米が高級品になっちゃうじゃない!」
私が力説すれば、隣でノアがうんうんと頷いている。ノアもすっかりお米の虜だ。納豆だけは受け付けなかったけど、和食をかなり気に入っているみたい。
「ジン、協力してもらえないかな。また姉さんが暴走しないように」
「暴走?」
「田んぼを作るって言って、100メートル近い深さの……ジンの家くらいの広さがある穴を一瞬で作ったんだよね」
待って、ノア。それは私の黒歴史……。あぁ、ほらジンが呆れちゃってる。
「しかも、まだある」
「はぁ? まだあんのか?」
「ジンだって姉さんの魔術を見ただろ? 規格外なんだよ。色々と」
「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」
「何? 姉さん」
こてりと首を傾げるノアが可愛い。フォクス家から借りた淡い緑色の着物がよく似合っている。あぁ、眼福……じゃなくて!
「ね、もういいでしょ? 大丈夫。これからは失敗しな……いことはないかもだけど、気を付けるし」
「姉さん。これから長い付き合いになるんだから、ジンには知っておいてもらうべきだよ。色々と」
「色々と?」
これってもしかして──。
「話したいんじゃないの?」
ノアの声は優しい。なんで分かったんだろう。魔術で私の心が読めたの? って聞きたいくらい。そんな魔術は今のところ存在してないけどさ。あるのは自白させるものだけだもん。それも使えるのは司法を司るシュツェ家だけ。シュツェ家の当主が受け継いでるのだ。
ジンの祖先は転移者。だからフォクス領は他の領地と文化が違う。きっと前世の私がいた日本を1番理解してくれる。何より、私がジンに理解して欲しいと願ってしまった。私自身のことを。
だけど、ここで話したらきっと駕籠を担いでるお兄さんたちにも聞こえてしまう。
「大丈夫だよ。僕の魔術で周りには聞こえないようにするから」
「何でさっきから私の考えがわかるの!?」
「顔に全部書いてあるから。姉さんは分かりやす過ぎるんだよ」
うぅ、ノアがツンツンしてる。それなのに、私のことを想って言ってくれてるのが分かるんだよね。あぁ……ツンデレ属性だったな、ノアは。私にはデレのみだったけど、遂に私にもツンも出すようになったのね。
これもまた、心の成長だよね。いつまでも姉にデレデレしてくれる訳ないもん。寂しいけれど、見守ろう。ノアの成長を。
「ねぇ。姉さん、ろくでもないこと考えてたでしょ」
「そんなことないよ」
弟の成長を喜び、寂しがるのはろくでもないことなんかじゃない。失礼しちゃう。
ろくでもないことなんか考えてないのに、何で3人揃ってそんな目で私を見るわけ? お願いだからそんな目で見ないで欲しい。
オロチ、あなたは私の眷属なのに裏切るのか? こんちくしょう!!