信じられるもの リカルドside2
また、魔力が溢れる! と思ったが、すぐにガーディン達といる時と同じように溢れた魔力が消えた。
「ふむ、感情の起伏ですぐに魔力が溢れるようですな。魔力制御訓練がかなり必要でしょう。リカルド様、これをお使いくだされ」
渡されたのは片手に収まるサイズの透明な立方体。
「坊っちゃん、手本を見せて差し上げてくだされ」
そう言って、セバスは立方体を投げた。視線を向けることなくノアはキャッチすると、あっという間に虹色に染めあげていく。
思わず見いっている間にも、セバスは立方体を更にもう一つ投げた。そして、それもなんなくノアは虹色に染める。
「リカルド様にも立方体2つを等間隔に染めてもらいます。まずは、1つから始めてみてくだされ。上手くできるようになったら2つ目に入りますぞ。
最低限2つできなければ合格にはなりませんので頑張って下され」
「……お前はどれくらいでできるようになったんだ?」
俺が聞けばあからさまに嫌そうな顔をしながら「3日」と答えた。
思ったより簡単なのだな……と安心し、魔力を込めると赤、黄色、紫と3色しか色がない。
思わず立方体をまじまじと見る。
……壊れてるのか?
そんな俺の心を読んだかのように「壊れてないから」と言って、少し離れた場所から綺麗に7色に染められた。
「……ただやってるだけじゃ、いつまで経ってもできないよ。きちんとイメージしないと。
イメージして魔力をコントロールできれば、こんなことだってできる」
そういうと、立方体の中がまるでスノードームのようになった。
「お前、すごいな!!」
感動して思わず叫んでしまった。
どうなっているのか知りたくて上から下からと様々な角度で眺めていると、笑い声が聞こえた。
「ノアでいいよ。ぼくもリカルドって呼ぶから」
つい先程までとは違い柔らかな表情でオレを見ていた。
……これって、もしかして! 期待で胸が膨らんだ。
「オレたち、友達か?」
初めて友達ができたんじゃないだろうか。王子としてではなく、オレ個人の!
「いや、友達じゃないけど。せいぜい、知り合いってところじゃない?」
辛辣な言葉にショックを受けているオレの姿を見てますます楽しそうにしている。ノアを恨みがましく睨み付ける。
「ぼくは出会ってすぐの人を友人とは言わないよ。そんなこと言ったら、挨拶した人みんなが友達になっちゃうからね。
ぼくの立場上、ぼくと仲良くしたい人間ははいて捨てるほどいるんだ。友人は厳選しないと痛い目みるよ。
これはリカルド、君にも言えることだ。人を見る目もぼく達はこれから必要となるんだよ」
なるほど……。確かにノアの言うとおりだ。
「でも、オレはオレの直感を信じる! オレはノアと友達になりたい」
驚いたようにオレを見た後ノアは笑った。
「考えとくよ」
どこか嬉しそうなその表情に、もう友達じゃん! と思ったのはノアには秘密だ。恥ずかしがって否定されそうだからな。
訓練開始から20日が経った。ノアが3日で出来たというのに、オレはまだ出来ていない。
昨日やっと7色にはなったが、半分近くが赤色で全く均一に色を並べられなかった。
「……ノア、お前本当に3日で?」
ここまで出来ないとノアが3日で出来たとか信じたくない。
「なんでぼくが嘘つくんだよ。なんの得にもならないだろ」
そりゃそうなんだけど、ここまで才能の差を見せつけられると凹む。魔力はオレの方があるはずなのに。
「20日でどこまで出来るようになった?」
聞けば自分のプライドがズタズタになると分かっていたのに思わず聞いてしまった。
「基礎的な魔術を一通りは。少し応用もやったかな。まぁ、そのあとはちょっと休んでたけど」
「ということは、今はもう基礎は……」
「やってるわけないだろ」
聞かなきゃ良かった。オレが才能がないのか、こいつが特別なのか。
明らかにテンションの下がったオレを見て、面倒くさそうな顔をした後、手招きで近くまで呼ばれる。
「こういうのは感覚だから。1回やってみて」
言われた通りにやれば、6色しかない上に紫と青の部分がやけに狭い。
そんなオレの立方体の上にノアは手を乗せ「魔力の流れを感じて……」と言い、立方体に入っているオレの魔力を動かし始め、あっという間にお手本の時のような綺麗な虹色にしてしまった。
「分かった?」
「悪い、もう一度お願いできないか?」
魔力が動いたのは分かったが、それ以上は分からなかった。その後オレはノアに何度も頭を下げ何十回とやってもらい漸く感覚をつかんだのだった。
そして、それから3日後。ついに2つの立方体を虹色に染められるようになり、城へと帰るかもう少し世話になるかを決められるようになった。
「とりあえず帰って、また来てもいいか?」
城の様子も気になるので、そう言えば「好きにすれば良い」と公爵から言われた。アリアには近付くなとの条件付きだが。
長いようで短かった3週間ちょっと。ついに帰る時が来た。馬車の前にノアとガーディン、キャルロットが見送りに来てくれている。
「よく頑張ったな」
そう言いながら、ガーディンの武骨な手に頭を撫でられ、キャルロットに手を取られる。
「城には俺達も行く。側で守るから安心しな」
「もう嫌な思いなんてさせないからね」
思わず泣きそうになったがグッとこらえる。しかし、その苦労はあっさりと意味がないものに。
「ガーディ兄さん、ロット姉さん、リカルドのことよろしくね。友達なんだ」
後ろからノアの声が聞こえたが、もう振り替えれなかった。無言で手をあげて挨拶をして馬車へと乗り込む。
師匠には先に挨拶しておいて良かった。こんな顔、恥ずかしくて見せられない。
そんなオレのことなんてきっとお見通しなのだろう、楽しそうに笑う声が聞こえてきたのだった。
次の更新にて第1章はおわりになります。