ジュッとね。
確かにノアの言う通りだ。この結界の魔術はスコピアス家に代々伝わるものをお祖父様が更にパワーアップさせたものだ。だが、魔物が入れなくなるということ以外はよくわかっていない。
「ノア、試しに小さい結界を作ってもらえる?」
「いいよ。どのくらいの大きさがいいの?」
ノアの問いに私はバスケットボールくらいの大きさでお願いし、オロチには羽を出してもらった。
「1本もらうね」
『いっっったいじゃないか。急に人の羽を抜くなんて非常識だぞ』
「だから、1本もらうねって言ったじゃん」
むしり取ったオロチの羽をノアに渡し、それに対して結界を張ってもらう。すると──。
「…………えっ」
「うわぁ……!!」
『…………』
上から、私、ノア、オロチの反応である。予想はしていたとしても、目の前にするとやはり戸惑うものだ。オロチは言葉も出ないみたい。
「試しておいてよかったね」
私の言葉にオロチは首を縦にぶんぶんと振っている。よっぽど怖かったんだろうな。自分の羽が一瞬でジュッて音と共に消滅するのは。
「よし! 結界を張るから、オロチは遥か上空にでもいて!!」
言い終わる前にオロチは羽を広げて飛んでいった。そんなに焦らなくても消したりしないのに。
「じゃぁ、ノアはサポートお願いね?」
「任せて!」
にっこり笑うノアは可愛い。さっき、オロチの羽が消えたのを見て楽しそうだったのはきっと気のせいだ。そうに違いない。
私は自分のなかにある魔力を感じながら、イメージを固めていく。
繊細な作業はノアの方が得意だし、結界の範囲が町一つくらいならノアが適任だ。だけど、フォクス領はスコルピウス領ほどではないが広い。人が暮らしている範囲はそこまで広大なわけではないのだが、森や河、山なんかも領地らしいのだ。
なので、魔力量がかなり必要になる。スコルピウス家でも魔力量が格段に多い私かお祖父様の仕事となるわけだ。そして、お祖父様は世界中をおばあ様と旅しているそうで、私もノアも一度も会ったことがない。お父様も最後に会ったのはお父様の結婚式だったって言ってたしね。
つまり、大規模な結界を張れるのは私しかいないということだ。実際は何人かで協力すれば可能らしいが、お父様も王都と自宅のあるスコルピウス領の往復で大変だろうから、甘えてばかりもいられない。
集中、集中……。きちんと言わないと。
「プロウキュラーリ ポウプーローズテリー インメイン サプライザー マンズトリス フェイラリ コンティスーン ターミナム ノウミエニー スコルピウス!!」
普段は使わない呪文。けれど、結界はスコピアス家の魔術なので、呪文が必要なのだとか。基本的に魔術は明確なイメージでどうにかなるが、十二星座の家紋ごとに所有する魔術に関しては話が別らしい。血筋というものも大事なんだって。
ただ、お祖父様と私の魔力は規格外だから他所の家紋が所有する魔術も魔力の消費が異様に多いだけで呪文なしでもできるそう。これを聞いたときはチートかよ! ってセルフ突っ込みしたもんなぁ。
因みに結界の呪文は「この地の民を守るため 魔物からの驚異をなすくため スコルピウスの名のもとに結界を」と言う意味らしい。
上手く呪文が言えたおかげで、結界はみるみる広がっていく。ドンドン広がる結界に慌てたのはノアだった。
ノアは今どのくらい結界が広がっているのかを感知してくれているのだ。
「アリアちゃん!? ストップ、ストップ!」
その言葉に結界を広げるのを止めた。焦って姉さん呼びではなくなったノアに悶えた結界、魔力が少し乱れた気がしたのは、きっと気のせいだ。




