2. 桜稜高校(1)
なんだかんだで帰宅すると時間は20時を過ぎたころだった。中学の頃から割と夜更かしはしていたもので今では25時寝で6時半起きくらいなら普通にやっていける(なお授業中に寝ていた模様)ので今からでも割とやる時間はある。
とりあえず、夕飯を作ろうと思う。コンビニ弁当も好きなのだが今日は自分で作る気分だった。ちなみに食は人生で最大の幸せだと思っている俺は食に関しては一切妥協したくない人だ。最低でも調味料はかなり高級なのを使うことにしている。
両親が共働きなのもあって中学の頃からよく料理はしたのだが、最近は動画サイトでも色々なレシピや調理方がプロたちによって公開されておりそれのおかげで俺の知識や技術も既にプロのレベルに達していると自負している。
実際、この前動画サイトに投稿した料理動画は60万再生を超えており(自分が一番驚いている)割と好評だったりもする。
食事が終わり、明日の準備を始める。
準備とは言っても明日は入学式とクラスでのホームルームで終わりらしいのですぐ終わった。
寝る前に俺が情報発信ツールとして使ってるTritterというSNSで専属作家の件をトリート(投稿という意味で使われているがTritterではトリートというのが一般的)する。ちなみに俺個人での創作活動を制限する内容は契約にはないのでその旨も伝える。
30万ものフォロワーがいるのでやはり宣伝効果は絶大なもので、さらには進行形で社会現象を起こしている「エンジェリックガールズ」の専属作家と来たものだから翌日のTritterはこの話題で持ち切りだった。
こんな感じで俺にとってはまた一つの転機となったであろう一日が終わった。
翌朝、アラームに起こされる。時間はしっかり6時半。いつも通りである。
朝食はパンだけだ。朝は時間がない方なのでどうしても簡易的な物になってしまう。そして、新品の制服を着る。白のワイシャツに左胸あたりに校章が縫い付けられた黒のブレザーとグレーのズボン。まぁ一般的なものだ…と思われる。
そんな感じで時間は7時32分。7時45分発の電車に乗り8時に最寄り駅に到着する。今日の集合時間は8時半ということなので多少余裕を持っている方である。学校初日くらいは余裕を持とうと皆大体この時間に着くようにしてくるだろう。
「俺もついに高校デビューか…。友達できるといいな」
とつぶやきながらドアを開ける。ここまではよかった。
鍵を閉めようとしていた時、隣の部屋のドアが開く音がした。思えば引っ越してきてからバタバタしていたので隣の人と顔を合わせることがなかった。コミュ障俺、頑張って挨拶しようと身構える。するとそこから出てきたのは、白のワイシャツに黒と白のラインが入ったブレザーと赤と黒のチェック柄のスカートの少女。間違いない、うちの高校の女子用の制服だ。
まだここまではよかった。問題なのはそこから出てきた少女に明らかに見覚えがあったことだ。うん、間違いない。昨日の俺のファンだとか言っていた…
あー、そういうことね。完全に理解した(してない)
「あっ!颯さん。おはようございます!」
「えっ、ごめん。全く状況が理解できないんだけど。」
理解が追いつかずにコミュ障が吹っ飛ぶあれで今人生最大レベルのコミュ力を発揮できている自信がある。
「あれ、山井さんから聞いてないですか?私たち、同じマンションに住むことになったって」
いや、全く聞いてないのだが…
あいつこれ知ってたうえで「お前がコミュ症なのは知ってるけどまぁ頑張ってくれ」なんて言ってきたのか?マジでキレそう。
ちなみにここで先日の彼女の「また会いましょう」という言葉の本当の意味に気づき頭を抱える。
「同じマンションどころか高校も同じじゃねえか!?全く聞いてないんだが!?」
「まぁそんなことはいいのです!聞きましたよ?私たちの専属作家になってくれるって話。あの颯さんが私たちのためにまた曲を書いてくれるなんて、嬉しいです!というわけでこれからは一緒に活動していく仲なんですから!一緒に登校しましょうよ!」
まじでどういうこと…?だが道のり完全に同じだし断る理由が思いつかない…
てか、専属作家で思い出したけど、もし俺がその話断ってたらこれどうするつもりだったの?まさか断ったとしても俺のことを逃がす気がなかったのか…?
恐ろしい事実に気付き震える。伸也の奴、やりやがった。
「ハァ…わかったよ…」
「あっ、その明らかな不満そうな態度!現役美少女アイドルを前にしてひどくないですか!?」
「自分で言うんだなそれ…。いや、現役美少女アイドルさんが普通に男と一緒に…なんて方が問題だと思うんですが。そもそも、お前のことを知らない奴の方が今時少ないだろ。普通に高校生活とか無理じゃないか…?」
「そこは問題なのです!そのためのこの眼鏡なのです!」
そういって彼女はごく普通っぽい眼鏡を取り出す。
てかこいつテンション高いな
「えっへん!これでどうでしょうか!!」
眼鏡をつけ自信ありげにこっちを見てくる。
「おっ、おう…まぁ大丈夫そうかも…」
眼鏡をかけた彼女はさっきまでとは違う賢そうなオーラを放っている。ていうか、眼鏡かけただけなのに遠目でみれば「エンジェリックガールズ」の愛花とはわからないくらいには変装ができている。(名前は昨日帰ってから調べた)
「てか、せっかく早めに出たのにもう時間ぎりぎりじゃねえか」
「ほんとだ!では、行きましょうか!」
ぎりぎりとは言っても7分くらいは時間があるのでまぁ間に合うだろう。それより、まさか初日から女の子と一緒に登校って…。まぁ、考えるのはやめよう…。
「そういえば、互いに名前もよく知らないですね…」
「そういえばそうだな…」
「ふふっ、じゃあ私から!早瀬 愛花って名前で活動しているけど、本名は一之瀬 詩乃って言います!よろしくね!」
「俺は柳 颯太っていう。よろしく…一之瀬さん」
「じゃあ颯君だね!ふふっ」
はい出ましたー、こ~れコミュ力です。いきなり下の名前から文字取って君付け。これが国内最強レベル(暫定)のコミュ力かぁ…。やっぱアイドルやってるだけあるわ。すごいなぁ。(涙)
と、この怪物レベルのコミュ力に感動していたところ
「私の名前は、下で呼んでくれないんですか…?」
なんてこった。そんな上目遣いで来ないでくれ。あまりの眩しさに俺が消滅してしまう。
「えぇ、まじ…?」
「まじです!大まじです!これからあんなことやこんなことをする仲ですよ!?いいじゃないですか!」
「いや、言い方!やめて?多分俺が社会的に死ぬから」
「とにかく!下の名前じゃないと嫌です!……だめ…ですか…?」
この上目遣いに勝てる男ってこの世にいるんですか?いや、いないでしょ絶対。
ダメだ。俺の負けだこれ
「え、えっと…詩乃…さん?」
「………詩乃」
「え?」
「さん。は嫌です」
「えっと…詩乃……?」
「それでよし!」
圧に負けた。こんなん勝てるわけがない。これも一之……詩乃のコミュ力なのだろうか。既に俺にとって詩乃はコミュ障の対象ではなくなっていた。
そんな会話をしながら歩いていると、ちょうどいい時間くらいに駅に到着した。電車もすぐに到着した。都内とは言っても端の方なのと朝の通勤ラッシュとは逆方向だということもあって電車は驚くほど空いていた。座席がスッカスカなレベルだった。これは楽でいいな。
唯一問題なのが、ここから15分ほど隣に女の子が座っている状況を耐え抜かないといけないという点である。ていうかなんか距離近いんですけど。詰めすぎちゃう!?
なんかこう見ると猫みたいなんですけど、なんかすごい楽しそうだし。
でもアイドルともなればこれくらいの距離感は普通くらいなのだろうと心を落ち着かせる。
この空間をなんとかしたいと焦りながら話のタネを引っ張り出す。
「そういえば昨日会った時、なんで俺の顔を知ってたんだ?」
「山井さんにあなたの写真を見せてもらったんです!だからすぐわかりましたよ?」
ドウシテ…?伸也は何を考えて俺の写真なんて…。てか、今の状況ほぼあいつのせいだよな。後で問い詰めとこうと心に誓う。
そんなこんなで、なんとか余裕をもって学校に到着することに成功したのであった。
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