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フェイス・マスク -2

 連日帝都を賑わしているマキナは、決まって夜に活動する。それも、誰もが寝静まる頃、深夜の真っ只中である。


 セレスは営所で仮眠をとり、真夜中を待った。


 そして……


「来たぞ! 7-8地区(しちはち)、リーベルグ伯爵邸にてマキナ確認! 営所にいる者は直ちに整列せよ! 繰り返す! マキナ確認! 速やかに逮捕へ向かう! 総員、武器の使用を許可する!」


 年配の騎士が呼ぶ声に、各員は手早く支度を済ませ集まる。


「「「ただいま揃いました!」」」


「よし、では行くぞ!」


 皆、一様に凛とした面持ちである。


 マキナのせいで帝国騎士団は無能集団の誹りを受けている。不名誉な評判を雪ぐため、騎士の誰もがマキナを捕まえてやろうと躍起になっているのだ。


 現場に着けば、執事やメイドたちが屋敷の前で右往左往していた。


 聞けば、もうマキナは屋敷のどこかに潜んでいるらしい。


「全員、突入!!!」


 隊長の命令で、騎士たちが屋敷になだれ込む。


「いたぞ! こっちに……ぐぁ!」


 発見した騎士は即座に倒された。


 その声に駆けつけたセレスたち騎士は警戒を強くする。


 そこにいたのは、なるほど新聞に書かれていたのと、まったく同じ姿をしていた。


 マキナは闇に紛れるように、漆黒のローブを着ている。しかし、顔を覆っている金属製の仮面がその存在を強く主張していた。


 鈍色の仮面は不気味で不快な笑みを浮かべている。悪趣味極まりない、とセレスは思った。


「このっ!ぐぁっ」


 勇んで斬りかかった騎士の一人が倒された。


 殴る、蹴る。


 マキナの攻撃は至って原始的だが、鍛え抜かれた騎士を一瞬で倒すとは、並の技量ではない。


「おのれ、よくも!」


 多くの騎士は仲間を倒されたことに激昂していた。しかし冷静に数人の騎士がマキナを取り囲む。


「覚悟しろ!」


 周囲の騎士たちは一斉に剣を振りかぶる。


 マキナは絶対絶命か、に思われた。


 だが、騎士たちの剣閃はマキナを避けるような軌道を描く。否、マキナが手甲(てっこう)で剣閃を全て逸らしたのだ。


「ほう…」


 セレスは攻撃を仕掛けず、離れた場所から観察に徹することにした。マキナの実力を見極め、弱点を探り出すのが目的だった。


 騎士たちの猛攻をいなした後、お返しとばかりに反撃に移るマキナ。騎士たちは密集したせいで思うように動けない。


 騎士たちは次々に倒されていく。


 最後、その場に立つのは一人、マキナだけだった。


 と、そこで騎士たちが固まっている隙に、マキナは懐から取り出した何かを床に叩きつけた。


「煙幕か! 追え!」


 誰かがそう叫んだものの、時すでに遅し。煙が晴れる頃には、マキナは何処かへ逃げ去った後だった。


 騎士たちは直ちに捜索を開始する。


 見失ったとはいえ、まだ屋敷の敷地内からは出ていないはずである。


 しかし、探せど探せど、マキナは見つからない。


「もう逃げられてしまっただろうな…」


 セレスは「またか」と思い、ほぅ…とため息を吐いて、空を見上げた。


 今宵も変わらず赤い月だ。しかし、そこには明らかな違いがあった。


 屋根の上に浮かぶ赤い月には黒い人影がかぶさっていた。こちらを見下ろし、嘲笑うかの如く、不気味にマスクが笑っている。


「いたぞ! マキナだ!!」


 セレスは間髪を入れずに叫ぶ。


「みんな上を見ろ!! 屋根の上だ!!」


 セレスは腹の底から声を張り上げ、応援を呼ぶ。


 だがここでマキナに逃げられては困る。セレスはマキナの逃亡を阻止しようと決意し、屋根を見上げる。


 マキナは悠然とそこに立っている。セレスのことなど眼中にないとばかり、身動きひとつ取らない。余裕綽々といった態度である。


「舐めているのか…! 覚悟しろよ、マキナ!」


 セレスは剣先をマキナに向ける。『これから攻撃をします』という合図である。いくら頭にこようと、騎士としての礼儀は忘れない。


 だが、マキナが立つのは、三階建ての伯爵邸の屋根の上。普通にジャンプしても届かないだろう。


(一刻も早く騎士団が被った汚名を払拭せねばならないが、逃げられては次いつ遭遇できるか分からん。ならばなんとしても、いま捕まえなければ…!)


「──帝剣流、空狩り!」


 足に魔力を巡らせ、筋力を増強してからの力一杯の跳躍。更に、そこに振り上げた剣の遠心力が追加され、鎧を着込み、重たいはずのセレスの体はいとも容易く夜空へ舞う。


 一閃。


 セレスの騎士剣が、漆黒のローブを捉える。

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