ずっと泣いている ジンside
アリアを先に部屋から出した。
純粋で。だけど、暗くて淀んだ重い感情。それを受け止めきれず、アリアの手が小さく震えていたから。
「レオナルド王子と2人にしてくれないか?」
「それは、だめ。僕も殿下に用事があるし」
きっぱりと断るノアに、小さくため息が出た。
話をするのなら、1対1が基本だ。アリアの危険がある状況でもないのに、2人で言うのは俺が許容できない。
「わかった。そうしたら、俺はあとにする。部屋の外で待ってるから終わったら呼んでくれ」
アリアに近づくな的なことはノアが言うだろう。俺は、アリアが好きで直に告白することを言えばいい。
ただの自己満足でしかないのはわかっている。でも、王子がアリアに告白しているのを目の前で見たにも関わらず、何も言わずに告白するのは卑怯な気がした。
「私は2人一緒で構わないよ」
俺が部屋を出ようとすれば、王子に止められた。振り返り、意図を読もうとするも、瞳には何も映っていない。
「むしろ、いっぺんに終わる方が助かるかな」
こちらの言いたいことがわかっているのだろうか。王子は余裕の笑みを浮かべている。
「ジン・フォクス。キミはアリアのことが好きなんだろう?」
「……そうだ。近いうちに気持ちを伝える」
「はっ!! ずいぶんと悠長なことを言うんだね」
明らかな敵意と蔑み。俺がアリアに想いを告げるということが嫌だとかそういうのではない。もっと……。
「ただ意気地がないだけじゃないか。手を伸ばせば触れられる距離にいて、近いうちに伝える? ふざけるな!!」
ビリビリと痺れるような怒声。
あ、泣いてるんだな……と思った。会いたくて、伝えたくて、でも会えなくて。
悲しい悲しいと泣く心を怒りでコーティングして守っている。
「おまえがふざけるなよ? ジンは姉さんのことも、俺たち家族のことも考え抜いて、告白ができなかったんだ」
「ノア、いいから……」
「ジンは姉さんの笑顔を守れるようになるまで。安心して胸に飛び込めるまで言わなかったんだ。お前みたいな自己中心的野郎じゃないんだよっっ!!」
ノアと王子が睨み合う。なぜ、こうなった。
というか、そもそも何でアリアが王子の婚約者候補を辞退したのか、知らないんだよな。
「なぁ、アリアはもともと婚約者筆頭だったんだろ? 何で辞退したんだ? 自由がないからとか?」
「そんなの僕が知りたいよ!」
レオナルドが叫ぶ。きっと、自分のことを僕と呼んだことにも気が付いてないのだろう。
「……王子は理由を知らないのか?」
「そうだよ。でもきっと、僕がリカルドのことを頼んだから呆れられたんだと思う。弟のことも何とかできない僕が悪かったんだ」
「……話が読めないんだけど」
助けを求めるようにノアを見れば「お人好しすぎるよ」と呆れたように言いながらも、説明をしてくれた。
「つまり、リカルド様が魔力制御ができなかったのも、自己肯定感が低かったのもリカルド様付きの家臣のせいだったと。んで、きちんと自分の息子のことも見れない王家にアリアを嫁にやれるか!! とデニス様がぶちギレたわけか」
やるな、デニス様なら。それだけが原因じゃなくて、王家に嫁に行ったらなかなか会えなくなるのも嫌だったんだろうな。
「というか、何でアリアが婚約者候補筆頭だったんだ? デニス様が許すとは思えない」
「それは姉さんが生まれたとき、世界一美しくて愛らしい娘こそ王妃にふさわしいと思ったんだって。姉さんも、小さい頃は令嬢らしく王妃様に憧れてて、王妃教育を受けてたんだよ」
なるほど? アリアが王妃になりたがっていた……と。え? 誰だ、それ。別人の話ではなく?
「……王子さぁ、魔道具なんか使わないで普通に話しかけろよ。納得いかなかったから、逃げられたくないから、その言い訳を使うなら、アリアを諦めてくれ」
「アリアを傷つけるなって言いたいの?」
「それもある。でも、王子ずっと泣いてんじゃん」
そういう俺のことを王子もノアも怪訝な顔で見た。
なんだ、王子は自分でも気付いてなかったのか。