表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/123

繋いだ手


 収穫祭についての大枠が決定し、あとはお父様の許可をもらってから詰めようとなった。そんな楽しい日の夕方。 

 珍しく執事のセバスが部屋にやって来た。

 

「旦那様がお呼びです。至急、執務室までお願いします」

 

 そう言うセバスの口調がいつもと違うことに嫌な予感がする。いつもだったら「旦那様がおよびですぞ。執務室まで行ってくだされ」って言うはずなのに。

 

「セバス、何かあったの?」

「私の口からは申し上げられません。これからノア様とジン様も呼びに参りますので失礼します」

 

 セバスの口からは何も語られず、足早に去っていく。その姿を見送って、私も急いで執務室へと向かった。 


 執務室へ行くと、難しい表情(かお)をしたお父様とお母様がいた。


「何かあったの?」

「そろってから話すから、少し待ちなさい」


 そう言うお父様の手にはぐしゃぐしゃにされた跡のある紙が握られている。一体、何が書かれているのだろうか。


「ミモル、みんなにリラックス効果のあるハーブティーをお願い。長くなるかもしれないから、メモルは軽食をお願いしてきてちょうだい」


 お母様がてきぱきと指示をする。その様子を見つめていたらパチリと視線が合った。


「大丈夫よ」


 ふわりと笑う、温かな笑み。

 あぁ、私は守られている。そんな安心感が胸に広がっていく。


 できるだけ口角を上げて、頷く。きっとお母様みたいに笑えていない。不格好な笑みだろう。

 何が起こるのかも分からないのに、こんなに不安になるなんて滑稽だ。それなのに、嫌な予感が(ぬぐ)えないのはどうしてだろう。



 ノアとジンも来た。オロチとべにちゃん、しゅいちゃんは呼ばれてないみたい。

 それなのにジンがいることを不思議に思いながら、お父様に視線を向ける。


「王家から第1王子が視察に来ることになった」


 お父様のその言葉に息がつまった。酸素が薄くなった気がして、自然と眉間にしわが寄る。


 さっきまで、収穫祭しよう! とみんなと盛り上がっていた。黄金色の稲穂を思い出しては胸を踊らせていたのに……。

 そんな想いが胸を占めていく。


「王家の視察ってリカルドじゃダメなの?」

「米が第2の主食になり、飢饉に備えられるのではないか……そういう意図もある視察だ。第1王子にやらせたいんだろう」


 お父様とノアが冷静に話し合っている。私も参加しなくちゃいけないのに、思考がバラけてまとまらない。


「王家の印があるってことは、無視できないね。いつ来るの?」

「早ければ3日後だな」

「「3日後!?」」


 私とノアの声が重なった。今度は衝撃的過ぎて、続く言葉が見つからない。

 いくら王家と云えど、連絡が直前過ぎる。


「たまたまなのか、意図的に配達を遅らせたのかは分からんがな」

「いつもは来てるはずの、リカルドが来てないのもおかしい。何かあるのかな?」


 そう言って微笑むノアが怖い。静かに成り行きを見守っているジンもそう思ったみたいで、表情がひきつっている。


 大きく息を吸い、意識的に吐く。酸素が薄くなったと感じるときは、吸うのに対して倍くらい吐く。そうすると、少しだけ息がらくになった。



「レオナルド様の婚約者候補って……」

「筆頭となる令嬢はまだいないわ。アリアちゃんが辞退してからずっとね」


 あれから9年という年月が過ぎた。

 まさかそんなわけはない。そう思おうとするのに、王都から離れるときに渡された手紙が頭を過る。


 ドクン、ドクン……と心臓が嫌な音を立て、目の前がぐらぐらする。何度も意識的に息を吐くのに、息苦しさが治まらない。


 婚約者候補を辞退したけれど、まさかもう一度候補になるなんてことないよね……。


 悪い想像ばかりが浮かんで、頭を埋め尽くしていく。



「アリア、大丈夫か?」


 握られた手。その手の先をたどれば、黒い瞳と視線が交わった。その瞬間、息が少しらくになる。


「少し、休もう」


 理由も聞かず、ジンは言う。そして、私の手を握ったままとお父様たちに席を外す断りを入れてくれる。その気遣いはすっごくありがたい。でもね──。


「ジン、大丈夫だよ。ありがとう」


 逃げるわけにはいかないんだ。ノアが破滅するかもしれない未来を完璧に叩き潰すために。


 黒い瞳が何か言いたげに私を見る。そこには、私を気遣う気持ちが溢れているのが伝わってくる。その気持ちがもっと私に勇気をくれる。


 ありがとう、ジン。もう大丈夫。だけど、だけどね……。


「ジンが手を繋いでくれたら、勇気が出たの。だから、大丈夫。だけど、その……」


 さっきとは違う意味でドキドキする。


「もう少しだけ、手を繋いでて欲しい」


 恥ずかしくって顔を上げられず、視線は足元へと向かっていく。

 ジンは握った手の力を少しだけ強くした。


さっさと付き合いなよ!そんな気持ちの作者です。

いつもありがとうございます!寒くなってきましたので、温かくして過ごしてくださいね(*´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ