やきもちですか?
普通の貴族令嬢として過ごして1週間が経った。ペナルティを入れて残り43時間。魔術も禁止されている。
そんな生活に慣れることもなく、やらかしては1時間の追加。そのため、1週間を越えても令嬢として生活が続いている。
そして、今はジンが私をエスコートしてくれている。家の中なのに。そのことが嬉しいのに、恥ずかしい。
「お母様、家のなかでエスコートをしてもらう必要はないと思うのですが……」
「学園の高等部に入学すると、パーティーがあるでしょう? そこでジンくんにアリアちゃんのエスコートを頼もうと思っているのよ。ノアも考えたのだけど、姉弟だと防波堤にならないものね。だから、そのための練習よ」
さらりとお母様がジンのことを防波堤扱いをしていることにギョッとしていると、減点を言い渡されてしまった。
だが、今はそれどころではない。
「ちょっと待って!! ジンに防波堤をしてもらうつもりなんかないよ」
自分の身は自分で守る。防波堤なんかをジンにさせるわけにはいかない。
っていうか、そもそも何への防波堤?
「俺がやりたいって言ったんだ」
「ジン!?」
「俺がエスコートをすれば、多少は牽制になるだろ?」
「牽制って、何の? それに、防波堤って?」
思わず首を傾げた私に、ジンはあからさまに視線をそらした。
「アリアの婚約者候補になりたいやつは掃いて捨てるほどいる。俺じゃ役不足なのは分かってるけど、他の奴らに、アリアに近付くなって言いたいんだよ」
私に近付くな……って……。えっ? うそ……、本当に? もしかして、これって──。
「やきもち?」
そう聞けば、ジンの耳は真っ赤に染まる。
「……そうだ。みっともないだろ?」
眉を八の字にして困ったように笑うジンに大きく首を振る。
「そんなことないよ。私だって思ったもん。ジンが他の女の子と仲良くなるのがイヤだって」
お互い、同じ気持ちなんだ……。
決して、きれいだとは言えないドロドロとした想い。それを好きな人が思ってくれているとが、こんなに嬉しいだなんて知らなかった。
……あれ? もしかして、今がすごくいい雰囲気だったりする? 告白するなら、今がチャンス?
舞い上がって、すっかりジン以外の人がいることを忘れた私は、想いを伝えようと大きく息を吸う。
だが、その想いが空気を振動させることはなかった。
「じゃあ、入学のお祝いパーティーはジンくんにエスコートをお願いするわね。折角だから、衣装のどこかにおそろいの箇所を作りましょうか。刺繍でもいいし、色合いでも素敵ね」
楽しそうに言うお母様の言葉に、一気に現実に引き戻される。
あ、危なかった。危うく、公開告白をするところだった。いや、もう既にバレバレなのかな。
ねぇ、ジンも私のことが好きだと思ってもいいんだよね?
ドキドキしながらもジンを見れば、視線が交わった。
「この話の続きは、また今度二人きりの時にな」
ジンの真っ黒い瞳のなかに、熱がゆらりと揺れているような気がした。
「アリアちゃんとジンくんがパートナーになることは決定だとして、ノアはどうするのかしら? キャルロットちゃんに頼む?」
お母様に聞かれてノアは少し考えたあと、楽しそうに笑った。
「姉さんがジンとパーティーにでるなら、僕はしゅいにパートナーを頼もうかな」
『イヤよ!』
しゅいちゃん、全力の拒否である。そんなしゅいちゃんにノアは笑みを深め、くすくすと笑っている。
「リカルドもパーティーに来るよ?」
『リカルド? あぁ、リカルドは学園ってところに通ってるんだったわね。とにかく私はノアのパートナーはやらないわよ』
そう断言するしゅいちゃんに、ノアが小さく「リカルド、頑張れー」と呟いたのが聞こえたけど、何を応援しているのか全く分からなかった。