魔術を使えば、忍者になれる?
お母様も来て、みんなでドレスのデザイン画を見る。今までの私が好きだったような可愛らしいフリルたっぷりのデザインからシンプルなものまで様々だ。
「お嬢様の年代の最近の流行は、パステルカラーに大きなリボンがついたタイプですね」
サーレス夫人が指差してくれたものは、私の部屋の大きなクローゼットにある誕生日の時に着たドレスと似たデザインだ。
だが、私にそれは似合わないことは、すでに分かっているので是非とも別のデザインにさせて頂きたいものだ。
「あの、他の流行りはないんですか?」
私の言葉にサーレス夫人はデザイン画を見せて答えてくれたが、どれもこれも可愛らしい女の子が似合うものであって、私のような大人びた顔立ちの子供には似合いそうもない。
「アリアちゃんは、どういうのがいいの?」
「フリルとかレースが控えめなピンク色じゃないドレスがいいです」
だって、何度も言うけど似合わないんだもの。それに、前世でジャージ愛用だった私には正直ベビーピンクのフリフリはしんどい。
そういうのは好きな人が着てなんぼなんだよ!
そう、私の憧れは可愛らしいではない。
「大人っぽいデザインは難しいでしょうか」
どちからというと、大人の女性という感じに憧れるのだ。今は6歳児だから背伸びしているだけになるけれど、それでもいい。今日から少しずつ可愛いは卒業していきたい。
「そう……よね。アリアちゃん、気が付かなくてごめんなさいね。今日はドレスだけじゃなくてワンピースと普段着用のドレスも新調しましょう」
「いいんですか?」
「今のアリアちゃんにそのデザインは子どもっぽいでしょう?」
サーレス夫人に聞こえないように、小声で伝えられた言葉に私は目を瞬かせた。分かってもらえるとは思わなかった。流石、お母様だ。
「ありがとうございます、お母様」
「いいのよ、このくらい。今度、お部屋の模様替えもしましょうね」
それは、ものすごく助かる提案だった。何せ、私のお部屋はベビーピンクや白を基調とした、とにかく可愛いを詰め込んだような雰囲気で落ち着かない。
可愛いとは思うし、今のお姫様のようなお部屋に一泊くらいならしてみたい、と思わなくもない。でも、常にだとリラックスができないんだよ。
だから、すごくありがたい話なんだけど──。
「お部屋は大丈夫です。ありがとうございます」
遅くても半年後には領地へ行くことになっていて、この屋敷に帰ってくるのはおよそ9年後の高等部へ入学する時だ。いくらなんでも長いこと使わなくなる部屋を模様替えするなんて、もったいなさ過ぎる。
「そう? それなら、アリアちゃんが塗り替えるのはどうかしら」
「えっ! 色ムラになっちゃいますよ!?」
私の驚きにお母様は少し考えるそぶりをした後、楽しそうに笑った。
「確かに塗り替えるのはアリアちゃんだけど、手ではないわ。今、練習しているものがあるでしょう?」
「……魔術、ですか?」
お母様は、当たりというように私の髪をさらりと撫でる。
「魔術の可能性は無限よ。想像力がものを言うわ。アリアちゃんのなかできちんとその現象を理解して、必要な分の魔力さえあれば、いくらでも新しい魔術が生まれるのよ」
色々と抽象的で分かるような、分からないような感じだなぁ。
分かったのは魔術は自由度が高くて、魔力量が重要そうってことかな。でも、私の場合はそもそも制御ができてないから、それ以前の問題なのよね。
「現象を理解って、例えばどんな感じなんですか?」
「そうねぇ。お父様は馬車よりも早く走るでしょう?
それは筋肉の強化をしているのですって。どの筋肉が走るのに必要なのか分かっているそうよ。知識や想像力で魔術を起こすの」
「知識や想像力……」
「あとは経験ね」
ということは、私もめちゃめちゃ早く走れたりするのだろうか。そうしたら、水の上を走ったり、壁をかけ上ったりもできそうだよなぁ。あとは、ものすごく高くジャンプしたり……。
「何だか、忍者みたい」
「にんじゃ?」
お母様が不思議そうな顔で聞いてくるけど、何でもないと誤魔化した。全く上手く説明できる自信はないから。でも、魔術が使えるようになったらやりたいことはできた。
この世界で唯一の忍者になるのだ。うふふ、かっこいい! あと、お米をどうにかして手に入れよう。やはり、元日本人としてごはんは欠かせない。
領地に行ったら、悪役令嬢回避によるノアの破滅防止を第一に、忍者になることと、ごはんの入手もやっていこう。
そのために、お茶会でのミッションをしっかりとクリアしないとね! そう思い、数多の布へと視線を向ける。だが──。
どんなに考えてみても、一体どんなドレスがいいのかさっぱり分からない。こうなったら、お母様を参考にするしかない!
「お母様は何色のドレスにするんですか?」
「秋らしくモスグリーンにしようかと思っているけれど、キャメルやパープルも素敵で迷っているのよ」
なるほど。季節感を出せば流行のフリフリじゃなくても、おしゃれに見えるかもしれない。私も秋らしい色にしてみようかな……。
「お母様、私も秋らしいドレスにしたいです」
「それは、素敵ですね。装飾など少しお揃いの箇所を作ってはいかがでしょうか」
サーレス夫人の提案に「素敵ね……」とお母様と微笑み合い、たくさんの生地を当てながらお母様とサーレス夫人、ミモルに意見を聞きながらキャッキャと選んでいく。
そして、お母様はキャメルのドレスに、花びらの刺繍を施してあるショールを羽織るシックだけれど可愛らしさのあるデザインに。
私はモスグリーンのドレスのスカート部分をチュール地にして花びらが刺繍をしてある、ふんわりとして可愛いけれど少し大人っぽいデザインにした。
もちろん、花びらの刺繍は同じ柄にしてもらうことで、さりげないおそろいを演出している。
いつもと違うデザインを選んだ私を、皆が可愛いと褒めてくれる。前世ではしてこなかった女の子の楽しみを一つ教えてもらった気がした。
まぁ、ドレスよりも本当はジャージが欲しいのだけど。




