番外編 買い物に行こう2
「ミモルはそれで大丈夫だろうけど、しゅいちゃんはどうするの?」
『そんなの、魔物に戻れば一瞬で逃げていくわよ。人間は骨のないヤツが多いもの』
えっと……、それはどうなんだろう?
確かに魔物だから怖がられるかもしれない。だけど、新しい仲間として紹介したし、あまり怖がられない可能性もあるよね。
『それに、いざとなったら火を吹くわ!』
「火事になると悪いので、それはやらないでくださいね。代わりにこれを着けてください」
ミモルはしゅいちゃんに、赤いしずくの飾りがついたネックレスを渡す。
『これって……』
「ノア様の作ってくださった魔道具です。念のためにと、ノア様より預かって参りました」
『ノアが私に? へぇー、ふーん、そうなんだー。まぁ、もらってあげないこともないけどぉ?』
しゅいちゃんはそう言いながらも、鼻歌を歌いながらネックレスをつけた。
『じゃ、またあとでねー!』
「オロチ様。アリア様とベニ様をよろしくお願いいたします」
しゅいちゃんとミモルと別れたあと、大丈夫だとは分かっていてもやっぱり心配でハラハラと後ろ姿を見守っていたら、即ナンパされている。
「あぁぁ……。やっぱり」
助けに行かないと。そう思った瞬間──。
「……へ?」
ナンパ野郎がしゅいちゃんの腕に触れるか触れないかのところで青白い強い光が見えた。
「オロチ、あれって……」
『電流じゃな』
ですよねー。ちょっと強い静電気なんてもんじゃない。スタンガンでバチッとやってしまったみたいだ。
心臓の弱い人にやったら、一瞬でこの世とさようならだろう。
『あれなら、ナンパな人間をやっつけられて安心ですね』
べにちゃんが嬉しそうに倒れているナンパ野郎を指差して言う。
あっ! 倒れてるのに、しゅいちゃんが蹴ってる。ミモルも何かして……。
「あの二人は大丈夫だね。私たちも行こっかー」
しゅいちゃんとミモルに背を向けて、急いで歩き出す。
うん。私は何も見ていない。見ていないよ。
カランカラン……と可愛らしい音を鳴らしながら、扉を開く。
外から見るとちょっと大きい一軒家のここは、知る人ぞ知るブティックなのだ。
「あら、アリアちゃん。いらっしゃい」
「ティックさん、お久しぶりです。今日は、この子のお洋服を見に来ました」
『べにです。よろしくお願いします!』
ティックさんは私がスコルピウスに来たときから、ずっと私の我が儘に付き合って洋服を作ってくれる女神様。
キャラメル色の髪にミルクチョコみたいな瞳を持つ年齢不詳の女性。
私が公爵家の娘だと分かってからもアリアちゃんと呼んでくれている。
「うふふ。可愛らしいお客様ね。どんなお洋服がお好みかしら?」
『べには、かわいいが好きです』
その言葉にティックさんの瞳がきらめく。ティックさんは可愛いを愛し、可愛いに人生を捧げている人だから。
これは、大変なことになるぞ……とワクワクが止まらない。
ピンクにレモンイエロー、ネイビーに光を全く感じさせないほどの漆黒。フリルにリボン、キラキラのスパンコール。編み上げブーツにヒールの低いパンプス……。
色んな色を纏って、着飾って……。新しい可愛いがどんどん更新されていく。
『お姉さま! べに、かわいいですか?』
くるりと回ってポーズをとるべにちゃんの可愛さといったら……。もうメロメロだよ。最高すぎる。
『お姉さまも、おそろいしましょう!』
可愛いが大渋滞しているべにちゃんに誘ってもらって、一緒に着替えていく。途中、ティックさんにオロチまで巻き込まれてみんながみんなファッションショー状態だ。
「たくさん買っちゃったね」
何着か持ち帰り、あとは家まで送ってもらうことにして、私たちはブティックを出る。
『これで、ジンに可愛い姿をみせられるんじゃないか?』
ニヤニヤと笑うオロチに顔が急速に加熱されていくのを感じる。
「……ジンは、どんな服装が好きなのかな」
思わず呟けば、腰にギュッとべにちゃんが抱きついた。
『ジンって誰ですか?』
『アリアの旦那だ』
「ちちちちち違うから!!」
慌てて否定するが、オロチは楽しそうに先割れの舌をチロチロと出す。
『いずれ旦那になるんだ。違くもないだろう?』
「……そうなったら嬉しいけどさぁ」
ジンとの結婚式を妄想してしまい頭がぐらぐらする。想像の中のジンもかっこいい……。
そんな私を見たべにちゃんが、会う前からジンに対抗意識を燃やしているなんて思いもしないのだった。
しゅいちゃんとミモルは、もっとお姉さんっぽいデザインの多いブティックに行っています。
アリアたちは、メルヘンっぽいデザイン多めです。