表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/123

口は災いのもと


 翌朝、8畳の和室の隅に布団をたたんで、私とノアの分を重ねてから部屋を出た。あっ、オロチは同じ部屋には寝てないよ。ノアが許さないので別部屋です。


 それにしても、昨日はいつの間に寝ちゃってたんだろう。気がついたら朝で、浴衣がはだけてた。寝ている間にはだけちゃうのが浴衣の弱点だよね。

 前世での旅行でもいつも残るのは帯だけで、前は丸見えになるんだもんなぁ。下着丸見えのすけくんだった。

 

「ねぇ、ノアは何で寝起きからはだけてなかったの?」

「むしろ、何で姉さんはあんなになってたの?」

 

 お互いに首を傾げる。不思議だ。同じ血が流れているはずなのに。

 とりあえず、見えてたのが下着で良かった。シャツを開発してもらっていた成果だね。


 なんて思いながら、廊下を歩いていて食事をしに向かう。気分は旅館に泊まりに来た観光客だ。



 ガラガラとすりガラスの引き戸を開ければ、席に案内してくれた。そして、5分もしないうちに湯気の立つお膳が運ばれてくる。

 焼き鮭、お味噌汁、お付けもの、真っ白なごはん、だし巻き玉子もある。


「あっ! 納豆!!」


 何てこった! 納豆まであるなんて。最高の朝食だ。


「……納豆を知ってるのか?」

「えっ! あっ、ジン。おはよう」

「おはよ。……何で納豆を知ってるんだ? これはうちの領の中でしか食べられないはずだけど」


 うわぁ。またやらかした。どうする? どうすれば……。


「ジン、うちを何だと思てるの? 天下のスコルピウス家だよ?」


 いやいや、いくらなんでもそれじゃ通じないよ。ノアがかばってくれるのは助かるけど。


「うーん。そういうものか? 魔術ってすごいんだな」

「あは、あはははは……」


 うそーん。信じちゃったよ。魔術を知らない人からすれば万能に見えるってことなのかな。それとも、気を遣わせた? 

 やっぱりジンって基本的に表情が変わんないから、なに考えているのか分かんないよー。


「ほら、冷めないうちに食おう。豪華とは言えないけど、絶品だぞ」

「ううん! 十分過ぎるくらい御馳走だよ! いただきまーす!!」

「いただきます」


 手を合わせて3人で食事をする。だし巻き玉子を箸で切ればジュワーとだし汁が溢れてくる。一口サイズにして大根おろしと一緒に口に入れれば、出汁とともにほのかな甘さも広がる。


「おいしいー!!」

「うん、おいしい。でも、この納豆? は苦手かも……」

「あー、納豆はにおいが駄目って人もいるくらいだもんな。無理しなくていいからな」

「ごめん、ありがとう」


 ノアがお漬け物のしょっぱさに驚いたり、だし巻き玉子に目を輝かせたり、魚の食べ方に苦戦しているのを見ながら私も食べ進める。


「ノア、お魚ほぐそうか?」

「……大丈夫。そんなに骨もないしいけそう」


 こんなに苦戦しているノアは珍しい。いつも何でもそつなくこなしてるもんな。

 先に食べ終わったので、ノアを見て目からの栄養を補給していれば、オロチが帰ってきた。


『アリア、われの分の魚は?』

「あっ、おかえり! お腹いっぱいにならなかったの?」


 オロチは何でも食べるけれど、魔物になった本能だろうか、狩りがしたくなるらしい。なので、昨晩は一緒に夕飯をいただいたけど、今朝は一人遠征して来たのだ。


『腹はいっぱいになった。じゃが、魚は別腹だ』


 そう言ったオロチは骨だけなった魚を悲しそうに見つめた。


「新しいのを用意しますよ」

『いや、少し食べたいだけだから用意はいらぬ。我が主から頂戴したかったのだ』


 ジンの申し出を断ったオロチは私をちらりと見た。


「そんなの先に言ってくれなきゃ分かんないよ」


 そう言えば、(いたわ)りが足りぬとかごちゃごちゃうるさい。


「オロチ、そんなに言うなら僕の魚をあげるよ。ほら、あーんして」


 ノアによってボロボロになった魚。それを見たオロチは体を大きく反らした。


『なんじゃこれは。へったくそだな』


 ぴしり、と空気が凍った気がした。このあとどうなったかは、とても私の口からは言えない。オロチ、口は災いのもとなんだよ。


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ