チョロいよ、アリアさん(リカルドも)&エピローグ
お久しぶりです。
連載、再開しました!また、よろしくお願いいたします。
『得意を伸ばす……。オロチ様、あたしに色々教えてくれませんか?』
キラキラと目を輝かせ、しゅいちゃんはオロチを見る。だけど、オロチはゆるく頭を振った。
『われは教えるのに向かない。あそこの子童に教えを乞うといい』
そう言いながら、オロチはリカルド様を見た。しゅいちゃんは不満げに唇を尖らせ、リカルド様は上ずった声をあげる。
「な、なななんでオレが!!」
『治癒が1番上手いのは、お前さんじゃろ。それに、天才肌というより努力型。魔力を制御し使いこなすのに、苦労したと見える』
確かにリカルド様は治癒が私やノアよりも上手い。
その理由は多分、私と参加した魔術訓練での巻き込まれ事故や私の制御不足による魔術を受けての怪我が絶えなかったせいだろう。途中から防御も異様に上達していた気がする。
でもなぁ、私だって努力型だと思うんだけどな。
「ねぇ、オロチ。私も治癒できるよ?」
『出来るだろうが、魔力の多さに頼りきっておる。そのやり方では、しゅいが倒れる』
うぐぅ。確かに力任せなところはある。繊細な魔術って苦手だし。細かいのは身体強化に限るって感じだ。
けど、なんか悔しい。リカルド様は瞳が赤い魔力過多仲間なのに。私だけが上手く制御できてないみたいじゃん。
「姉さんはこれからお米のこともたくさんやらないとだから、リカルドに任せたらいいんじゃない? しゅいもバタバタと教えてもらうより、ゆっくり学べた方がいいと思うよ」
「確かに……。っていうか、魔物に人間が教えられるものなの?」
私の疑問にオロチは満足げに頷くと目を細めた。
『アリアの魔力で能力が大幅に上がったからな。魔族といえど、人間に近いと思ってくれれば良い』
「そういうものなの?」
『われなど元の神聖力が1割り以下だ。ほぼアリアの魔力でできている。難しく考えず、そういうもんだと思っておけ』
そういうものなのか。よく分からない理論や理屈があるのかもしれないけど、私には考えたところで分からない。
うん、考えるのはやめよう。オロチの言うとおり、そういうものってことでいいや。
このままリカルド様がしゅいちゃんを教えることに決まりそうになったその時──。
「なぁ。オレは教えるなんて言ってねーぞ」
いつもより硬い声が響いた。だが、ノアがすかさず言葉を発する。
「えっ、リカルドやらないの? この中で1番暇なのに? じゃあ、僕がやるよ。人に教えるのって自分の勉強にもなるから、またリカルドと差がついちゃうだろうな。チャンスを僕に譲ってくれて、ありがとね」
「やらないとも言ってないだろ!」
「無理しなくていいよ。やりたくないんでしょ?」
「あー、もー!! オレがやるから、ノアは大人しくしとけって!!」
眉間にシワを寄せて声を張り上げるリカルド様。チョロい。チョロすぎる。ノアに操られちゃってるよ。
「じゃあ、しゅいのことはリカルドにお願いするね。教え方とか、困ったことがあったら……」
「師匠に相談すればいいんだろ」
ノアが言い切る前に言うと、リカルド様は席を立った。
「オレ、今日は帰る」
「泊まるって言ってたのに、どうしたんですか?」
「教えるならちゃんと考えないとだろ。次の休みまでに考えて、師匠に相談する。だから、今日はもう帰る」
やると決めたら、責任を持ってやる。リカルド様もずいぶんと成長をした。自分の魔力に怯え、レオナルドと比較されていじけていた少年はもういない。
『へぇ。リカルドって、いいヤツだったのね。子どもに教わるの? って失礼なこと思っちゃったな』
しゅいちゃんは、リカルド様が出て行った扉を見て呟いた。そして、私へと視線を向ける。
『リカルドのこと送ってくるわ』
「うん、わかった。気を付けてね」
「しゅい。王都までは行かないで、キマイで引き返してきてね。場所はリカルドに言えば分かるから」
『何でよ。お家まで送った方がリカルドも楽でしょ?』
「そうかもだけど、しゅいは魔物だから城の魔術師や騎士に攻撃されるよ?」
ノアの忠告にしゅいちゃんは顔を引きつらせながら頷いた。
「なんか、仲良くなりそうだね」
「うん。しゅいは感情に敏感だから、リカルドの理解者になってくれるんじゃないかな」
「……ノアって本当に9歳よね?」
「当たり前でしょ? 何言ってるの?」
いやいやいや。9歳は普通、理解者とか考えないからね。なんて思いながらも、ノアがリカルド様を大事に思っているのが嬉しくて、そっと頭を撫でる。
そうすれば、すりっと手にすり寄って来るノアが可愛くて、ギューッと思いきり抱き締めた。
「ノア、本当にありがとう。私も頑張るね」
突然お礼を言い出す私を見上げ、ノアは黄金の瞳を細めると、少し背伸びをして私の頭を撫でた。
「頑張るね。じゃなくて、一緒に頑張ろうね。でしょ?」
その言葉に目の前が滲んだ。
私のせいでノアまで領地にきてしまった。そのことで、ノアは学園に通わなかったから同年代の友達はリカルド様とジンしかいない。それも、同い年なわけじゃない。
ノアが経験するはずだったことを、私が奪っちゃったんじゃないか。ずっとそう思っていた。ううん、今も思っている。
それでも、私は王都にはギリギリまで帰らない。
レオナルドに会うのが怖いのもあるし、まだまだここでやりたいことがあるから。
「姉さんが何を考えてるのか分かんないけど、僕は自分で決めてここに来たんだよ? それに、来てよかったと思ってる。僕はスコルピウスがもっともっと好きになったから」
「ノア……」
困った子どもを見るように、ノアが私を見てくる。これじゃあ、どっちが歳上だか分からない。
「きっと、これから今より忙しくなるね。それって、すごくわくわくしない?」
ノアの瞳がキラキラと輝く。その輝きはまるで稲穂が陽の光を浴びているみたい。
「うん。わくわくするね。王都に帰るタイムリミットは4年ちょっと。一緒に頑張ろうね!!」
私の言葉にみんなが返事をしてくれる。それってちょっと……、ううん! とっっても幸せだな!! って胸が熱くなった。
──第2章 領地編1~新たな出会い~End──
領地編1~新たな出会い~はここまでです。
次からは番外編を何個か挟んだあと、領地編2へと続きます。




