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謝罪をさせよう

 

「イザベラ様、今日の深紅のドレス(悪役っぽくて)素敵ですね。とても(悪役っぽくて)似合っていますわ」

 

 何を言われるのか身構えていた様子だったので、なるべく友好的に話しかければ、不思議そうにしながらも嬉しそうな笑みをイザベラは浮かべた。

 

「私、このドレスを今日のために新調しましたのよ! 何年も前から予約が必要なデザイナーに頼みましたの!!」

 

 少し褒めただけなのに、こんなに嬉しそうにしちゃって。ちょろいな、この子。今は助かるけど、悪い人に騙されないか心配だ。

   

「まぁ、そうでしたの。イザベラ様は(あか)がお好きなのですね」

「えぇ! もちろんですわ。美しいですもの」

「ならば、紅い目はどうしてダメなのでしょう? 同じ紅なのに美しくはないのですか?」 

「だって、皆が紅い目は魔族に魂を売った(けが)らわしいものだって……」

「その皆って誰ですか?」

「皆はみんなですわ……」

 

 やっぱり自分の意見じゃないのか。その皆ってのは、あそこで様子を見ている大人達のことかな。こんな騒ぎがあっても自分の子どものところにやってもこないような。

 

「へぇ。皆ですか。では、先程の話なんですけど、不義って意味、わかってらっしゃいますか?」

「えっ?」

 

 あからさまに挙動不審だ。分からないけど、侮辱してるって知ってて使ってたんだろうな。まったく、親の顔が見てみたい……、ってそこにいるんだけどさ。

 お母様が教えてくれた魔力の強さで瞳の色が変わることを言ってもいいのか分からないから、別のところで攻めるか。

 

「私のお祖父様の瞳は赤だったのです。私の瞳の紅色は隔世遺伝ですわ」

 

 生まれつきは黄金の瞳だったから違うけど。そんなことは今はどうでもいいのだ。黙らせて、誤りを認めさせればいい。お祖父様が赤い瞳なのは事実だし。

 

「かくせいいでん?  ……もっもちろん、知っていましたわ。おほほほほほほ」

「「おほほほほほほ……」」

 

 えっ!! なんで取り巻きも一緒に笑うの!?

 

 どう考えても笑うタイミングではない。しかも、一緒に高笑いをしたエラとヴィオラはすぐさま視線を足元へと移している。これじゃあ、笑ったのは本人の意思じゃないみたいだ。

 

 いったい、何だったのか。当の本人達も首をひねってるし。それを考えたところで分からないだろうから、とりあえずイザベラには謝ってもらおうか。言質もとれたことだしね。

 

「隔世遺伝を認めるのであれば、不義の子というのは訂正して頂けますよね? 謝罪してください」

「なぜ、私が謝罪をしなければなりませんのっ!!」

「ご自身が私のことをスコルピウス公爵と母カトレアの子であると認めたではありませんか」

 

 あぁ、まだ分かっていないのか。子どもだもんね。今まで話していた他の子たちを基準にしちゃダメだったよね。

 

「不義の子というのは、親の浮気でできた子ということですよ」

 

 声を落としてこっそりとイザベラへと伝える。不倫だと分かりにくいかと思って浮気にしたが、分からなかったようだ。仕方がないのでイザベラにも分かるように説明をすれば、明らかに血の気が引いた顔でこちらを見た。

 

 よし、あと一息。とどめはあれでいいかな。

 

 イザベラがおろおろとしている間にメイドにお茶を給仕をしてもらう。それを優雅に飲みながら、チラリとイザベラを見て意識的に微笑みを唇にのせ、指先のみ身体強化をした。

 

「イザベラさん、謝罪を」

「いや、その……」

 

 イザベラが言い淀んだタイミングで指先に力を込める。パキッ、と小さな音を立てて私の持っていたティーカップの持ち手(ハンドル)は粉々になり、カップの部分は地面へと落ちて割れた。

 そして、そのカップもやはり魔道具だったようで元の傷一つない状態へと戻っていく。

 

「あら、ごめんなさいね。力加減を間違えてしまいましたわ。ねぇ、イザベラさん?」 

「ごっ、ごめんなさいぃぃ」

 

 そう言ったイザベラの瞳からは次々と大粒の涙がこぼれ落ちていく。これはやり過ぎ案件らしい。ちょっと脅しただけのつもりだったんだけどなぁ。

 でも、謝罪がもらえればそれで良いので私は作り物めいた笑みを引っ込めた。

 

「ご理解頂けて幸いですわ」

  

 きちんと謝罪も受け取ったので、とりあえず許しておこう。まだ意味も分からずに言っただけだろうし。

 私は遠くでこちらを見ていたイザベラの母であるピスケス公爵夫人へと視線を向ける。たぶん、イザベラに色々と余計なことを教えたのは彼女だ。

 ピスケス夫人は強い負の視線を私に一瞬だけ投げるとすぐに視線を外した。そして、人混みに紛れていった。

 

 

「すみません。5分過ぎちゃいましたね。お待たせしました」

 

 私は笑顔でリカルド様のもとへと戻る。お茶会の会場はまだざわついていたし、お母様も心配そうにしていたけれど、何も問題はない。私はリカルド様の腕をつかみ、半ば引きずるように案内してくれる護衛の騎士のあとをついていく。

 戻る頃には王妃様が皆を(しず)めてくれているだろう。

 

 さぁ、王家への貸しでも作ろうか。貸しがあれば、いざという時の手札になるからね。貸しは大事なのだよ。それにリカルドの考え方も気になるから、そっちもついでに……ね。

 

 

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