親しげにしないで、とは言ったけど
お茶会の会場へとリカルドと戻ると、元の和やかな雰囲気に戻っていた。だが、私とリカルドに気が付いたのだろう。会場内には緊張が走った。
そんななか、私たちの方へとレオナルドとカトリーナがやって来た。
「リカルド」
「兄上……」
お互いを呼びあった後は、次の言葉を探しているのか無言になってしまった二人。
いやいや、リカルドよ。あなたはブラコンでしょう? 子どもらしく好き好きアピールしなさいよ。これじゃあ、埒があかないじゃん。
間を取り持つか、否か。関わり合いを最小限にしたいのなら、放っておくべきだ。けれど、既に十二分に関わってしまった今、この二人をこのままにしておいていいのだろうか……。
「リカルド様、あちらで一緒にお菓子を召し上がりませんか? レオナルド様もご一緒に」
私がぐだぐだと悩んでいる間に、にこりと笑いながらカトリーナが二人を誘ってくれた。
ありがとう! これで、気兼ねなくこの場から逃げ出せる!!
「じゃあ、私はお母様のところへ──」
「アリア様も是非いらしてください。私、アリア様と仲良くなりたいのです」
そう言いながらカトリーナは私の手を握った。サファイアブルーの瞳がキラキラと輝き、私を見詰めている。
うぐぅ……、可愛い。可愛いの極み!
ノアとはまた違う、女の子ならではの可愛さがここにあった。仲良くなってはダメだ。そう思っているのに、私はふらふらとカトリーナに手を引かれて席についてしまったのだ。
カトリーナは魅了の魔術を使っているんじゃないかってくらい私のトキメキポイントを押してくる。まぁ、単に顔がいい子を見ているのが好きなだけなのかもしれないけど。
カトリーナの可愛さに負けて席につけば、想像以上に和やかだった。カトリーナが上手いことレオナルドとリカルドのぎこちない会話を盛り上げている。それに、私が飽きないようにと気配りも完璧である。
どんだけすごいの、カトリーナ。IQ200の設定は伊達じゃなかった。
それにしても、カトリーナは他の子達みたいに魔力の高い私とリカルドが怖くないのだろうか。カトリーナを盗み見れば、視線が合い微笑まれた。
「怖くないですよ。本当に怖いのは自らの意思で他人を傷付けようとするヒトですから」
「えっ!?」
「違いましたか? てっきりそうなのかと思ってしまいました。申し訳ありません」
「……いえ、よくわかりましたね」
カトリーナはこちらの様子を伺っている人たちに視線を向ける。
「私が同じ立場ならば、アリア様と同じ疑問を持つと思っただけです」
そう言ったカトリーナの瞳は冷めたい。いくら頭が良くて大人顔負けの気配りができても、子どもらしい好奇心や感情が見え隠れしていたカトリーナ。けれど今の冷めた瞳は、色々なことを諦め、軽蔑しているようにも見えた。
「カトリーナさん?」
呼び掛ければ、カトリーナは変わらない笑みを浮かべる。そして、何事もなかったかのように再び話始めた。そんなカトリーナが気にはなるが、私の出る幕ではないだろう。次に会うのは高等部なのだから。
そして、もう一つ気になることが──。
「レオナルド様、そろそろ他の皆さんともお話をされてはいかがですか?」
レオナルドとお近づきになりたい子息・子女と、子どもをレオナルドに売り込みたい親たちの視線が痛い。近付きたいが、私とリカルドが怖くて近付けない、というところだろう。
「あぁ、それなら大丈夫だよ。気にしないで」
いやいやいやいや、だいじょばないよ? レオナルドは大丈夫だろうけど、私は大丈夫じゃないからね?
婚約者候補の辞退をしたいのに仲良さそうにしていたら、上手くいかないでしょうよ。
「アリア嬢はつれないなぁ。僕はこんなにあなたを想っているのに」
ぎゃっ、ぎゃふんっっ!! 親しげにするなって言ったらそう来るの? たらしだ! すけこましだぁ!!
だけどねぇ、ノアの方が可愛いんだから! そのくらいの可愛さで私を懐柔できると思ったら大間違いなんだからね!!
レオナルドはこんなだし、魔力の暴走は今更できないし。全くもって予定通りにいかないにも程がある。
こうなったら王家に恩を売りまくって有利になるか、レオナルドに嫌われるかの2択かな。だけど、次期国王の不興を買うのはリスクが高すぎる。好きになれないって思われるくらいがちょうど良いんだよね。
うーん、どうにかして恩ポイントを稼げないだろうか。そう思い、レオナルドとリカルドを眺めれば、一つの案が閃いた。これは、家族会議案件である。
忘れないようにと、脳の記憶力の中枢である海馬を魔力で一時的にパワーアップをさせてしっかりと頭に叩き込んだ。
体の機能の強化はね、脳にも使えるのだよ。ふふふ、これで私も天才少女だね。まぁ、めったに使わないけどさ。




