力関係ってあるよね
さぁ、お昼の後は家族会議だ! 私は落ち着かなかったので先に来て皆を待っている。もちろんミモルも一緒に。
まだかなぁ……、と待っていれば次に来たのはお父様と執事のセバスだった。
「なかなか時間が取れなくて悪かったね。カトレアから手紙が届いた時には驚いたよ。
仕事はセバスに行ってもらえば良かったのに、遅くなって本当にすまない」
「いえ! お家のため、領民のためにお父様が頑張ってくれているって知ってます。私のためにお仕事から帰って来てくれて、ありがとうございます」
申し訳ないけれど謝るのは違う気がしてお礼を言えば、お父様は膝から崩れ落ちた。
「アリアが尊い……」
「そうですな。それは、分かりきったことですので落ち着いてくだされ。それと、そう易々と旦那様の代わりに仕事には行きませんからな」
「セバスが冷たい……」
お父様に対してセバスはにこりと微笑むが、その目は全く笑っていない。鳥肌が立ち思わず腕をさするとセバスは満足そうに頷き、いつもの温和な雰囲気へと戻った。
「セバス、あまりアリアを怖がらせるんじゃない」
のそのそと立ち上がったお父様は、呆れたようにセバスを見る。だが、セバスは気にした様子もなく楽しそうだ。
「いやはや、アリアお嬢様は優秀でありますな。さすがスコルピウス家のお嬢様でございますな」
困り顔のお父様と嬉しそうなセバスを見ている私はきっと令嬢らしからぬ顔をしているだろう。自分でも頬がひきつっているのがよく分かる。
しかし、セバスは全く気にしていないようで私を褒め称え始めた。
「いやー、私の一見穏やかそうな笑みを見破るとはやりますなー! 試しに威嚇も入れて見ましたが、その年齢にして寒気程度で済むとは、天晴れ!! ノア坊ちゃんも大変優秀でございますし、スコルピウス家は安泰ですな。セバスは鼻が高うございます」
「セバス、落ち着け。アリアを困らせるのもやめるように。ほら、皆の分の茶でもミーアと用意してくれ。皆の分、だからな?」
先程まで人の話も聞かずにベラベラ話していたセバスはさっと執事の顔になり、ミーアを引き連れ、てきぱきと用意を始めた。
私の好みも熟知しているようで、ミルク多めの紅茶を入れてくれる。暖かい紅茶を一口飲むと強ばっていた心が少しだけほどけた気がした。
7人分のお茶が淹れ終わる頃、お母様、ノア、ノアのメイドのメモルもやって来た。これで全員揃ったことになる。
ミモルとメモルは戸惑っていたが、お父様とお母様に言われて一緒の席につくと、家族会議が始まった。
スコルピウス家の家族会議は、執事やメイドも参加するらしい。ちゃんと同じ席についてやるってところが、お父様とお母様の人柄が出ていて、誰に対してか分からないけれど少しだけ自慢したい気持ちになった。
「では、早速だが今の状況から整理しよう。アリアが魔力解放されたことで、予知夢と疑われるものを見た、ということで間違いはないか?」
「えぇ。アリアちゃんの夢の話では、レオナルド王子には別の運命の人がいるみたいなのよ」
そうお母様が言った途端、お父様とノアの目の色が変わった。物理的に。二人の黄金の瞳は少しずつ赤みを帯びて、夕日のような橙色へと変わっている。
「アリアちゃん、どういうこと?」
「あの王子、アリアを裏切るのか?」
「「許さない」」
ガタガタとティーカップが揺れ、中身が溢れた。これが、魔力の暴走ってやつだろうか。
「あの、あくまでも夢の中の話だからね!」
「夢の中でも許せない」
「ノアの言う通りだ。今すぐ小僧を始末し──」
「デニス?」
「坊っちゃん?」
ヒートアップする二人を止めたのは、お母様とセバスだった。お父様とノアはまるで蛇ににらまれたカエルみたい。まぁ、そんな光景は一度も見たことないんだけど。
「カッ、カトレア? 冗談だよ? 冗談……」
「セバスぅ、ぼくは何もしてないよ? おとうさまが……」
「ノア! 俺を売るのか!?」
「だっ、だってぇ」
どことなく顔色の悪いお父様と半泣きのノア。そんな二人を見つめるお母様とセバス。
ミモルとメモルは溢れたお茶を拭いて入れ直してくれている。
何か、力関係が分かった気がする。
「デニス、少しは大人になってちょうだい。可能性に過剰反応していたら、守れるものも守れなくなるのよ」
「すまん……」
「坊っちゃんは魔力制御訓練をもっと厳しくせねばなりませんな」
「そんなぁ」
怒られている二人を横目に紅茶を啜る。うん、紅茶はミルクたっぷりなのが美味しいよね。
ミモルとメモルを見習って、私もそっと視線をそらした。