僕を信じて
結界を広げるのを止めてノアを見れば、眉が下がってすごく困った表情だった。うん、やらかしたみたいだ。
ノアに声をかけようとしたのだが、その前に空から何かが落ちてきた。
えっと、ミミズ?
頭に乗ったものを手につかむと、ひょろひょろとしたミミズにしては長いそれは、何かを訴えるかのように体をくねくねとさせ、ぐるんぐるんと掴まれた箇所を軸に体を回した。
そんなことはミミズには不可能なような気がする。それに、ミミズにしては白い。
どこかで見たことがある気がするんだよなぁ……。
そう思って動きを止めたミミズっぽいものをまじまじと見れば、赤い舌のようなものがチロチロとしていた。
「オロチ!?」
驚きすぎて落っことしそうになったら、私の人差し指にオロチらしきものは巻き付いた。
『─────』
何かを話しているみたいだけど、全く聞こえない。20センチくらいの長さになってしまったからなのか、声が小さいのだ。
オロチに耳を近づけてもう一度聞けば、オロチはめちゃくちゃ怒ってた。
『無駄にデカい結界をつくりおって。われが危うく消滅するところだったではないか。神聖力が残っていたおかげで命拾いしたが、普通の魔物だったら死んでおったぞ!』
怒っているのだが、人差し指に巻き付いたサイズ感もあってか、可愛い……としか思えない。けどね、私は離れていてって言ったのだから、怒られる筋合いはないんじゃないかな? って思うんだよね。
「無駄にデカいって言ってるけど、あまり離れなかったんじゃないの?」
『離れてたぞ! 結界が巨大過ぎなんじゃ!! 予定していた範囲を優に越えている』
あれ? もしかして、呪文の威力が凄すぎた? 秘伝の魔術だし、私の予想を遥かに越えたのかもしれない。そう思ってノアを見れば、真剣な顔でケンシさんと話している。
やはり、領主さんと話さなければならないほどのことを仕出かしたようだ。
「ノア?」
私の声にノアは小さく笑う。いつの間にこんな表情をするようになったのだろう。その表情は、9歳とは思えない大人っぽさがある。
これが、乙女ゲームの登場人物のスペックってやつなのか……。いや、単に私がちょいちょいやらかして尻拭いさせちゃった結果かも……。
「姉さん、結果の大きさってもう少し小さくできる?」
「やっぱり、大き過ぎたの?」
「これじゃぁ、魔物の住みかもなくなっちゃうよ。まぁ、その魔物も姉さんが7割消しちゃったんだけど」
「えっ!?」
7割? 嘘……はつかないだろうけど、嘘だと言って欲しい。
肉食の魔物は人を襲うけれど、むやみやたらに減らしたりすると生態系に影響が出るらしい。詳しいことは専門家に聞かないと分からないけれど、倒しすぎちゃダメだってセバスが教えてくれた。
「7割って、まずいよね……」
「とりあえず、魔物の住み処の半分は結界から出そう。あとは、父さんとセバスに聞くしかないかな」
ノアの提案に頷くが、問題が。
「半分ってどのくらい?」
そう、よく分からないうちに馬鹿デカい結界を張ってしまったのだ。まさか、こんな失敗をするとは……。
落ち込む私の頭をノアはちょっと背伸びして撫でてくれる。
「姉さんは結界に集中してて。僕が姉さんの魔力を動かすから」
ノアの黄金の瞳が揺らめく。そして、私の両手を握った。
「僕を信じて」
「ノアを信じなかったことなんて一度もないわ!」
くしゃりと笑うノアは、やっぱり最高に可愛い。そして、今日も今日とて当たり前のように尻拭いをしてくれる。
山2つに風穴を開けた以来だろうか。1年ぶりだが、不出来な姉で本当に申し訳ない。
ノアが最初からアリアの魔力を操作しなかった理由は、アリアの魔力を使って魔術を発動させることはできないからです。
大きいものを小さくするなどの調整は可能です。小さいものを大きくは無理ですが。
ないものを作り上げるものは無理ですが、そこにあるものなら動かせています。
上手く説明できずすみません。




