肋骨から飛び出そう
結界から出たので足を止め、ジンを降ろす。すると、ジンは地面に倒れこんだ。
「大丈夫?」
そう聞いても、手をパタパタと振るだけで言葉はない。これは、乗り物酔いみたいなものだろか。
とりあえず、地面に倒れてるのは良くない……と思うんだよね。
よいしょ、とジンの横に膝をつき、頭を私の太ももに乗せた。世にいう膝枕というやつだ。
「大丈夫? お水とか持ってこようか?」
ここまで手ぶらで来ちゃったし、戻って取ってこようかな。片道15分。往復30分かかるけど、一人にしても大丈夫かな……。
そっとジンの前髪をあげ、おでこを触る。ジンは気持ち良さそうに少しだけ表情をゆるめた。
「ごめん。少し休めば平気だから」
いつもより少し掠れた声でジンは言う。
なんだろう。こんなことを言ってる場合じゃないのは分かってるんだけど、ドキドキする。あぁ、膝枕したのは間違いだった。心臓が出そう。肋骨を突き破って飛び出そうだよ。
「アリアの手、気持ちいいな……」
ジンのおでこに乗せっぱなしだった私の手に、ジンの手が重なる。それを脳が理解した瞬間、多分心臓は肋骨を突き抜けたと思う。
「ふめあぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゴッッッ!!
私の叫びと鈍い音が重なった。ハッとして見れば、私が急に立ち上がったことでジンが再び地面へと転がっている。
「ジンっっっ!!」
殺ってしまった……。じゃなくて、やってしまった。追い討ちをかけるとは正にこのこと。
「どうしたら……。あっ! 回復!! 回復だ!! その手があったじゃん。ジン、すぐに治すからね。ごめんね」
慌てて、ジンに治癒力爆上げの魔術をかける。すると、ジンはゆっくりと体を起こした。
「ジン、ごめんね。大丈夫……じゃないよね。私が急に立つから……」
「いや、俺が悪い。急に手を触ってごめんな。驚かせたよな」
「ううん。違うよ。ただ私が──」
『悪いが、われを先に戻してくれないか』
私の右肩に乗ったオロチがどこか申し訳なさそうに私へと声をかけた。そのことで、にょろりとミミズのように小さくなってしまったオロチのことを思い出す。
そういえば、オロチを元に戻すために結界の外まで来たんだった。
「ごっごめん。忘れてた。すぐに魔力を補充しよう」
私がそう言うや否やオロチは地面へと降りていき、体をくねくねとさせた。まるで準備万端だと言わんばかりに。
「よしっ! 行くよー」
少しずつオロチに魔力を流すと、オロチは徐々に大きく黒くなっていく。
だが、ふとあることが気になり魔力を流すのを中断した。
「ねぇ、今のまま人の姿になるとどうなるの?」
その質問に答えるようにオロチは人の姿へと変わる。もちろんラッキースケベ的展開もない。だが、そこにはラッキースケベよりも悩殺的な褐色の男の子がいた。
「ぎゃんわいぃぃぃぃぃぃ!!」
黒い長髪を低く後ろで結び、赤い瞳は爬虫類のためか瞳孔が縦に細長いのは変わらない。けれど幼さ特有の肉付きのよくなった頬に、丸くなった瞳、ぷにぷにそうな手。4~5歳くらいの見た目の男の子になったオロチに鼻血が出そうだ。出なかったことを褒めて欲しいくらいだ。
「ねぇ、その姿のままでいない? いいよね? いいでしょ?」
鼻息が荒い? 仕方ないと思って欲しい。最凶に可愛いんだもん。もう、この可愛さは凶器だよ。それなのに──。
『アリアが気持ち悪いから嫌だ。幼児サイズのままならずっと魔物の見た目から変わらぬ』
なんてオロチが言うものだから泣く泣くイケメンサイズまで魔力を注ぎましたとも。オロチにショタコンと罵られながら。
くそぅ。ショタコンなんて言葉をオロチの前で使わなきゃ良かった。心的ダメージが大き過ぎる……。




