1番になりたくて、べにside
べには、ノアくんに勝つにはどうしたらいいんだろ……。
って、考えていたら、オロチさんはお父様とお姉様とノアくんと難しい話を始めた。
何を言ってるのか、さっぱり分からない。
でも、分からないけど、分かったことがある。
それは、オロチさんは、お姉様たちと難しいお話をして、頼られているということ。
それはお姉様にとって良いことのはずなのに、べにの胸はモヤモヤしてる。
『べに、お母様のところに行ってくるです』
小さな声で呟いても、きっと誰にも聞こえない。そんなことは分かってる。
けど、大きな声で言う気持ちにはなれなくて、トボトボとお母様がしゅいさんと出て行った扉に向かう。
「べに様、ご案内致します」
『あれ? メモルさん……じゃない?』
べにの声が聞こえてたのかな? メモルさんっぽい人が話しかけてくれる。
「メイドのミモルと申します。メモルは私の妹ですよ」
にっこり笑ってくれるミモルさんは、とっても優しそう。
『べには、べにです。アリアお姉様の眷属になりました』
「はい。これからよろしくお願いいたしますね、べに様」
この人、優しそうなんじゃない。優しい人だ。
『あの、ミモルさんは何してる人ですか?』
お姉様とはどんな関係なんだろ? べにの相談にのってくれるかな……。
「アリア様の専属メイドをしております」
天は、べにの味方だった! ミモルさんに相談したら、べにはもっともっとお姉様に好きになってもらえるかもしれない!!
べにはね、何としてもお姉様の1番になりたいの。だって、べにの1番はお姉様だから。
お母様としゅいさんのいる部屋に向かいながら、べにはミモルさんを見下ろす。
『べには、どうやったらお姉様にもっと好きになってもらえますか?』
「アリア様は、もうすでにべに様のことが大好きですよ」
『もっとです! べには、お姉様の1番かわいいになりたいんです!!』
そう言いきった時、ミモルさんが一瞬だけど困った顔をしてた。やっぱりお姉様の1番に、べにはなれないのかな……。
「アリア様の好みは熟知しております。私に、べに様がもっと可愛くなれるお手伝いをさせて頂けませんか?」
『いいんですか?』
「もちろんですよ。きっとアリア様も喜びますよ」
『うん!』
ミモルさんのお話だと、お母様としゅいさんは、さっきいた応接間とは別の応接間にいるらしい。一体、いくつ応接間があるんだろ。
お部屋のなかに入ると、さっきの落ち着いた雰囲気と違って、とっても華やか。
「ここは、主に奥様のお客様をお通しするんですよ」
『だから、こんなにパァッて明るい感じなんですね』
部屋を見渡したけど、お母様としゅいさんはいない。そのことをミモルさんも不思議に思っているみたい。
「べに様、申し訳ありません。今すぐ奥様としゅい様がどちらにいるのか、確認して参りますので」
ミモルさんがそう言って、頭を下げたその時──。
「ふぅ……。大量ね!」
『そうね。どれにしようかしら……』
と楽しそうなお母様としゅいさんが、大量の服を携えて部屋にやってきた。
『あっ! 良いところに来たわね。べにのこと呼ぼうと思ってたのよ』
そう言って笑うしゅいさんは、胸元にフリルのついたオフショルダーのワンピースを着ていた。淡いオレンジ色がしゅいさんによく似合っている。
『この色、パステルピーチって言うんですって!』
嬉しそうに笑いながら、くるりとしゅいさんが回れば、ワンピースの裾がキレイに広がる。
『しゅいさん、きれい……。いいなぁ』
『べにも着替えんのよ! ほら、人化して!!』
『でも、人化したら裸族になっちゃうから……』
人として守らなければいけないことがあるって、教えてもらったもん。お母様とミモルさんの前で人化はできないよ。
「ミモル、べにちゃんを手伝ってあげてちょうだい」
『畏まりました。べに様、こちらへどうぞ』
そう言いながら、べにはミモルさんにカーテンの影へと連れていかれた。
「ここでなら、人になっても大丈夫ですよ」
『本当に? 怒られないですか?』
ミモルさんが頷いてくれたので、安心して人化する。
ボッフン!
真っ白い煙が晴れれば、今度はべにが皆を見上げる側だ。
「か、かわいい!!!!」
思わず、といったミモルさんの言葉が響いた。