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天使様とお節介君  作者: いくらたべたい
9/15

9.お節介さん(1)

鳥のさえずりと共に俺は目を覚ます。まさしく春の朝という感じだ。時間は6時半、いつも通りの起床時間だ。俺は朝には弱い方で布団から起き上がるのにはいつも苦労していると言ったところだ。とりあえず、今日から学校が始まるので何とか体を起こす。そしてシャワーを浴びる。朝のシャワーは目を覚ますのには最適だ。そしてコーヒーを淹れ買っておいたパンを焼いて食べる。ちなみに俺はガムシロ2個派である。そしてこの一連の流れを済ますのにかかる時間はなんと30分ほど。そこからは適当にスマホをいじったりして過ごしている。今日もいつも通りスマホでソシャゲのログインボーナスを受け取ろうとしていたところでSiscordに一件の通知が来た。それは、『しののん』から一緒に登校しようという旨のメッセージだった。ぶっちゃけ断ろうにも理由が見当たらないので結局俺は詩乃と一緒に学校に行くことになってしまった。


今日も昨日と同じ時間で行くとのことなので俺が予定していた時間と比べると10分くらい早めに家を出ることになった。正直めんどくさいが仕方ないのでさっさと支度を済ませて玄関のドアを開ける。するとドア前には既に詩乃が立っていた。制服の可愛さや差し込む朝日も相まってかなり尊い()ができていたので思わず見惚れてしまった。まぁ男なら誰しも玄関のドアを開けたら自分のことを待っている少女なんてものには憧れるだろう。そんなわけで俺はドアを開けたまま固まってしまっていた(ようだ)


【ふふっ、おはようございます。颯君】


この瞬間の詩乃にはいつもの活発そうな雰囲気は一切なく、まさにAngelic(天使のよう)という言葉で表されるようなおしとやかさであった。流石の俺もこんな一撃を食らえば一発でノックアウトである。ただ、この美しい光景を1秒でも長く捉えようとすることしかできなかった。この時、俺は彼女がアイドルであることを心に刻まされた。


「颯く~ん、お~い。時間が止まってますよ~?」


と彼女が俺の顔の前で手を振ったところでやっと俺は現実に戻ってきた。


「あ…、悪い」

「どうでした?ドアを開けたら美少女が待ってて『おはようございます』って言ってくれるシチュエーション」


どうやら詩乃はいつもの雰囲気に戻ったようだ。


「調子狂うからやめてくれ…」

「まぁその様子だったら、ちゃんと効いてたっぽいですね~。えへへ、どうでした?私のこと好きになりましたか?」


一瞬俺はドキッとする。


「いいから行くぞ。この時間に出るって言ったのはお前だろ?」

「あ~、誤魔化したー!」

「うるせえ」


正直、好きになったかという質問の答えを言うならYESだろう。だが、それを伝えたところでいい結果が待っていないのは目に見えている。俺らの関係性上それは余計にだ。それに、今さっき彼女が雲の上の存在だということはよく分からされたから…。

俺は自慢ではないがそう簡単に心を動かされるようなタイプではない。それなのに、彼女は二度も俺の心を鷲掴みにしてしまったのだ。そんな彼女の歩む道に俺が踏み入ることなど到底できないなんてことは簡単な話だ。そもそも、そんなことは最初から知っていたはずなのに…

『…らしくないな』


「…?なにか言いました?」

「いや、特に。」


俺としたことが思わず声に出してしまっていたようだ。まぁ聞かれてないようだし良いとしよう。

人生で初めて胸が締まるようななにかを感じた朝だった。


今日も電車はがら空きで、詩乃と二人っきり。昨日と変わらない談笑をしていた。でも、昨日より時間が早く感じた気がする。いつの間にか学校前の駅だった。なんというか、不思議な感覚だった。

無事に遅刻もなく学校に着くことができた。教室に着くとそこには既に亮太たち3人がいた。


「おはよう」

「おはようございますっ!」

「おう」

「よーっす」

「お、おはよう」


学校初日だというのに既に5人の輪が出来上がってるのはかなりいいスタートではないのだろうか。昨日話してみて受けた印象は、亮太はガッツリ運動ができる活発系。三波さんはなんというか、イマドキ風?な人だ、結構ファッションだったり流行りのスイーツとか、そういうのが好きだそう。星川さんは…なんていうか小動物みたい?(超失礼)

そこに俺と詩乃を加えた5人だがかなり話が弾むので結構相性もいいのかもしれない。それぞれ知識の幅が広いので結構どんな話でもできてしまう感じだ。今日の朝もそんな感じで結構いろんな話で盛り上がってた。盛り上がっているうちに着席時間を知らせるチャイムが鳴ったので詩乃と別れる。着席時間の20分前には学校に着いていたのだがまだ10分くらいしか経っていない感覚だったので早いなと思った。やはり今日は時間が早く感じる日なのだろうか。


担任の高木先生が朝のHR(ホームルーム)を済ませた10分後くらいから授業が始まるのだが今日だけ一限一杯を使ってHRが行われた。まぁ一通りの説明だったり自己紹介の時間だったりに使われた。ちなみにクラス全員の前で自己紹介をしないといけないこの地獄のイベントだが昨日のことでメンタルというか何かが鍛えられた俺はしっかりと自己紹介を済ませることができた。ちなみに、趣味は音楽を聞くことと言った。流石に先生の前でゲームと言うのも気が引けたし音楽作りというのも無駄な注目を受けそうなので避けた。一限が終わった後は普通に授業を受けた。ちなみに、うちの学校はどうやら高校2年で文系と理系が分かれるようで1年生はすべての授業を受けるのだそう。と言う訳で俺の嫌いな暗記物もしっかりやらないといけないことが確定してしまった。


残念ながら授業の時間が早く過ぎることはなくばっちり3限分受けてやっと昼の時間になった。授業間の休み時間が10分で昼休みが50分なのでゆっくりと皆で話せるのはこの昼休みの時間と朝と放課後くらいだろう。


「私は、購買で買ってくるので先に食べていてください」


と詩乃は昼飯を買いに行った。学校初日の割にはもう購買のことなんかも把握しているよう。

昨日は聞かなかったがあの時の雰囲気的に、AGの5人は多分料理ができない。ということは、5人とも学校での昼食はどうしているかって言ったら購買とかコンビニとかで買うしかないよな…。それだと栄養が偏らないか?というか食という一日3回の生きてる上で最高レベルの幸せのうち1回を毎日コンビニ弁当だったり購買は寂しくないか?などといらぬ老婆心が浮かぶ。まぁ今考えてもどうしようもないので一旦忘れることにする。

その後戻ってきた詩乃も入れて5人で昼の時間を過ごした。中学の時は男陰キャ仲間4人みたいな感じで固まっていたのでこういうスポーツができる活発系の男子だったり、女子が混じっているような輪に入るのはこれが初めてなのでとっても新鮮な気持ちになれた。高校時代は交友関係を楽しむといいと東京に来る前に親に言われたのだが、少しその言葉の意味が分かった気がする。


あっという間に昼の時間は過ぎていき午後の3限の授業も終わり時間は15時半。終礼を終わらせると皆一斉に帰りだす。この学校は放課後も部活などで開いているようだが1年生は明後日に部活紹介という勧誘会のようなものがあるらしい。今日は皆初めての授業で疲れたとのことでそれぞれ帰宅することになった。

そしてまた詩乃と帰路を往く。


「お前、昼はこれからも購買とかで買うのか?」


すると詩乃はギクッとした様子で


「え、ええ。私、朝は弱くて」

「ぶっちゃけさ、お前ら5人って料理できない感じ…?」

「…」


珍しく詩乃は黙った。やっぱり図星なようだ。


「あー、なんていうか。俺がお前らの弁当も作ろうか?」

「えっ、いやそれは流石に申し訳ないです…」

「いや、心配なんだよ。栄養とか偏るだろ?心配なんだよ、お前らは普通の同い年たちよりも大変なんだから…」

「大丈夫ですよ?そこはなんとか…」

「分かった。明日からは俺が作らせてもらうよ。」

「いや、何も分かってないじゃないですか!いいですって流石に…」


そんな詩乃を横目に俺はAGの5人がいるサーバーに、『明日から夕食のついでに昼の弁当も俺が作ろうと思うんだがいい?』と送った。

すぐにメッセージに気づいたのか詩乃が


【もう…颯君はお節介さんですね…。でも、ありがとうございます】


まただ。朝のような普段と違う雰囲気を詩乃は一気に纏い始める。多分俺は彼女のこんな一面を見るたびにこんな気持ちになるのだろうな。これに慣れるのは多分無理だ。

そんな再び時が止まりかける俺を先ほどのチャットの返信が現実に引き戻す。

『やった!お願いしまーす』と理香が。てか、返信早いな。もう少し向こうも忙しくしているのかと思ったがどうやらそんなことはないようだ。他の3人も了承した。凜に関しては『大丈夫なの!?すっごい嬉しいけど負担じゃない!?』などと心配した様子であったが、俺がやりたいだけだから大丈夫だし報酬もいらないし夕食分の報酬が多すぎるので費用もそこから充てられると返した。俺の押しに負けたのか凜もこの内容で頷いた。


5人とも割と喜んでくれているようで正直かなりホッとした。俺は普通、こういう行き過ぎにも思えるようなことは自分からすることはない。そりゃわざわざ相手に嫌に思われたりもしかねないしそれを避けたいというのは当たり前だろう。

ただ、今回はなぜか自分がやらないと、と思ってしまった。それはアイドルとして活躍している彼女たちも、コミュ力が高いところなど若干のステータスの高さ以外は俺らと同じ普通の高校1年生だと知ってしまったからなのだろう。それと、昨日本当においしそうに俺の料理を食べてくれていたのもあったとは思うがな。

それでも、変に思われるかも。なんて考える前に動いてしまったのは俺らしくない。

確かに、俺は『お節介さん』なのかもしれないな。

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