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フェイス・マスク -3

「チッ…避けたか」


 斬ったのは、ローブではなく夜の闇であった。


 伯爵邸の屋根に乗り、二人は対峙する。


「私は貴様のやり方を認めない」


「………」


 睨み合う二人。


 最初に動いたのはセレスであった。


 二人の身体が赤い月を背に交差すると同時、火花が散る。


 交わるはセレスの騎士剣と、マキナの右腕。


 セレスの手に伝わるのは硬い金属の感触。


 マキナは手甲(てっこう)だけでなく、腕までも金属の装甲に包まれているらしい。


「ぐっ…」


 セレスはなんとか踏ん張っているが、マキナの腕力に押されている。


 ふっ、と押される力が軽くなった。マキナが力を弱めたのだ。セレスに僅かな隙が生まれる。


 その隙を突き、マキナは攻める。裾の中に隠されたマキナの左手が、凶器となってセレスに襲いかかる。


 完全に、セレスはマキナの掌の上にいたかに思われた。


「───帝剣流、月堕とし」


 しかし、セレスは身を捩って攻撃を躱し、そこで切り返した。大上段からの一撃。敢えて隙を作り、マキナを誘ったのだ。


「どうだ?」


 袈裟斬りにする。その未来が来るはずだった。しかし、セレスが味わったのは堅い刃による返事だ。


「仕込んでいたか!…いや、変形か!」


 途端に繰り広げられる剣の応酬。


 月光に煌めくその刃はマキナの右腕が変形したものだろうと推測できた。


(なぜ今までそれを使わなかったのか。それに、思えばなぜこいつはまるで私を待ち構えるかのように屋根の上にいたんだ?)


 しかし、今はそんなことどうでもいい。


 幾十もの剣閃が飛び交う。セレスは迫る刃を躱しつつも鋭い剣撃を放つ。


「ちっ…これでは埒が明かん…」


 しかし、そう思っていたのはマキナとて同じだったのだろう。


 突然始まった、あまりにも過激な連撃。セレスは対応するだけで精一杯だ。


「応援はまだか!!」


 しかし、その声も虚しく誰も応援にやってこない。


 しかし、そんなことを気にする間もなく、セレスは更なる窮地に立たされる。


 ギィィィィン。


 突然知覚外から現れた鈍色の刃。なんとか眼前で受け止める事が出来たが、セレスは混乱せざるを得なかった。


「──っ!双剣使いか!」


 突然、相手の得物が増えた。


 対応出来ない。セレスはそう考え距離を取る。それに、理解し得ず混乱が抜けないというのもあった。


(やはり、腕が刃になる仕掛けなのだろうが、それは一体どういう絡繰(からく)りだ!?)


「まさか貴様、自分の肉体を、改造したのか…?」


 そんな話は聞いたことがないが、義手のようなものだろうとセレスはいったん理解しておくことにした。


 セレスが一歩踏み込んで斬り込む。正面から受けるマキナは、その勢いに乗じてセレスと距離を取った。


 そのまま、マキナは逃げようと空へ飛び上がる。


「逃がすか!」


 セレスもマキナの背を追い、空に飛ぶ。


 その瞬間、マキナが漆黒の翼を広げた。


「え…?」


 気付けば、セレスは空中でマキナに蹴られ、地へ送り帰されていた。


 翼を使い一瞬で翻り、セレスを蹴り飛ばしたのだ。


 だが、一連の動作が、目でやっと追えるかどうかという程の速さだった。


 セレスは屋根に叩き付けられ、その勢いのまま屋根を突き破る。


 気を失いかけるも、なんとか持ち堪えて気を確かにする。


 ここは伯爵邸の三階、執務室だろうか?


「マキナ、め……」


 痛む体に鞭を打ち、上体を起こす。


 窓から外へ出る。目を凝らしてマキナが飛んで行った方向を見ても、ただあるのは、空を覆う漆黒の闇と、こちらを見下ろす赤い月だけ。


「おのれ許さんぞマキナ! 次会うときは地の果てまで追ってやるからな!!」


 その怒りは、すでに離れたマキナには遠く届かない。

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