魔物は拾わない!
次の日の朝、私とノアは走ってフォクス領へと向かった。もちろんオロチも一緒だ。
走りながら、昨日の帰ったあとのことを思い出す。
ギリギリ日が沈む前には家に帰れたものの、オロチをなんて説明するのか考えていなかった。だから、プチ騒動になりかけたんだよね。
「姉さん。動物を拾ってきたくらいの感じで、魔物を拾うのはもうやめてよね」
どうやらノアも同じ事を考えていたようで、注意を受ける。ごめんね、と言おうとしたがその前にオロチが口を開いた。
『われは、元神だ。魔物になったのはアリアの魔力を取り込んだからだ。そんじょそこらの魔物と一緒にしないでくれ』
「なんで、姉さんの魔力を取り込んだら魔物になるのさ。天使か女神に決まってるだろ」
当たり前のようにそんなことを言うノア。わりといつものことなのだが、嬉しいものは嬉しい。
優しい弟ににんまりと笑っていれば、オロチが私とノアを交互に見た。
『まさか、姉弟で付き合っているのか?』
「はぁ? 何言ってんの?」
ノアから軽蔑を含んだ視線を受けたオロチだが、本人は全く気にもしない。
『どう見てもできてる男女ではないか!?』
「本当に何言ってるの? どう見ても仲良し姉弟でしょ。ねぇ、ノア?」
「そうだね。僕たちほど仲の良い姉弟はなかなかいない! ってくらい仲良しだよね」
ノアはにっこり私に微笑んでくれる。ふふっ。相変わらず天使だ。可愛い。
私には天使の微笑みを浮かべてくれたノアだが、オロチには厳しい表情をみせた。
「ねぇ、あまり姉さんに近付かないでくれるかな? 考え方が下衆過ぎるよ」
『何だと?』
オロチは細く先が割れた舌を口から出し、低い声で唸る。何だか、とっても雰囲気が悪い。これは、場を和ませる必要があるのでは!?
よしっ! 今こそ前世の知識を使う時だ。
「二人ともやめて! 私のために争わないで!!」
どうだ! 何言ってるんだよー、的な笑いよ来いっ! さぁ、来るんだっ!! そう期待したのだけど──。
「姉さんのためになら争うに決まってるでしょ」
『眷属になったからには、アリアのために戦うのは当然だ』
……えっ? えぇぇぇぇぇぇええ!!
「そこは、何言ってるんだよ。あはははは……ってなるところでしょう!?」
わぁ。2人そろって首を傾げてる。私がおかしいのか? そうなのか? 違うよね!?
「あっ! 忘れないうちにオロチに伝えとくね。姉さんの邪魔をしたり、足を引っ張ったり、少しでも害になりそうならすぐに処分するから」
『それは、アリアの役に立つ存在なら傍にいても問題ないということか?』
「仕方ないからね。姉さんは今後も活動範囲を広げるだろうけど、僕もいつも一緒に行けるわけじゃないからさ」
『あぁ。なるほど』
おいこら、オロチ。なるほどって何かな。含みを感じるんだけど。
「姉さんがやりたいことを、めいいっぱい好きにできるようにサポートできるよね?」
『当たり前だ』
えっ? 何だか急に仲直りしたんだけど。男の子って分かんないもんだなぁ。
それにしても、ノアってばスゴく私のこと心配してくれていたんだ。嬉しいけど、ちょっと悪いことしちゃったな。
「姉さん。もし何かあったらオロチを盾にして逃げてきてね」
「わかった! そうするね」
この後、またノアとオロチの言い争いが始まったのだが、放っておくことにして周囲を警戒しながら走る。そして昨日、魔物がたくさんいた辺りまできたのだが、魔物の気配が全くしない。
「ねぇ、なんでこんなに魔物がいないの?」
『それは、われの魔力が圧倒的に優れているからだ』
「どういうこと?」
『われの魔力が圧倒的捕食者の立場を確立しているからな』
分かったような、分からないような……。あぁ! こういうことかも。
「挑んでも絶対に負けることが分かっている相手が来れば、魔物も逃げるか隠れるかするってこと?」
『そういうことだ』
「へぇ。因みにオロチが勝てない相手ってどんなのがいるの?」
いや、ノア待って。そういうフラグはいらないから。そういうことを言うと、遭遇率が上がるんだよ。
『伝説のドラゴンとかくらいだな。だから、われが負けることはあり得ないな』
フラグを立てられたことで、もしかして! とも思ったがドラゴンが現れることなく、無事にフォクス領へと到着したのであった。




