挑発と憧れ
なぜ、こうなった?
嬉々として話しかけてくるカトリーナに相づちを打っていたら、3人の令嬢が鬼のような形相で私の前にやってきた。
確かにこういう展開は望んでいたけど、今じゃないんだよなぁ。リカルドに話しかけるっていう役目もあるし。最悪、そっちは魔力暴走騒動後でもいいかな。
話しかける約束はしたけど、どのタイミングかは私が選んでもいいはずだしね。騒動後が無理だったら……。うん、領地から戻ってきた高等部に入った後でもいいことにしよう。いつとは約束をしてないわけだし。悪いなぁとは思うけど、約束を破ってないと言い逃れはできるよね。
睨み付けてくるご令嬢達に現実逃避をしていれば視線の鋭さが増した。
「ちょっと、そこのあなた! レオナルド様に声を掛けて頂いたからって勘違いなさらないことね。レオナルド様に相応しいのは私なのよ!!」
おぉ!! 悪役っぽい。
取り巻きを二人引き連れて、頭には見事な縦ロール。私の方が悪役面だけど、このお嬢さんの方が悪役感が出てるわ。
取り巻きも悪役感が出てるし……、って私の取り巻きをやる予定の子達じゃん!
私が何も言わずに眺めていれば、カトリーナが口を開こうとしてくれているのが分かった。
握られた小さな拳が震えている。私はその拳に手を重ね、小さく首を振った。
「はじめまして。スコルピウス公爵家の長女、アリアと申しますわ。お名前をお伺いしてもよろしいかしら……」
私は席から立つこともなく、口許に笑みを浮かべて見上げた。
席を立たないことは、あなた相手に立つ必要なんてないですよ、ということなので相手を軽んじてるという意味になる。
レオナルドに相応しいとか、心の底からどうでもいい。だけど、売られた喧嘩、全力で買ってやったもんね! 大人げないとか、全く思わない。
もっともっと怒らせて、私が魔力暴走を起こしてもおかしくないほどの言葉を言ってもらわなくちゃならないんだから。
顔を赤くして怒っている3人を鼻で笑ってやれば、これ以上染まれたの? ってなるくらい真っ赤になった。うん、良い調子。
「あなた、イザベラ様を存じないなんて正気ですの!?」
「そうですわ。ピスケス公爵家のご令嬢で、レオナルド第1王子の婚約者候補ですわよ!」
取り巻きの2人が喚いているけど、知ってるよ。ピスケス公爵家のご令嬢だってことは。カトリーナが教えてくれたからね。
レオナルドの婚約者候補ってのは初耳だけど、家格的に候補の第2位ってところか。ふーん。それで突っかかってきたってわけね。
「そうですか。イザベラさんも婚約者候補でしたのね。存じ上げずに申し訳ありませんでした。
エラ・ヴィダーさんとヴィオラ・アクアリウスさんのことは存じていたのですが……。イザベラさん、ごめんなさいね」
うわぁ。自分で言っててなんだけど、私、めちゃくちゃ嫌なやつだわ。
歯を噛み締めた3人の姿に自然と笑みが溢れる。さぁ、もっともっと感情的になって! 私の地雷そうな言葉を言うのよ!
「嘘をつくのはやめなさいよ! 私たちだけを知ってるなんてありえないわ!!」
取り巻き1のエラが金切り声をあげ、取り巻き2のヴィオラが必死の表情で頷いている。
だが、これは事実なのだ。カトリーナに教えてもらう前から、エラとヴィオラのことは知っていた。
この世界では初対面だが、取り巻き1、2はほしきみ☆に登場する。彼女達はレオナルドルートでは私の取り巻きになる子達であり、他の攻略対象者の婚約者候補キャラでもあるのだ。
「ちょっと、聞いてるの!?」
私の反応がないのに更に腹をたてたエラがキーキーとうるさい。
「聞こえてます。そんなに猿みたいに喚かないでくださいますか?」
「なっ……!」
言葉を失ったエラ。そんなエラを見て、ヴィオラは笑いを堪えてるみたいね。というか、肝心のイザベラは下を向いてて顔が見えないんだけど。まさか、泣いてないよね? 小さな不安が胸をかすめる。
それと、さっきからキラキラした目で私を見てくるカトリーナがすごく気になる。なんで、そんな目で見てくるの……。私の方にいないで、イザベラの味方をしなよ。
私は領地に帰るから、初等部にはいかないんだよ。これから先、カトリーナを守ることはできないんだから。
「アリア様、かっこいい……」
やめて、カトリーナ! 変なフィルターは外して! 私は目の前の悪役令嬢3人衆を相手に煽りまくっているだけだから。
自分の目的のために、かなり性格の悪いことをしているだけなんだよ!!




