金運だ
異世界転生の次は江戸時代……、ってそんなわけがない。
「ちょっとオロチ。どういうこと?」
『どうとは? これがフォクス領の普通の風景だぞ』
えっと……、オロチは江戸時代からやって来たってこと? だから着物の人がいっぱいいて、街並みが江戸時代風なの? いやいや、それだったら私には石板の文字は読めないはず。
『この領地はな、われと竜二の浪漫なのだよ』
「ろまん?」
『そうだ。美しいだろ、この街並み。海外の影響を受けた明治時代の建物も美しかったが、やはり日本独自の美しさがわれは好きでな』
ん? 今、明治時代って言葉が出てきたよね。一体、いつからこの世界に来たんだろ。
「オロチたちは、いつの時代から来たの? 私は令和だったんだけど」
『令和? 聞いたことないな。われは昭和だ。戦後すぐあとだから、世の中は荒れていた』
だから、盗賊とかがいたのかな。確か、歴史の先生が闇市とかあったって言ってたし。
それに戦後であれば、私が石板の文字を読めたことも納得できる。
オロチの話を聞きながら視力を強化しながら街を眺めていれば、私の目にあるものが飛び込んできた。
それは欲して止まないものの1つであった。
串に4つ刺さっていて、雪のように真っ白なもちもちした丸いものに甘じょっぱい茶色いたれを絡ませたであろうそれを脳が何かしっかりと理解した途端、口のなかにじゅわーっと唾液が広がった。
じゅるり、と唾液をすすって飲み込む。
みたらし団子。それは、私の心を掴んで離さない。目が釘付けだ。しかも、よく見ると手元には湯呑みがあり緑色の液体が入っている。
「ねぇ、オロチ」
『なんだ?』
「ここにはお団子も、お米も、味噌も醤油もあるの? 和食って概念があるの!?」
『あるぞ。われと竜二が広めた』
まさか、まさかだ!! 嬉しい誤算とはこのことに違いない。
「私、フォクス領にお嫁にきたいな」
『ほう。ならば、あそこにいる黒髪はお前さんと同い年だぞ。うまくいけば縁談をまとめられるのではないか?』
思わず出た言葉に、オロチはすかさず一人の少年を指差して答えた。すると──。
「えっ!?」
今、目があった? こっちを見てたの? でも、この距離だよ?
私は視力強化してるから見えるけど、大きさ的には米粒サイズになるくらい離れている。相手からはよく見えないはずだ。いや、いることすら認識されていないはず。
なのに、なんだろう。胸がざわざわする。
「今、あの子と目があった気がしたんだけど……」
『この距離でか?』
オロチの言いたいことは分かる。私も同じように思ったから。だけど、あの真っ黒な瞳が忘れられない。
「あの子、日本人みたいだった」
『そりゃ、竜二の子孫だからな』
あぁ、そうか。竜二さんの血を引いてるから黒髪黒目なのか。
もう一度さっきの子が見たくて探すけれど、どこにもいない。見失ってしまったようだ。
仕方がない。街並みともっと遠くを視察するかな。
そう決めて観察を始めれば、田んぼなのだろう。青々とした稲が見える。その他にも桜のような蕾がある木や、川には和船がある。
「すごい。本当に昔の日本だ。知らないものもあるけど、私にも懐かしいものがたくさんある」
『そりゃあ、竜二にわれも協力したからな。当然だ』
「……オロチって何の神様だったの?」
『金運だ』
「……豊穣とか創造じゃないの?」
『いや、金運だ』
確かにお金は大事だけど、農業とか街づくりとかを考えると、それなんかーい! ってなる。いや、本当に金運って大事なんだけどさ。
「じゃあ、フォクス領をつくるうえで何の役に立ったの? 資金面?」
『いや、竜二と一緒に家を建てたぞ!』
わーぉ!! 竜二さんって人はチートだったの? 私には無理だよ。一体、何者?
「竜二さんって何をやってた──」
「おーーーいっっ!! 団子食うかー?」
私が竜二さんについて聞こうとした時、木の下から変声期を迎える前の少年の声がした。




