番外編2 恋は面倒で難しいらしい リカルドside
オレは空を飛んでいる。レッドプテラという魔物の背に乗って。
「すげえ! しゅい、すげーな!!」
『さっきから、すげーしか言ってないじゃない』
「すげーんだから、仕方ないだろ!」
『ガキねぇ』
呆れたように言われても、気にならない。
おもちゃのように小さな世界、速く飛ぶことで受ける風、届きそうな雲。興奮しない方が無理だ。冒険に出たような浪漫がこの瞬間に詰まっている。
だが、時間は有限。第2王子として生きていると、自分の自由にできる時間は限られている。
「なぁ、どういう魔術が使いたいんだ? 変化系と精神作用系は禁術だからできないぞ」
『人間に変化できるから、変化系は問題ないわ。精神作用系は使えたら便利だけど、ダメなら仕方ないわよ。それにしても、人間って縛りが多くて不便ね』
「確かにそうかもしんねーけど、ルールって大事だからな。そのルールが自身を守ってくれていることだってある」
『案外、苦労してんのね』
案外って、失礼なやつだな。
ノアのところにいるオレは王子という肩書きに縛られてないから、自由人に見えたのかもしれない。
「そんで? どんな魔術が使いたいんだ?」
『……誰かの助けになるようなのがいいな。あたしは弱くて、ずっと助けてもらうだけだったから』
「そうか」
しゅいも助けてもらうばっかりだったのか。オレと同じだ。
オレもノアやアリア、ガーディン、キャルロット、師匠……みんなに助けてもらった。スコルピウスの血族がオレを助けてくれた。
今だって心の拠り所になっている。自分の部屋にいるよりも、家族といるよりも、自分の感情を安心して出せるもんなぁ。
「……自分だって誰かの助けになりたいって思うよな」
オレもずっと思ってる。そんで、今がその時なんだよな。
「そしたらまずは、医療系だな。身体のことを理解していないと無理だから座学からか」
『座学?』
「知識を増やすための勉強だよ」
『えー。そんなのいいから、スパッと教えてよ』
「いいのか? 知識があれば使用魔力も抑えられるし、より効果の高い魔術が使えるぞ?」
オレがそう言えば、しゅいは唸ったあとに座学も教えて欲しいと言った。その返事に自然と口角が上がるのを感じる。
誰かに教えるのは初めてで不安がないと言ったら嘘になる。万全を期すために師匠の意見も聞かせてもらうから、一人でやり遂げるわけでもない。
それでも、新しい挑戦にワクワクするんだ。
高揚した気分のまま城へと帰り、座学をするために知識の確認をしていく。少しでも不安な内容は確認をし、必要に応じてメモをとる。
そんなオレの元に、いつも通り兄上が来た。
「何? また、アリアのこと聞きに来たの?」
「可愛い弟が帰ってきたから会いに来たんだよ」
「でも、アリアのことが聞きたいんだろ?」
「そりゃあ、好きな子のことは聞きたいよね」
にっこりと笑う兄上は弟のオレから見ても完璧だ。だが、アリアが関わると面倒くさくなる。
「元気だったよ」
「それだけ? もっと何かないの?」
ないの? と聞かれても、魔物を眷属にした話は先に父上に伝えるべきだろう。スコルピウス公爵も師匠も話して良いって言ってたけど、物事には順序というものがある。
他に何かあったっけ……。
「ついに米を見つけたって喜んでたな」
「米って、アリアがずっと探してたものだよね。そっかぁ。どこで買えるのかな……」
あ、これは買い占めるやつかも。本当にアリアが関わると面倒だ。
第1王子なのに未だに婚約者候補第1位を空白にしているのだって、そうだ。おかげでオレまで婚約者候補がハッキリと決められない。兄上よりも先に決めるわけにはいかないからな。
オレを王にしようと担ぎ上げたい馬鹿共にエサを与えるなんてこと、したくもない。
「さぁ。オレもそこまでは教えてもらえなかったから、分かんねーや」
とりあえず、誤魔化しておくことにしよう。
兄上がどんなにアリアを好きでも、その想いは叶わないんだろうな……とオレでも分かるのに、兄上が気が付いていないはずがない。
恋って難しいんだな……と、ぼんやりと思う。そんなに大変なら、オレは恋はしなくていい。
オレは、オレを助けてくれた人たちと穏やかに生きていければ……。
『ガキねぇ』と呆れたようなしゅいの声が聞こえた気がして、「うるせぇよ」と心のなかで呟いた。
番外編も含めて第2章はここまでになります。
第3章には、レオナルドも登場予定です!