以心伝心~♪
ジンは何と一発でクリア。私も数回でお母様から合格をもらい、席につく。
「ジン、すごいね。お母様、かなり厳しいのに」
「ん? デニス様より優しいと思う。アドバイスが的確だし」
お父様にしごかれていたジンを思い出す。正直、お父様は感覚派なのか教え方が下手だった。そうじゃない、とひたすら見本を見せるのみでアドバイスは一切なし。
なんか、個人的な恨みでもあるの? って言いたくなるレベルだった。だけど、私が口出しするのをジンが止めるものだから、お父様がジンに嫌がらせみたいな指導をしている間は聞かれたことには答えるけど、自分からは一切話しかけなかったんだよね。
それで、なぜかジンに「頼むから、普通に接してやってくれ。公爵様が気の毒すぎる」って諭された。
あのあとくらいから、お父様はジンと仲良くなったっけ。何であんな嫌がらせみたいなことしたんだか。
しゅいちゃんが何度も挑戦しているのを眺めながら、ぼんやりと昔を思い出す。
本当に怒涛の4年間だった。
スコルピウスに田んぼを作り、フォクスの文化を少しずつ広めてきた。元々スコルピウスの人たちは、新しい魔術や研究中の魔道具を目にすることも多く、目新しいものに興味津々な人が多いのも幸いした。
だけど、上手くいかないことだってやっぱりあって、最初の年は稲が上手く育たなかった。土地が変わったからなのか、品種改良が必要になり、フォクスの人たちと頭を悩ませた。
2年目は実ったものの、害虫被害で不作。3年目は日照不足で不作。そして、ついに4年目にして豊作とまではいかないけれど、黄金色に田んぼが輝いたのだ。
「お米、食べるの楽しみだね」
「ん? あぁ、そうだな。やっとだもんな」
言葉が足りなくても、ジンは私の言葉を汲み取ってくれる。それだけ近くに4年間いたのだ。
「色々あったね」
「そうだな。アリアが身体強化して田んぼ用に穴を掘っている姿は衝撃的だった。動きが目で追えないんだもんな。俺まで身体強化して同じことをやるとは思わなかったし」
「あったねー。めちゃくちゃ頑張ったのに、あとから来たノアが私たちのつくった穴の広さより10倍くらいの面積を一瞬で田んぼ用に掘っちゃったよね」
「魔術ってすごいよな。そんで、それを見たアリアが真似したら、ため池ができたんだったな」
「あ、あれは結果的に役に立ったよ?」
そう。あれは失敗ではない。最終的には農業用のため池になったのだから。
「もう少しだな」
「そうだね。そうしたら、お母様が言う通り頑張って宣伝しないと」
「俺は王都にいる間に、あっちでの伝を作っとかないとな。将来、商人になった時のためにもなるし」
「えっ? ジンも学園で一緒に宣伝するんだよね?」
「宣伝はするけど、俺は下位貴族相手だな。優雅さよりも実用性が大事になるだろうから、広告塔っていうより実演販売にしようと思ってる。デニス様にも相談済みだ」
「私もそっちがいいなぁ」
「適材適所だろ」
そう言いながらジンが笑う。
出会った頃はほとんど表情が変わらなかったのに、ずいぶん笑うようになった。ジンが笑うと、私も嬉しくて胸があたたかくなる。
ジンに好きだって言いたい。
お米が無事に収穫できたら言おう。ずっとそう思ってたら、4年もかかってしまった。今年こそは言わないと。
だって、学園に入学したら素敵な女の子がたくさんいる。ジンのこと好きになる子だって絶対にいるもん。もしかしたら、その子とジンが婚約者候補になっちゃうかもしれないし。
その前に伝えないと、一生この気持ちは行方を失ったままになっちゃう。
「ジン、お米が無事に収穫できたら伝えたいことがあるんだ」
「俺も……同じこと思ってた」
何という以心伝心!! あれ? 以心伝心ってこういう意味だっけ?
ふっふっふ。ついに、おはぎターイム!! って思ったんだけど、おはぎと一緒になぜかナイフとフォークが。
「えっと……、お母様?」
「美しく食べましょうね」
いやいやいや! おはぎをナイフとフォークで食べるなんてナンセンスだよ。おはぎと言ったら、和菓子用の楊枝である黒文字がベストマッチだから!!
「母さん、おはぎにナイフは食べにくいよ。あんこがナイフにくっつくし。黒文字がいいんじゃない?」
「そうかしら。そうすると、なかなか受け入れられないかと思ったんだけど」
「そんなことないと思うよ。僕たちが美味しいって食べるだけでも付加価値は付くわけだし」
ノアはメイドから黒文字を受けとると、ナイフとフォークは下げさせた。そして、一口大に切って口に運ぶ。
「黒文字で食べる方が風流じゃない?」
「そうね。ノアの言う通りだわ」
こうして、危うくおはぎをナイフとフォークで食べる事案は撤廃された。ノア、ナイス!!
皆様は黒文字ってご存知でした?
私は今回はじめて名前を知りました!