指の隙間からのぞいてみよう!
わわわわわっ!!
ラッキースケベに備えて顔を手で隠し、指の隙間からのぞく。えっ? 見てるじゃないかって? 乙女心と好奇心の結果だから仕方がない、としか言えない。同じ立場になったら大半の女子はそうするはずだ、と私は信じている。
指の隙間からのぞいた大蛇は褐色の肌をしていた。褐色の肌に黒い長髪を低く後ろで結び、赤い瞳は爬虫類のためか瞳孔が縦に細長い。
180センチ後半はあるであろう、どこか神経質そうな雰囲気の男はこちらを見て、細長くて先が2つに別れた真っ赤な舌をチラつかせた。その姿は扇情的でもある。
『見とれたか?』
にんまりと大蛇が笑う。だが、私は静かに首を振った。
「ううん。全裸は困ると思ったけど、貴方がいつも裸のはずなのに、ちゃんと着てることに戸惑ってる」
そう、大蛇は服を着ていた。正確に言えば、着物だが。黒のパイソン柄の着物の前をゆるく着崩しているのがめちゃくちゃ似合っている。
「あと、神経質そうな顔立ちなのに、着物を着崩したのが似合ってることにも驚いてる」
『褒められてるんだよな?』
「うん。イケメンでビックリした。まさか、人型になれるとは」
素直な感想に大蛇は嬉しそうに笑う。そうすると、神経質そうな雰囲気は消え、無邪気さが顔を出した。
「ねぇ、着物はどこから出したの?」
『ん? いつも着ているだろう?』
「えっ? 着てないよね。服を着るヘビなんて聞いたことない」
『脱皮して脱いでるではないか。知らないとは言わせないぞ? それと、われはヘビではないからな』
脱皮で脱ぐって……。あれは、服みたいなものだったの!?
「ってか、あれは半透明じゃなかったっけ?」
『そんな透け透けな服を纏っていたら変態ではないか。そんなことを神であったわれがするわけがないだろう!!』
えっ、そこにこだわるの? 確かに変態呼ばわりはいやか……。
「世の中、知らないことで溢れてるんだね」
本人たちにしか分からないことって、やっぱりあるんだな。脱皮した皮が実は服だなんて、人間には分かんないよね。
「よし! フォクス領に行くけど、大蛇って走れるの?」
『無論だ』
その言葉に安心して走り出せば、大蛇も着いてくる。
「ねぇ、大蛇姿じゃない時はなんて呼べばいい?」
『お前さんに任せる』
「えー!? んじゃ、大蛇で」
『単に読み方を変えただけではないか』
確かにそうだけど、雰囲気はだいぶ変わると思うんだよね。【ダイジャ】と【オロチ】なら、オロチの方が外国の人の名前って気がするんだもん。私だけかもしれないけどね。
『そういえば、お前さんの名は何て言うんだ?』
「アリアだよ。アリアって呼んで。それにしても、今更だね」
クスクス笑いながら走っていけば、あとは河を越えればフォクス領という場所へとあっという間に到着した。
地図上だと山が4つに谷と河が2つずつだったけど、実際は 山を5つ、谷を2つ、河を3つほど越えなくてはならなかった。やっぱり魔物も多いし、正確な地図は作れなかったのだろう。
そして、最後の河を渡る。
近付きすぎて警戒されると困るので、目に留まった1番高い木のテッペンへとオロチと登り、見下ろした。すると、そこは──。
「江戸時代?」
着物を着た人がたくさんいた。そして、家の造りが教科書で見た江戸時代の街並みにそっくりだったのだ。




