心が瀕死状態になりまして
可愛いものが大好きなだけなのに、ひどい言われようで心をバッキバキに折られた私は、もうやる気ゼロだ。心は瀕死状態である。
そんな私はジンに近付くと、ジンの左肩におでこを乗せた。
「ジン。帰りはおんぶしてって……」
無理なのは分かっているが、ジンにお願いしてみる。ちょっと無茶を言いたいくらいのダメージだったのだ。何度も言うが心は瀕死なのだよ。
あぁ、つらい。言葉の暴力だ。よし、肩に頭をぐりぐりしちゃおう。うん。
「いてででででで……」
ジンは私の両肩を押して、私の頭を離す。そして、何とも形容しがたい視線を向けながら、ぎゅっと抱きしめてくれた。まるで、あやすかのように背中を撫でられる。
「アリア、痛いからやめような」
「うん。でもね、私も心が痛い」
そう答えれば、ジンは小さくため息をついた。
「領までは無理だぞ」
とんとん、と背中を軽く叩いたあと、目の前でジンはしゃがんだ。これは、私をおんぶしてくれるということだろうか。
「いいの?」
「して欲しいんだろ?」
当たり前のようにそう返されて、私は小さく頷いた。
私の方が中身は圧倒的年上なのに、何でだろう……ジンにはすごく甘えたくなる。
「ありがとう」
そう言いながらジンの背中に体を預ければ、「よいしょっ」と言いながらジンは立ち上がった。
「じじくさい」
「うるせー。そんなこと言ってると下ろすぞ」
「やだ。ごめん」
ジンはくつくつと笑いながら「しょーがねーなー」と言う。あぁ、なんて甘い。どろりと溶けてしまいそうだ。
ジンと付き合える子は幸せなんだろうな。うらやましい。オロチがジンに婚約者はいないって言ってたけど、付き合ってる子はいるのかな。好きな子とか……。
まだ見ぬその子を想像して泣きたくなった。私じゃダメなんだろうか。あぁ、でも私は相応しくない。細やかな気遣いもできなくて、中身は年上なのに甘えてしまう。さっきだってジンを膝から落としちゃった。
それに、好きな男の子をおんぶしてダッシュとか……。色気の『い』の字もなければ、良い雰囲気になるわけもない。
「オロチ、私の良いところってどこだと思う?」
ジンに聞く勇気なんてなくて、隣を歩いていたオロチへと聞いてみる。
『魔力が多いところだな』
「魔力……」
まさかの魔力の多さとか……。それは生まれつきのやつだ。褒めてくれてるのだろうけど、真っ先に出てくるのがそれとか微妙に……いや、そこそこ凹む。
あぁ。むしろ魔力くらいしか取り柄がないのかもしれない。そんな思考に囚われた時──。
「アリアは無鉄砲だし危なっかしいけど、まっすぐで優しいところに皆が惹かれるんだと思う。まぁ、貴族らしくはないけどな」
「……それって、ジンも?」
言うつもりなんてなかったのに溢れた言葉。答えを聞きたくないのに、聞きたいだなんてどうかしてる。
「いやっ。今のは……その…………」
顔がカーッと熱くなって、心臓が今度こそ肋骨を突き破って、こんにちはするんじゃないかってくらいにドキドキしてる。
そんな私の気持ちなんて知らないのだろう。ジンはのどを振るわせて笑う。
「俺だってそのうちの一人だよ。当然だろ? アリアはフォクス領の英雄だ」
「あぁ、なんだ。そういうこと……」
拍子抜けするような答えにがっかりしてしまう。だけど、これではっきり分かった。きっと私は恋愛対象として見られていないんだと。
確かにジンの前では食い意地はってたし、楽々おんぶして馬よりも速く走ったし、その他もやらかした気がするけど……。
「どうせ私は女の子らしくないもん」
拗ねたような声が出た。そして、その言葉の身勝手さに自分に絶望する。折角、褒めてくれたのに最悪だ。時を戻す魔術があれば、今すぐ戻したいくらい。




