団子の神様
黒髪の同い年の少年が木の真下からこちらに向かって叫んでいる。その少年の右手にはみたらし団子が2本、左手にあん団子が2本。
「お団子……」
私はお団子目掛けて木から飛び降りた。お団子が私を呼んでいる。レッツ、お団子タイムだ。
「くれるの?」
目の前に飛び降りれば、少年はあんぐりと口を開けている。
これは、あれだな。
私はリュックからチョコレートを取り出すと、開いていた口に1つ入れた。
「おいしい?」
そう聞けば頷いてくれたので、持ってきていた残りのチョコレートを渡すことにする。これで交換できるだろう。
「このチョコレートとお団子を交換してくれる?」
きっとこれで要求はのめたはずだ。だって、何か変わりに食べ物を渡すように、って口を開けてたのだから。
「いや、これはいらない」
「えっ!! えっと……お弁当はもう食べちゃったし、他に交換できるものは……」
がさごそとリュックの中を探していると、目の前にあん団子の方がずいっと差し出された。
「やるよ。食いたかったんだろ?」
なっ、なんて良いやつなんだ!! 神だ! 団子の神様だ!!
「ありがとうございます!」
もう、手を合わせちゃう! 南無南無しちゃうよ。
「何してんだ?」
「拝んでるのですよ」
「何で?」
「団子の神様だからです」
そう答えると少年は変なものを見るような目で私を見た。……うん、久々だな。こんな目で見られるのは。
「おまえ、よく阿呆の子とか言われない?」
「全然! むしろ、天才とかの方が言われますよ」
うわっ! 今度は可哀想な子を見る目になった!! この感じ、なんかいいなぁ。楽しい。
『アリア。この少年より、われの方が神だぞ』
そう言いながら、オロチが背中からカラスみたいな真っ黒な羽を生やして降りてきた。
……羽とか生やせたんだ。ってか、人間の姿になった意味なくなっちゃったんだけど。どう見ても魔物じゃん。ほら、少年も警戒して……ないね。
そういえば、私が木のテッペンから飛び降りた時も驚いてはいたけど、態度は普通だったもんなぁ。
『何せ、元大蛇様だからな!』
「えっ? それ言っちゃって良いやつなの?」
『何もやましいことはない。つまり、隠す必要もない!!』
堂々と羽をバサバサしながら言い切るオロチ。そこまで堂々とされていると何だか大丈夫な気がしてくる。
「この羽をバサバサしてるの大蛇様なの!!」
「あー、うん」
うっわぁ! これはどんな反応なの?
「えっと、何でこんなになったかというと私の仲間になったからかなぁ?」
『眷属になったからな!』
「それも言うの!?」
『やましいことはないからな!!』
またそれなの!? これは流石に大丈夫じゃないんじゃ……。
ちらりと少年を見る。だけど、何を考えているのか分からない。何でこんなに表情が読めないのだろう。
少しの沈黙のあと、少年は小さく首を傾げた。
「大蛇様がこの少女の眷属になったことでお姿が変わられたということであってるか?」
あってるよ? あってるけど、何故冷静!? 普通はもっとこう……あるじゃん。いろいろと。
『そういうことだ。だから、祠からも出てアリアに付いて行くことになる』
「そうですか。それはいつからでしょうか」
『もうすでに始まっておる』
その言葉に少年は一瞬だけ眉間にしわを寄せたが、すぐにオロチへと頭を下げた。物凄く深く。
「大蛇様、今まで本当にありがとうございました。自由にする力がなく、長いこと閉じ込めてしまい申し訳ありませんでした」
『いや。お前さん等がいなかったら、われはとっくに消滅していた。感謝するのはわれの方だ』
どういうことだ? まったく話の展開が読めない。
「あの……」
どういうこと? と聞こうとすれば、あん団子をもう一度差し出される。
「俺はジン。名前は?」
「アリア。好きに呼んで。えっと、ジンって呼んでも?」
「あぁ。俺もアリアって呼ん……アリア様って呼ぶから」
えっ!? 何故に? 公爵家だってバレてないはずなのに?
「大蛇様を眷属にできるほどの力の持ち主なら様付けくらいしないとな」
しないとな、ではない。こんなにフレンドリーなのに急な距離感とかやめて欲しい。
「いや、普通にアリアでよろしく」
「……わかった。じゃあ、アリア。みたらしとあんこ、どっち? 両方?」
「両方で!!」
あっ。図々しかったか。いや、ここは素直になるのが1番だ。ほら、両方くれたよ。いやっほい!!
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