こんなところにいたんかー!!
この5年間もお米を探しをしてはいた。書斎という名のバカデカい、図書館並みの部屋で本の海にも溺れたし、領民への聞き込みもした。
だが、一向に見つからない。艶々と白く輝く炊き上がり。もっちりとした食感で噛めば噛むほど甘い。私は圧倒的コシヒカリ派だった。他のお米を否定するわけではない。単なる好みの話だ。
コシヒカリほどのクオリティはこの世界では無理だとは分かっている。それでも、お米はあるのではないか……と思ってしまうのだ。というか、諦めきれない。
今日は隣の領まで聞きに行ってみようかな。
スコルピウス領と隣接する領地は全部で16箇所もある。単純に領地が広大だからっていうのが大きいだろう。
頭のなかで地図を思い浮かべ、目星をつける。とりあえず、隣接している領のなかでも一番大きいところから行ってみよう。
あっ! うちの領内じゃないから近くに行ったら馬に乗ってた方がいいかな。馬よりも速く走る人間って、見たことない人からしたら怖いんだった。
スコルピウス領のみんなは、昔から領主家族が魔術を使うのを目にしているから驚かないみたいだけど、道中で出逢った商人さんは腰抜かしてたもんな。泣いて頭を下げて命乞いをされた時には、なんの冗談かと思ったもん。
「よし、馬も一緒にいこう! 誰に一緒に行ってもらおうかな。体力自慢のマッスルか、美しい毛並みのサロン、ひょうきんなオカメ……。悩むなぁ」
馬舎へと行けば、ちょうどごはん中だった。そういえば、うちのお馬ちゃんたちは何を食べてるんだろ?
そう思って覗き込めば、自分の目を疑った。
なぜ、米がある?
というか、馬は米は食べないだろ。いや、食べるか? 前世では聞いたこともない。
豚は米を食べたはずだけど。確か、肉質が良くなるって聞いたことがある気がする。
で、馬は? そもそもうちのお馬ちゃんたちは魔物の血も混ざってる混血だから、馬なのに肉も食べる。ということは、雑食? 何でもあり……なのか?
それにしても、私の5年の苦労はいったい……。こんなに身近にいたとは思いもしなかった。
いや、今見つかって良かったと思おう。
気持ちを切り替えて、私の仲良しのマッスル、サロン、オカメのごはんを見たが、お米が入っているのはオカメとサロンだけ。マッスルには入っていない。代わりにマッスルには何かの生肉が大量に積まれている。
これは、筋力を維持するためのたんぱく質なのか?
「ごめん、オカメ。一粒もらうね」
鼻息荒く睨み付けてくるオカメにもう一度謝り米を手に取ると、馬のお世話をしてくれているホーマに声をかけた。
「ホーマ、オカメのごはんに入ってるこれなんだけど……」
「ひょえぇぇえ。どどどどどおされましたでするか?」
「いや、このエサについて知りたくて」
「えええぇぇエサについてでございまするね。どちどどどちらの……」
すんごい挙動不審だ。視線が全く合わないだけではなく、エサを見せてるのにこちらを向こうともしない。まぁ、いつものことなんだけど。
ホーマは子どもが苦手らしい、と噂で聞いたことがある。お父様と話しているのを見かけたときは普通だった。口調は敬語が苦手みたいでちょっと変わってたけど。
「ホーマ。これだよ、これ。貴方の知識が必要なの。よーく見て。これについて知っていることを全て教えて欲しいの」
やっとこっちを向いたホーマは瞳を輝かせた。
「これは、稲と呼ばれる作物が秋になると黄金色に輝いて見えるとかで、その輝く部分を穂と呼ぶんだ。1本の穂にはこの小さな粒が80~100個もあって、栄養価も高いんだと。産地も限られてるっちゅー話で、おらが知ってるのはフォクス領だけだな。だが、あそこは山や谷に囲まれてて他の領地に比べたら閉鎖的だろ? 独自の文化が作られてるっちゅー噂だな。その中の1つがこの稲なんだわ。家畜が食べると肉質が柔らかくなるとかっちゅー話だ。そいで、毒はないみたいだし試しにこいつ等にあげたら好みはあるみたいだが、好物になったやつもいてな──」
話しかけると気の毒だからと、なるべく話しかけないようにしていたが、特に気にすることもなかったみたい。どうやら、関心のあることにだけ饒舌になるタイプだったよう。
止まらないホーマの言葉に相槌を打ちながら、フォクス領について調べる決意をした。