稲刈り競争
身体強化をし、鎌を両手に構える。
もちろん、ジンにも身体強化をした。ノアは拝み倒したら、苦笑しながらも一緒に稲刈りをすることを了承してくれた。
え? 姉としての矜持? そんなものは遠く彼方に投げ捨てましたとも。
矜持より大切なものがあるのです。
そして、これから始まるのは稲刈り競争。出場者は私とジン、ノア、それから稲刈り車だ。ハンデが必要だろうと稲刈り車は3台投入してある。
ルールは簡単。同じ面積の田んぼを、誰が一番早くに稲刈りを完璧に遂行できるかだ。
「絶対に負けないからね!」
「はいはい。怪我だけは気を付けろよ」
「あと、田んぼを壊さないでよね」
そこは「俺も負けないからな!」とかじゃないの!? でも、2人はそんなこと言いそうにないよなぁ。
「よし! 賭けをしよう。1番になった人の願いを何でも叶えるの!!」
「へぇ。いいね。面白そう」
「だな。これは、本気でやるしかないな」
何だか2人が悪い笑みを浮かべている様に見えるのは気のせいだろうか。
「あの、人道的じゃないものはダメだからね?」
急に怖くなって恐る恐る言えば、呆れた視線を向けられる。
「当たり前でしょ」
「当たり前だろ」
2人同時に言われてしまった。ここにオロチとしゅいちゃん、ミモルがいたらみんなに言われた気がする。
あれか? 私の味方はべにちゃんだけなのか?
『それでは、はじめますよぉ。準備はいいですかぁ? よーーーーい、ドンです!!!!』
べにちゃんの掛け声と共に一斉にスタートをした。今回の稲刈り競争はただスピードが求められるのではない。完璧さも必要なのだ。
両手で高速に鎌を振りながら、チラリとノアを見る。稲刈りペースは私より少し遅いものの、風魔法を使って刈った稲を1ヶ所にまとめている。
そうか! 刈るだけでは完璧じゃないのか……。刈ったあとに放置はしないもんね。盲点だった!!
刈り取って、そのあとにダッシュで集めよう。それしかない! 私には細やかな風魔法は無理だ。刈った稲を全部吹き飛ばしちゃう。
そう思いながら、今度はジンの方を見る。
「速っっ!!」
えっ? 何あの速さ! 両手で刈るわけじゃなく、1本の鎌であのスピード!?
しかも、刈った稲を投げている……だと!?
ピタリときれいに並べられた刈り取られた稲たち。次々と放物線を描いて積み重なっていく。稲を投げることで並べていくとか、神業としか思えない。
「このままじゃ、私が最下位?」
正確には稲刈り車がいるから最下位にはならない。けど、3人の勝負では負けに片足……いや両足を突っ込んでいる。
「スピードアップしないと!」
両手の鎌で稲をスパスパと切っていく。一心不乱に刈り取っていると──。
「姉さん!! ストップ! ストーップ!!」
ノアの声が耳に届く。
勝負の途中なのに、何だろう? と声の方を向けば、ノアと一緒にジンも困った顔をしている。
「姉さん、周りを見てみなよ」
そう言われて見回せば、吹き飛んで散らかっている。何がって? 稲がだ。
この状況は一体……。
「アリア、鎌を振ってみな」
ブオンッ!! という低い音と共に刈り取った稲が舞う。
「……ごめんなさい」
犯人は私だった。
急ごうと力が入った結果、みんなが積んだ稲も、私が刈り散らかしていた稲も強風で飛ばしてしまったのだ。
「これは、アリアの負けだな」
「そうだね。姉さんの負けだね」
「うぅぅ……。私の負けです」
まさかの他者妨害(意図せず)で負けるとは……。悔しいもなく、悲しいでもない。ただ情けないうえに、申し訳ない。
「姉さんには、僕たちの願いを叶えてもらうってことで」
「……はい」
何卒、私のできる範囲でお願いします。と心の中で付け足しておく。
このあと、みんなで私が吹き飛ばした稲を回収し、身体強化なく普通に稲刈りをした。
お父様とお母様も参加して、わいわいとする稲刈りはとっても楽しかった。
その日の夜。
「姉さん、僕とジンからの願いが決まったよ」
にこやかにそう告げるノアは楽しそうだ。
ノアとジンの後ろには、お母様とミモルもいる。何だろう。嫌な予感が……。
「姉さんには明日から一週間、普通の貴族令嬢として過ごしてもらいます」
「……普通の?」
「そう。走ったり、大声で笑ったり、叫んだりしない普通の令嬢だよ」
う、うそ……じゃないよね。
嫌な汗が背中を流れていった。
安定のアリアクオリティーです。
予定では普通に負けるはずが、書いてたらこうなりました。