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妖精さん


 お父様、私、ノア、オロチに、あとからセバスも加わって、1枚の大きなスコルピウス領の地図を除き込んでいる。

 その地図は、オロチがお米の生産に適していそうな場所に印を書いてくれたものだ。


『ここは、人里から離れすぎておるから、米作りにはむかぬ』

「この辺りは既に魔道具師が多いから、農作業はしないだろうな」


「こっちは? これと言った産業もないから、支援すればやってくれるんじゃないかな」

「それならば、こちらの方がスコルピウス家(ここ)から近くて良いのではありませぬか?」

 

 オロチがまとめてくれた田んぼの候補地は100箇所もあった。そのなかから、試験的に田植えを行う場所をフォクス家の人たちが言っていた条件を元に更に絞っていく。

 20箇所まで絞ったら、最終的にフォクス家の人たちに選んでもらう予定だ。

 今回の試験では5箇所を予定している。

 

 

「あれ? べにちゃんは?」

 

 候補地がだいぶ絞れたので、休憩に甘いものでも摘まもうとしたら、べにちゃんの姿がない。

 

「ミモルと出ていったぞ。夫人のとこに行ったみたいだな」

 

 リカルド様はクッキーを両手に持ってむさぼりながら、教えてくれる。

 

「リカルド、せめて1枚ずつ食べなよ。行儀が悪いよ」

「イヤだね。オレはここに息抜きに来てるんだ」


 わざとズゾゾ……と音を出してリカルド様はミルク入りの紅茶を飲んだ。それでも所作は美しく、行動とのアンバランスさが際立っている。

 

「うーん。べにちゃんのこと迎えに行ってこようかな。しゅいちゃんの様子も気になるし」


 私の呟きに、リカルド様はクッキーを紅茶で流し込むと、口を開いた。


「そうしてやれ。ぼそぼそ喋って、ちまちま歩いてたから落ち込んでるんじゃねーかな」

「えっ!? 何で教えてくれなかったんですか?」

「そんなんオレが気にすることじゃないだろ。アリアの眷属なんだから、お前が自分で気付くべきだろ」


 リカルド様の言う通りだ。


 べにちゃんにとって、スコルピウス家ははじめてきた場所で、誰もがはじめて会う人たち。

 それに、人間にだって慣れていない。


 目先のことばかりに気を取られてしまった。私がちゃんと、べにちゃんのサポートをしないといけなかったのに……。


「べにちゃんのところに、いってきます」


 お母様のところに行ったのなら、もう一つの応接間にいるはずだ。謝らなくちゃ……。


 私は身体強化をすると、部屋から飛び出した。

 

 身体強化をして、ダッシュで向かえば、ものの数秒で目的地である応接間に到着する。

 

 

 コンコンと扉を叩き、ノブに手をかける。


「べにちゃんいる? 一人にして、ごめ──」


 そう言いながら扉を開けば、そこは応接間であり、楽園でもあった。

 

『お姉様!?』

 

 私を見て、驚きでべにちゃんのうす桃色の瞳が見開かれる。その姿も言葉にできないほど可愛い。

 部屋の中央には、フリルとリボンたっぷりの桃色のドレスを身に纏った春の妖精がいた。


 その妖精の周りには、色とりどりのドレスやワンピースがハンガーラックにかけられたり、床に散らばったりしている。

 

『お姉様……。べに、かわいいですか?』

 

 そう言って、不安げに首を傾げるべにちゃんの可愛さに、天に召されなかった私を褒めてあげたい。

 我慢したおかげで、これから私もべにちゃんのファッションショーという名の着せ替えに加われるのだから。

 

「可愛いなんてもんじゃない!! 妖精さんだよ! 超絶可愛い春の妖精。べにちゃんの可愛さでみんな心が春爛漫(はるらんまん)だよぉ」

 

 正直な気持ちを伝えれば、べにちゃんはふにゃりと笑った。どこか安心したように。

 

「お姉様は、べにがどんな服を着たら嬉しいですか?」

 

 その一言で、私のスイッチが完全にオンになる。べにちゃんを着飾るため、昔私が着ていた服の海に私は潜ったのだった。

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