馬よりも速く
ノアからもらった魔道具の首輪を持って、結界の外へと行こうとした時、呼び止められた。
「ジン?」
「俺も行っちゃダメか?」
ダメってことはないけど、どうやって? だってジンは身体強化できないよね。ということは……。
「おんぶでもいい?」
「えっ?」
「ジンは身体強化できないから、私の速さにどうやっても追い付けないと思う。私、馬より速いから」
私の答えにジンは葛藤しているよう。そりゃそうだろう。同い年の女の子におんぶされるなんて嫌なはずだ。
「ジン、行くの?」
「あぁ、俺が行っても役に立たないのは分かっているけど、心配だろ。オロチ様が弱っていなければ、俺も安心だったけど。ノア様みたいにはできないけど、俺なりにアリアを──」
「ちょっと待った! 今、僕のことをノア様って言ったの? 気持ち悪いからやめてくれない?」
「えっ……と、スコルピウス公爵家のご嫡男様?」
「馬鹿なの? ノアで良いって言ってるでしょ!」
えっ! ノアかわい……。ジンに対して、ツンデレしてる。ノアって実はツンデレだったのか。あぁ、ジンとノア見てたら新しい扉が開きそ──。
未知への扉が開かれそうになった時、ジンが私へと話しかけた。
「アリア、悪いけどおぶってくれるか? ノア、姉さんのことは任せろっていうには頼りないけど、何かあれば盾くらいにはなれるから」
「「盾になんてならなくていいから!」」
私とノアの声が重なった。ノアは一瞬だけ照れくさそうにしたあと、ジンへと真剣な眼差しを向けた。
「盾になんかならなくていい。姉さんがあとで気にするだけだから。それよりも、姉さんが何かしでかさないか見守ってて。基本的には自由にして欲しいけど、時々ビックリするようなことをしでかすから」
「わかった」
ちょっ、ちょっと待った! 何故に私が何かやっちゃう前提なわけ?
「因みにアリアはどんなことをしたんだ?」
「山に穴開けたり、魔物を眷属にして帰ってきたり、いきなり田んぼを作るとか言い出して地面に大穴をあけたりかな。あぁ、川の流れを変えちゃったこともあったっけ。確か一本だった川を途中で二俣にしちゃったんだよね」
「何でまた、そんなことを」
「確か、田んぼには水源が必要! とか言ってたと思ったけど……」
何だか残念なものを見るような目で二人から見られる。ノアにそんな目で見られたことなかったのに! 反抗期か? 反抗期なのか?
視線をそらして、鳴らない口笛をヒューヒューしていれば、二人仲良くため息をつかれてしまった。くっそう、仲良しさんめ!
「じゃ、悪いけどおぶってくれるか?」
「もちろん!」
身体強化をし、らくらくジンをおんぶする。
「わかってたけど、凹むな……」
「そう? 身体強化してれば、ジンの家も簡単に持ち上げられるよ? あっ! しっかりつかまっててね。そうしないと、首が後ろにぐいってなるから」
出発する前に注意事項はジンに伝えたし、オロチもしっかり指に巻き付けた。もちろん、ノアお手製の魔道具も持った。
「よし! 行ってくるね。なるべく速く戻ってくるから。申し訳ないけど、こっちはよろしくね!」
「うん。無茶しないでね」
「わかってるって!」
私はジンを背負って走り出す。馬よりも速く。
「────っっ!?」
ジンの声に鳴らない悲鳴と共に。