前へ
私は護衛の人たちに連れてきてもらった応接間でリカルドと二人きりになっていた。
二人きりになれたのは良いけど、リカルドに怯えられてしまったんだよなぁ。ビンタがいけなかった。
ちゃんと手当てもしたし、飛んだあとは怪我をしないように身体強化もしたんだけど、やっぱりダメだったか。もう、どうしたら良いのやら。
……まぁ、怯えられていても話はできるから、良いことにしよう。今更、ビンタしてことを取り消すこともできなければ、時が戻ったとしても同じことをしちゃうだろうし。でも、やっぱり痛かっただろうし悪いことしちゃったなぁ。
「頬はまだ痛いですか?」
「…………」
まさかの無言? これは地味に堪えるなぁ。下向いちゃってるし。いや、私が悪いんだけども。
「本当にごめんなさい。私といるのがイヤなのは分かるけど、今から大きな独り言を言うので聞いててくださいね」
「………………」
やっぱり無言かぁ。仕方がない、一人で勝手に話すか。聞こえてはいるんだろうし。
「あーぁ。目が紅いってだけで、お父様かお母様が不義をした、親が違うなんて言われたらイヤになっちゃうなぁ。
瞳が紅いのは、魔力量が多いからだけなんだけどな。だから、遺伝……お父様やお母様、お祖父様、お祖母様と違うのは当たり前なのに。魔力が多いだけで目の色が変わるんだもの。
私は最近までは黄金の瞳だったしさぁ。魔力が増えたら紅になっただけなんだよね。瞳が赤いのは魔力が高い証拠だからさー」
重要だからしつこく言ったけど、伝わったかな。チラリとリカルドの方を見れば、下がっていた顔が上がっている。
「オレの目が赤いのって……」
「魔力が多いからってだけですね」
「母上と他の男の人との間に生まれたのがオレなんじゃ」
「ないですね。リカルド様は王様似じゃないですか。王様の幼い頃の肖像画を拝見したことがありますが、そっくりですよ。お父様も、王様の幼い頃にリカルド様はよく似ているとおっしゃってました。
あっ、うちのお父様と王様は幼なじみなんですよ」
ポーカーフェイスを保ちながら答えたが、心のなかは舌打ちの嵐だ。
誰だよ、こんな幼い子にそんなこと教えたのは! 絶対に見つけ出して潰してやるからな、お父様が。そのためには情報収集しないと。
でも、その前に確認しておかないといけないことがある。場合によっては、大変なことになるだろう。
「リカルド様は、王位継承を望まれますか?」
「……えっ?」
「ご自身が王様になりたいと思ったことはありますか?」
驚きで目を見開いたリカルド様を見詰め、言葉を重ねる。この答えによっては、スコルピウス家も動きを変えなくてはならなくなる。そのくらい重要なのだ。
「あっ、あるわけないだろ! 王位は兄上が継ぐって決まってるんだ!!」
「ですが、もし継げるとしたら?」
「兄上が王になるに決まっているだろ! 兄上は、すごいんだからな!! 何でもできるし、優しいんだ。もし、オレが兄だったとしても兄上が王になるべきなんだ!」
その答えに胸を撫で下ろす。良かった、これならきっと大丈夫だ。
魔力量が多くて、制御も完璧、魔術にも長けている第2王子という存在になれば、王位争いの火種になりかねない。
でも、リカルドは王位を望まないだろう。私のブラコンセンサーが、彼を仲間だと言っているからね。
「そうですか。でも、それはリカルド様のお考えですよね? もし、リカルド様を王にしたいと思っている人がいたら? リカルド様を一人にした方が都合が良い人がいたら、どうされますか?」
「兄上が……危ない?」
慌てて駆け出そうとするリカルドの腕をとり、落ち着かせる。
「今はまだ何も起きていません。ですが、覚えておいてください。リカルド様に王位を継がせようとしている者が近くにいるはずです。
瞳のこととか、お母様のこととか、色々と言ってくる人はいませんか? そのあとに、自分だけは味方だと言ってくるような人は──」
「いる。そいつらを言えばいいのか? あとは、そいつらのことを信じたふりをして色々と話させるとか?」
そう言ったリカルド様の瞳には陰りはない。本来の彼は利発な子なのかもしれない。だが、いきなり信じたふりをするのは危険だ。疑われて、こちらが予想しない次の手をうってきたり、逃げられる可能性がある。
「リカルド様、赤い瞳のことやお母様のこと、レオナルド様とわざと比較してくる者の名前を全員教えてください。他にもリカルド様がご自身をダメだと思わせる言葉を言ってくる人や、落ち込んだときに励ましてくれる方もですね」
「励ましてくれるやつもか?」
可哀想だけど、仕方がない。敵は殲滅しておきたい。残っていると増殖しかねないから。
「心から優しい言葉をかけてくれる方はいいのです。ですが、もし私が敵ならば辛くあたる人と優しくする人をわけます」
「……そうか、そうだよな」
一瞬悲しそうな表情をしたが、こちらの意図を察したようで次々と名を上げていく。 まだ5歳だけど、彼も厳しい教育を受けているだけのことはある。状況の理解が子どもなのに早い。
「これで全員だ。だが、流石にこの人数は無理だろ?」
「スコルピウス公爵家にお任せください。少しお時間を頂きますが、父が最良の結果をもたらすでしょう」
「ありがとう。えっと……」
「アリアです。アリア・スコルピウスと申します」
頭を下げれば握手を求められた。もう、私への恐怖はないようだ。
「ありがとう、アリア。困ったことがあったらいつでも言ってくれ。オレにできることは少ないけど、アリアの味方になって一緒に戦うから」
「ありがとうございます。その言葉、忘れないでくださいね」
子どもの口約束だけど、言質をゲットだせ! そうそう、最後にもう一つ。
「魔力制御訓練はしてますよね?」
「何だ、それは?」
嘘でしょ!? 念のために聞いただけなのに、何してるんだよ。王家、しっかりしてよ!!
「リカルド様、きっとこれからが大変です。頑張りましょうね」
私の言葉にリカルドは元気に返事をした。魔力制御訓練がどんなに心が折れるのかも知らないで。同じ作業、しかもできる気配もないことを延々とやるのって、しんどい以外の何でもないんだよ……。
まぁ、その後には楽しいことが待ってるんだけどね。忍者修行とか、忍者修行とか、忍者修行とか!!
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークや☆評価、いいね、とても励みになっております。